第六話 盗賊との攻防
声が聞こえた。
内容までは聞こえなかったが、誰かが何かを叫んでいるようだ。
もしかしたらこの声を聞いて野良のアンデットが盗賊に襲いかかってくれるかもしれない。
また、話し声が聞こえる、今度はそこまで大きな声じゃない。
だんだん盗賊が近づいてくる。
落ち着けもうすぐ、もうすぐ盗賊がダンジョンに入ってくる。
なんとしてでも盗賊を殺して生き残るんだ。
足音も聞こえる。
ダンジョンに入ってきたな。
ダンジョンの入り口を見てみると3人の盗賊がいた。
先に3人だけ?8人いたはずなのに?
様子見か?
とにかく敵の数が少ない今がチャンスだ。
「ゾンビを解放しろ」
俺は小声で言ったが配下のアンデットにはちゃんと伝わった。
野良ゾンビが動き出し、盗賊たちに襲いかかる。
一番前にいた盗賊は複数のゾンビをさばききれずかみ殺された。
アンデットになって忘れていたが、このダンジョンの中はかなり暗い。
この暗さのなか急に襲いかかられたから不意を突くことができたのだろう。
盗賊が死んだときの悲鳴と生きているやつが助けを求める声がダンジョン内に響いた。
これはダンジョンの外に聞こえたな。
まあ今は一人削れただけでも十分だ。
追加で入ってきた盗賊は4人。
1人足りないが外で見張っているのか?
見張りが1人ぐらいだったらグールで倒せるから大丈夫なはずだ。
それにまだこれだけゾンビが残っている。
こいつらを倒すのに少しは時間がかかるはず、・・・そう思っていた
だが、たった一発でゾンビを3体倒すことができるやつが現れた。
盗賊の中にいる斧を持っているやつ、そいつが強かった。
最悪の予想が当たってしまった。
あの斧を持っているやつは恐らくランク3だ。
こんな雑魚ダンジョンあいつ一人で終わる、終わってしまう。
ああっ、生きてた頃ならあのていどの相手、絶対に勝てたのに。
早く撃たないと取り返しがつかなくなる。
魔法を使うやつじゃなくて斧を持っているやつを狙うか?
予想以上の敵に戸惑っているとダンジョンの外から悲鳴が聞こえそれにつられて斧を持っている盗賊がこの部屋から離れて行った。
今だ、今しかない。
「スケルトン・アーチャー、撃て」
今のうちに他の盗賊を片付けてあいつ一人に全戦力を注ぎ込む。
ダンジョンの天井は低く、山なりに弓を射ることができない。
だから後ろに置いているスケルトンを跪かせて土台にする。
これで回りより少しだけ高くなり直接弓を射ることが可能になる。
暗闇からそれもかなりの至近距離から飛んでくる矢に反応できる者はそういない。
もしいたとしてもこんな小さな盗賊団にいることはない。
俺とスケルトン・アーチャーが放った三つの矢はすべて盗賊に命中した。
しかし当たった対象はばらばらだ。
俺の矢は魔法を使える盗賊に当たり、スケルトン・アーチャーはそれぞれ近い相手に当たった。
今ので二人が怪我し、一人が頭に矢が刺さり死んだ。
これで一人倒すことができたが、俺は重大な失敗をおかしてしまった!
命令するときに当てる対象を言うのを忘れていた!
ここで確実に魔法を使える盗賊を殺すつもりだったのに。
俺の矢は、肩の付け根に当たりそこから血が流れている。
だけど全然致命傷じゃない。
あの程度の怪我ならまだまだ動ける。
「スケルトン・アーチャー、俺が狙ったやつを撃て!」
今度こそ止めを刺そうと弓を引いたが、魔法を使える盗賊が肩を抑えたまましゃがんでしまった。
あれじゃあゾンビが邪魔で狙えない!
あいつがいなくなれば後はかなり楽になる。
どうする、どうする。
迷ったのは一瞬だった。
「スケルトン・アーチャー、先にゾンビと戦っているやつを撃て!」
ここからだと直接狙えない。
だったらゾンビを抑えているやつを先に倒して戦線を崩壊させる。
戦線を維持することができなければ、後ろにいる魔法を使える盗賊をゾンビに攻撃させることができる。
二射目もすべて盗賊に当たり、二人殺すことに成功した。
これで残っているのは、ランク3の斧使い、魔法を使える盗賊、無傷の盗賊だけだ。
行ける、このままこの部屋にいる盗賊を倒し切って一番強い斧使い倒せば、っ!
「なんでこうなってやがる?」
もう戻ってきた。
予想より早い、でもこの部屋の状況に驚いている隙に!
三射目、三本の矢はすべて斧使いに向かって飛んで行った。
この距離、この暗さ、そして完全に不意を打った攻撃!
これ以上最高の攻撃はできない。
頼む、これで死んでくれ!
