第三話 配下
ゾンビを倒した日から三日間ずっとアンデットをダンジョン内に入れ倒すという作業を繰り返した。
アンデットになってからは、いくら動いても疲れないし眠くならない、そして食事も必要としない。
つまり一切休まずに動き続けることが可能だ。
DPをためるのはいくら時間があっても足りないからちょうどいい。
霧もどんどん濃くなり両軍が配置している監視部隊にも見つかることはないだろう。
今日で倒したアンデットの数は200体以上。
三日間休みなしで働いて200体は少ないと思うが、フレッシュゾンビの力だとこれが限界だ。
まずアンデットをダンジョン内に入れるのにそれなりに時間がかかり、さらに倒すのも一撃では倒しきれず何度も攻撃しないといけない。
幸いアンデットはあふれるほどいるので探す時間はたいしてかからない、という見つけない方が難しい。
ダンジョンから一歩でも出れば嫌でもアンデットが視界に入る。
そして今日も何百体目か分からないアンデットを倒し、次のアンデットを取りに来ようと思った時ふと思いついた。
配下を作ってそいつらに作業させた方が効率よくないか?
一人より二人、二人より三人。
絶対に人数が多い方が作業が速くなる。
そうと思いついたらダンジョンコアを凝視する。
魔物を増やすのは大きく分けて二種類ある。
DPを使って魔物を生み出すか、DPを使ってダンジョン外の魔物を使役するしか方法はない。
どちらの方がお得に配下にできるのかは使役する相手による。
DPを使って魔物を生み出すのは常に同じDPを使うが、ダンジョン外から連れてくるのは相手によって変化する。
同じ強さでも配下になるのが嫌な魔物を無理やり使役したら生み出すよりも数倍のDPが必要になり、逆に配下になりたがっていたら生み出すよりDPが少なくて済む。
アンデットの場合はどうなるのだろう?
下位のアンデットは意志がないからなー。
実験してみるか。
試しに新たにダンジョンの近くにいたゾンビをダンジョンに入れる。
ゾンビを生み出すには5DP必要だ。
ちなみにスケルトンは6DP、フレッシュゾンビは5DP、ゴーストは7DPが必要になる。
DPで使役する方法は、対象をダンジョン内に入れダンジョンマスターが対象を見ながらDPを使うだけだ。
DPを使う感覚は持っている物が軽くなる感覚に近い。
俺はゾンビを見ながらDPを使う、と意識した。
使役は簡単にできた。
問題はいくらDPを使ったかだ。
ゾンビを使役するのに必要なのは4DPだった。
この後十体のゾンビに試してみたがいずれも同じ結果だった。
たった1DPしか減っていないが、20DP分を使えば1体分のの差が出る。
200DPだったら10体、2000DPだったら100体も差が出る。
他のアンデットも使役を試した結果俺と同じ種族のフレッシュゾンビは4DPだった。
ゴーストは6DP、1DPずつ減っている。
アンデット系は1DPずつ減る仕組みなのかな?
スケルトンも試してみたかったがこの荒野にはあまり見かけないため諦めた。
スケルトンがいない理由だがその原因はこの霧にある。
この辺りの霧には様々な効果があり、アンデット系の魔物がほんの少しだけ強化されたり、死体がアンデットになりやすかったり、アンデットの気配を紛れさせたりと様々な効果がある。
そのうちの一つに霧に触れている生物の命を奪う性質がある。
この性質はたいして強くなく、人が一日中霧の中にいても生命活動に支障はない。
しかし人間より弱い生物、手のひらサイズの生物だとこの霧の中では一日ほどで死ぬ。
そしてさらに小さい生物、それも目に見えないほどの大きさだったら数分も生きられない。
学者たちは目に見えないほど小さな生物が死体などを分解しているから物が腐ると考えている。
だがここではその小さな生物が生きていけないから死体が腐らない。
だからこの荒野のゾンビは普通のゾンビと比べてあまり臭くなく、乾燥している。
この辺りの知識は生きている時、座学でエスドル荒野について教わった時のものだ。
よし、そろそろ命令してみるか。
今いる俺の配下はゾンビ11体、フレッシュゾンビ1体、ゴースト1体の合計13体だ。
「命令だ。お前たちはこの近くにいるアンデットをこのダンジョン内に連れてこい」
ちゃんと命令の意味が分かるのか不安だったが、アンデットたちは俺の命令の意味が分かったらしく、命令を聞いてすぐに動き出しダンジョンの外に出た。
後は配下のアンデットたちが野良のアンデットを連れてくるのを待つだけだ。
待っている間少し暇なので配下を作ったことによりこのダンジョンがどう変わったのか調べてみることにした。
_______________
名称 なし
DP 172
配下数 13
罠数 0
階層数 1
属性 死
_______________
DPが全く足りないな。
さっきまで200DP以上あったが、アンデットを使役したことでかなり減ってしまった。
でも配下ができたことだしこれからどんどんDP集めの効率が良くなってくるはずだ。
これで効率がよくなったらもっと使役するか。
おっ、さっそく来た。
ゾンビがゾンビの腕を引っ張って連れてきた。
配下のゾンビは野生のゾンビを連れてくると入り口で止まった。
何で止まっているんだ?
