第一話 プロローグ
新作ですよろしくお願いします。
「嫌だ、死にたく、ない」
ここはエスドル荒野。
またの名は死の荒野とも言われている。
ここは毎年東のギリアニス帝国と西のアロガトン皇国が戦争をしている場所だ。
世界の頂点に位置する二つの大国だ。
俺の名前はルガ。
なぜ俺が戦場にいるのか、それは俺が軍属だからだ。
俺はもともとギリアニス帝国の属国の小国の首都に生まれた。
親は父親一人、母親は俺が小さいころに出て行ったらしい。
父親は仕事はせず飲んだくれの最低な親だった。
小さかった俺を毎日働かせ、その金を父親は賭けごとに使った。
そして、賭けに負けて帰ってくると腹いせに俺を殴った。
その時の俺は11歳でただ殴られるだけだった。
ある日は帝国の人間が街にやってきて魔法を使える人間を見つけるために広場で魔法の適性を調べる検査を行っていた。
帝国の人間が来た理由は、皇国の戦争のための人材を集めるためだ。
俺は親に連れ出されその検査を受けさせられた。
検査自体はタダだったから、もしかしたらと思って連れて来させたのだろう。
調べてみると俺の魔法適正値は6だった。
平均の適性値が2だと考えるとそれなりにいいのだろう。
帝国の人間は俺は帝国軍に入れるため給金や名誉についてしゃべっていたが、俺は暴力は嫌いで軍に興味はなかった。
だが、俺の父親は給金に興味があったらしく帝国の人間と詳しく話していた。
その結果俺は売られた。
そりゃああっさりと売られた、帝国の人間が膨れ上がった袋を父親に渡し俺は俺は連れていかれた。
抵抗しようとしたが、拳が振り上げられ俺の顔の横をかすめた。
拳は俺に当たらなかったが、父親の拳の何倍もの威力の力が横を通り過ぎ俺は死ぬと心の底から思ってしまい反抗する気力も無くなった。
帝国軍に入って最初にしたことは、俺の適性属性を調べる事だった。
売られた時はまだ魔法適性を調べただけで、魔法適性は魔法をどれだけ使えるか調べるためのものだ。
適性属性はどの属性を使えるのかというものだ。
俺の使える属性は水と闇属性。
人類が扱うことができる属性は、火、水、土、風、雷、光、闇の7属性だ。
俺の魔法適性値と適性属性の結果、俺は魔法剣士団に配属されることになった。
理由は俺の適性属性の水はバランス型だが俺の魔法適性値では器用貧乏になり、さらに闇属性は状態異常や弱体化などを使える属性だがこれもある程度近づかないといけないので、接近戦もできる魔法剣士団に配属された。
ちなみに魔法適性値は最大値は10だ。
魔法適正値が7以上で魔法砲兵団か魔法支援団、そして本人が希望したら魔法剣士団に入ることができる。
適性値6以下で適性属性が防御特化の土属性か回復や強化などが使える光属性なら魔法支援団に入ることができるが、それ以外は魔法剣士団、そして適性値が3以下は歩兵団か騎兵団、弓兵団に入る。
そして魔法適性や適性属性関係なく貴族であれば入れるのが騎士団。
ちなみに街などを守る兵団はなく、各領地の貴族の私兵が守ることになっている。
もし魔法適性値が7以上だったら安全な魔法砲兵団に入れたのに。
魔法剣士団に入って分かったことがあった。
魔法剣士団はオールラウンダーで戦場の花形だが、それは魔法適性値が7以上の者だけの話だ。
適性値が6以下の魔法剣士は剣だけだと歩兵団と同程度か劣る程度の強さ、魔法だけだと魔法砲兵団より弱い。
一応歩兵団と魔法砲兵団と一対一で戦えば勝てるがそれでも適性値が7以上の者と差別されている。
他にも魔法適性値が7以上の部隊は第100番台魔法剣士小隊に配属されるが、6以下の部隊は第200から500番台の魔法剣士部隊小隊に配属される。
最初の数字が1かそれ以外で大きく扱いが変わる。
例えば今のように・・・。
軍に入って4年が経ち今日初めて皇国との戦争に参加した。
最初の数日は順調だった。
皇国軍の方が被害が大きく、帝国軍の被害は小さかった。
だがそのせいで上が増長し勝てると思い込み突撃を繰り返した。
突撃を繰り返したおかげで相手の陣地を崩すことはできたが、突撃を繰り返したため軍の疲労が溜まり、陣地を崩して安心しているところに皇国軍にカウンターを決められそのまま敗走した。
そして上は敗走する時失ってもいい戦力として、ほとんどが新兵で構成されている第435から465魔法剣士小隊、約1500人を殿にして撤退した。
その中には俺がいる小隊も含まれていた。
頼りの第100番台魔法剣士小隊は騎士団や司令部を護衛する名目で我先にと逃げて行った。