しかし、弓の風切り音が聞こえたのか、殺気があったのか、それとも第六感のようなもので分かったのか、そのどれでもない何かで分かったのか斧使い一瞬で顔の前で腕を交差させて矢を防いだ。
一本目は斧に当たり弾き返され、二本目は胴体に当たったが革鎧によって浅くしか刺さってない。
三本目は腕に突き刺さったが腕を動かせなくなるほど怪我をしているわけじゃない。
終わった、今ので倒せなかったらどうやって倒せばいいんだ。
「ファイヤーボール」
ただでさえこの状況に絶望しているのに、さらに最悪なことが起こった。
生き残っていた魔法を使える盗賊が魔法を放ったのだ。
しかもアンデットの弱点属性である火属性の攻撃だ。
今の魔法で一気に盾が無くなった。
残っている戦力は野良ゾンビ10体ぐらいと配下のゾンビ2体、ゴーストが1体、スケルトンが5体、スケルトン・アーチャーが2体、そして俺だけだ。
元の半分以下、たったこれだけだったら数で押しつぶすこともできない。
どうすれば、どうすればいい。
「ファイヤーボール」
「オラッ」
今の攻撃でもうゾンビが全滅した。
少し離れたところにいる斧使いにスケルトン・アーチャーが矢を放っているがすべて斧で弾き返されている。
そして肩を抑えながら座り込んでいる魔法を使える盗賊が目に入る。
目に入る?・・・射線が通ってるー--!!!
今だ今しかない!
俺は慌てて弓を引き、矢を放つ。
矢は魔法を使える盗賊の額に吸い込まれるように飛んでいき、当たった。
よっしゃー!これでやつらはもう魔法は使えない!
「ゴースト、行け!」
ずっと後ろに隠れていたゴーストが斧使いに向かって滑るように移動する。
「来るな、この野郎!」
斧使いは斧でゴーストを斬ろうとするが、ただの斧で斬れるわけがない!
ゴーストに向かって振り下ろされた斧はゴーストをすり抜ける。
ゴーストはそのまま斧使いに纏わりついた!
斧使いは腕をめちゃくちゃに振り回しゴーストをどかそうとするがそんなことできない!
ゴーストは触れている相手の命を吸い取る。
相手がランク3だから倒すまでかなり時間がかかるが、一方的に攻撃できるならもう勝ったも同然!
そしてさらにスケルトン・アーチャーの攻撃により少しずつ傷が増えていく。
斧使いがゴーストに気を取られているうちに残っているもう一人の盗賊を攻撃しないと!
弓を引き生き残っている盗賊に矢を放つ。
だが矢は盗賊にあまり深く刺さらず殺すことはできなかった。
やっぱりっ、俺じゃあ威力が足りない!
俺の弓だと殺すことができない。
前衛は皮膚や筋肉、骨が頑丈で矢が深く刺さらない。
俺の力では後衛のような柔い相手か、柔らかい目などの急所しか通用しない。
せめてランクが同じだったら殺せるのに!
ランクの差が大きすぎる!
今斧使いを攻撃しているスケルトン・アーチャーに盗賊を攻撃するように命令するか?
でも斧使いが冷静になる前にできるだけダメージを与えておきたい。
とにかく土台に使っていたスケルトンに攻撃させるか。
いや、待てよ。
そうだⅮP!
忘れかけていたが、ダンジョン内で戦ったのはⅮPを回収できるからだった!
さっきの戦闘で溜まっているはず!
ⅮPを確認する暇なんてない。
さっきの候補の内から出せるだけ出す。
今まではゾンビがいたから後衛のスケルトン・アーチャーを出した。
けど今は前衛がいない!
ゾンビがいなくなった今前衛がいる。
グールかスケルトン・ソルジャーだったら、とにかく安い方、グールだ。
今は少しでも数が欲しい!
奥においてあるダンジョンコアが赤く光った。
そしてそこから赤い光が二つ飛び出しグールになっていく。
二体だけか、もうあまりⅮPは残ってないのか。
残りはⅮPはすべてゴーストに使う。
そしてまたダンジョンコアは光り出し、四つの赤い光がゴーストに変わる。
これでⅮP全部使い切ったか。
とにかく弱い方の盗賊を潰す。
「グール、お前たちはあの弱いやつを狙え、ゴーストは斧を持っているやつを攻撃しろ!」
グールとゴーストはすぐさま行動を起こした。
ゴーストは斧使いに纏わりつき命を吸い取る。
そしてグールは弱い盗賊に向かって走り出した。
「うっ、あ、あああぁぁぁぁ!!」
弱い方の盗賊は襲ってくるグールを倒そうとするが、疲労と怪我のせいか動きが悪い。
盗賊の剣がグールに当たり骨が何本も折れた音が聞こえるがグールはその程度の怪我では止まらない。
剣がめり込みながらも盗賊に攻撃を仕掛ける。
そして攻撃されてない方のグールが違う方向から襲いかかる。
そのグールに対処しようとするが、剣がめり込んで抜けない。
武器を構えることができない盗賊は、あっという間に二体のグールによって倒された。
後はあの斧使いだけだ!
油断はするなよ、あいつは一人でこのダンジョンを攻略できるぐらい強い。
今は五体のゴーストのおかげで混乱してこっちに攻撃してないが、もしゴーストを無視して俺に攻撃したらたった一発で俺は死ぬ。
それだけは何としても避けなければいけない。
逃げるか?
でもダンジョンコアを持っていけない。
俺が仮に逃げられたとしても、ダンジョンコアが壊されたら意味がない。
それに出口は斧使いがいて通れない。
やっぱり今、斧使いが混乱している内に倒すしかない!
残りのスケルトン五体とスケルトン・アーチャー二体、グール二体、ゴースト五体あと俺。
今はスケルトン・アーチャーとゴーストが少しずつ攻撃しているが、死ぬまでまだまだ時間がかかる。
あともう一押し、あともう一押しで勝てる!