あっ、そうか、連れてこいだけしか言ってないから一体連れてきて命令が終わったと思っているのか。
「ダンジョン内まで連れてきたら、また新しく連れてきてくれ。それを俺が命令を解除するまで何度も繰り返してくれ」
ゾンビは命令に従いまた外に出た。
ゾンビの仕事はアンデットを運ぶだけだ、倒す作業は俺がやる。
少しでも魔力量を増やすためだ。
フレッシュゾンビなんかじゃあ生き残ることもできない。
せめてランク3ぐらいまで強くならないと安心できない。
配下を使ってのアンデット集めは上手くいっていた。
ゾンビはともかくゴーストは物質に触れることができないので、同種のゴーストを連れてきたが、俺は今魔法を使えないので倒すことができない。
そのためゴーストにはこの近くの偵察をやってもらうことにした。
霧の中だと目立ちにくいし空も飛べる、偵察にはぴったりのアンデットだ。
アンデット集めは上手くいっている、上手くいっているから起こる問題がある。
もうダンジョン内にアンデットが入らなくなっているのだ。
そして今ダンジョンの中はゾンビがすし詰め状態だ。
俺が倒すよりも集まる方が早い。
そりゃそうか、アンデットを集める担当の方が多いのだから仕方がない。
こうなると配下にも倒させるか?
魔力量を溜める機会はまだまだあるし今はDPを集めるのを優先させた方がいいな。
だとするとどの配下を倒させる?
今いる配下はゾンビ系と霊系だけだ。
だが他の系統のアンデットを生み出すことができる。
どの系統アンデットを強化させようかな?
ゾンビ系の進化先は怪力や再生能力が高いといった特徴がある。
そしてとても増えやすい。
霊系は物理面は何もできないままだが、魔法などで攻撃することができる。
でも魔法系の攻撃に弱いため簡単に一掃される可能性がある。
スケルトン系は器用だいろいろできる。
技術が高く、剣や弓などいろいろな武器や魔法を使うことができる。
無機物系は物理攻撃に強く魔法攻撃もそこまで弱いわけではない。
でも攻撃面が少し乏しく、一定の条件下でしか攻撃できない魔物もいる。
どの系統にすればいい?
うーん、近距離系はたくさんいるからまにあっている。
だとすると遠距離系が欲しいな。
そうなると霊系かスケルトン系か・・・、霊系は魔法に弱すぎるしスケルトン系にするか。
どのスケルトンにしようかな?
魔法を使えるのスケルトンはスケルトンメイジからか・・・げっ、高!
一体につき70DPも必要なのか!
スケルトンから一回進化するだけでここまでDPが必要になるのか・・・。
やっぱり魔法を使えるものだと高いな。
他のスケルトンからの進化先であるスケルトン・ソルジャーやスケルトン・アーチャーは50DPだった。
魔法を使えるか使えないかで必要なDPがかなり変わる。
はあ、高いな。
スケルトン・メイジを生み出すのは諦めるか
かといって他の魔物を選ぶのもな・・・!
そうだっ、スケルトンから進化させればいい!
スケルトン・メイジももとはスケルトンだ。
スケルトン・メイジはスケルトンが数多の命を奪い、魔法適性値が高い個体が進化したものだ。
スケルトンからでもスケルトン・メイジにすることは可能だ。
そうと決まればさっそくスケルトンを生み出す。
魔法適性値が高い個体は選べないから多めに生み出すか。
5体もいれば1体ぐらいはスケルトン・メイジになってくれるだろう。
なってくれないと困る。
そういえば、魔物を生み出すのは初めてだな。
どのように生み出されるんだ?
少しの不安と好奇心を抱えながら俺はダンジョンコアに触れた。
ダンジョンコアが少し赤く光ったと思ったら、そこから赤い光が飛び出てきた。
赤い光はどんどん大きくなり、だんだん変形しやがて人型になり光が消えた時にはスケルトンがいた。
こうやって魔物は生み出されるのか・・・。
残りの4体もまったく同じように出てきた。
あいかわらずダンジョンは不思議だ。
そういえば生きている時スケルトン・メイジについて教わったことがある。
その時のスケルトン・メイジの絵は骸骨がボロボロのローブと木の杖を持っていた姿だった。
スケルトン・メイジはなぜか、みんな同じような格好をするらしい。
スケルトンの時からスケルトン・メイジと同じ様な姿にすればスケルトン・メイジになるかな?
試してみるか。
俺はさっそくボロボロのローブと木の杖を5個ずつ生み出した。
これらは合計10DPでかなり安くて助かった。
よし配下も増えてDPを集める効率もよくなる。
ダンジョンができて三日かなり順調な滑り出しだ。
このまま順調にダンジョンを大きくして生き残ってやる。
そんな決意を胸に抱いていると偵察に出していたゴーストが戻ってきた。
ゴーストは話すことはできないが何となくゴーストが伝えようとしていることは分かる。
内容は人の群れがやってきた、だった。