200番台からの魔法剣士はそれなりに強いが失ってもいい便利な兵士として扱われる。
新兵ばかりの部隊が殿としてまともに機能するわけがなく、皇国が攻撃した途端部隊は総崩れした。
ほぼ全員が逃げ出そうとし自軍の兵士を突き飛ばしたり、暴れたり、転んだりと何が何だか分からなくなった。
俺の部隊は端にいたため逃げるときにそんなことは起こらならなかった。
それを見た俺たちは人が多いところは危険だと感じ一緒にいた仲間と共に後ろではなく斜め横に逃げ出した。
だが、少人数が離れたところにいるのが目立ち、俺の部隊よりも多い人数が追いかけてきた。
荒野では隠れられるところが少なくまくことができない。
かといって振り向き戦うことなんてもっとできない。
一人また一人と倒せていく。
ふりかえると全員死んでいた。
そのことで頭がいっぱいになり気が付くと剣が俺の背中を切り裂いていた。
傷ついた俺に止めを刺そうとしてくるが俺は最後の力を振り絞り魔法を使った。
「ウォーターカッター!」
魔法が当たり敵の首を切り取った。
「ウォーターカッター、ウォーターカッター!」
次々と魔法を撃ち敵兵を殺していく。
追いかけてきた兵士は魔法を使えないらしく死にかけの俺を恐れて逃げた。
ハハッ、全員で反撃すれば勝てたのに・・・。
仲が良かった俺と同じ班のやつらももうとっくに死んでいる。
俺もこのまま死ぬのか・・・。
「嫌だ、死にたく、ない」
殿最後の生き残りだった少年は力尽き地面に倒れた。
殿を文字通り全滅させた皇国はその後、帝国の国境を過ぎ城塞都市に攻め入った。
しかし、巨大な城壁に阻まれ多大な死者を出し撤退した。
結局両者痛み分けという結果に終わった。
だがまだ終わりではない。
両者来年に備え力を蓄え続けるだろう。
次こそ勝者となる為に、だが彼らはエスドル荒野で何が起こるのかまだ知らなかった。
「ここはどこだ?」
目を開けると土の天井があった。
ここは洞窟かな?
何かに違和感を覚えながら周りを見渡してみると人影が見えた。
「すいません、ここはどこですか?」
返事がない。
もしかして聞こえなかったのかな?
「すいませーん」
人影が振り返る。
人影の顔面はぐちゃぐちゃになっていてどう見ても生者に見えない。
あれは、アンデットだ。
「うわっ、く、来るな」
言葉が通じたのかアンデットが来ることはなかった。
なぜ?何で俺を襲わない?
基本的にアンデットは生者に襲いかかる。
一部の知性を持つアンデットは襲わないこともあるが、それは何らかの理由がある場合のみだ。
もし理由が無くなり用済みとなったら生者を殺すだろう。
そして目の前にいるアンデットには知性があるようには見えない。
アンデットに警戒しながら考えていると、ついに違和感の正体に気づいた。
おかしいこんな暗い中洞窟の内部が見えるなんて!
洞窟の中には光はなく、外も夜のようで出口から光が入ってくることもない。
何が何だか分からなくなり頭をかこうとした時、手のひらを見た。
手が白い、白すぎる。
まるで血がないようだ。
それにおかしい!
あんなにアンデットが近くにいるのに警戒しているだけだなんて、普通だったらもうとっくに魔法を撃っている。
無意識のうちに敵じゃないと思ったのか!?
まさか、まさか、俺はアンデットになったのか!?
ハハッ、だから襲われなかったのか。
アンデット同士は知性があるやつぐらいしか戦うことはない。
何で俺に知性があるのか気になったが、とりあえずこの洞窟内を探索してみることにした。
探索といってもこの洞窟は縦横5メートル、高さ3メートルほどの空間だ。
洞窟にしては形が整いすぎている。
俺が知性を持っている原因はすぐ近くにあった。
俺の起き上がったところを見てみると赤いボールがあった。
そのボールを見た瞬間頭の中に情報が書き込まれ理解する。
ここは生まれたばかりのダンジョンだということと、俺はダンジョンマスターになった事を。
はあ、まさか死んだと思ったらアンデットになって生き返ってダンジョンマスターになるなんて、いや死んでいるか。
でも、死ぬのは一度で十分だ。
例えアンデットになったとしても絶対に生き残ってやる。
まあ死んでいるけど。
そういえばここはどこなんだ?
ダンジョンの出口は坂道になっており、そこから外に出てみると見覚えがある場所だった。
人の死体がそこらじゅうに転がっており、アンデットが自然発生し動いている。
俺が死んだ場所エスドル荒野、またの名を死の荒野。
毎年、帝国と皇国が大規模な戦争をしている場所だ。
俺はこんな危険な場所で生き残れるのか。