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七話

タケオさんからの引継ぎもつつがなく終わり、彼女が生徒会室を訪れることはなくなった。


生徒会室の様子も少し変わった。


ゴウ会長や、カズヤさんが仕事をする姿が、たびたび見られるようになったのだ。

……おそらくは最近新たに仲間入りしたムネチカくんが目当てだろう。

カズヤさんはどうだかわからないが、会長の態度はあからさまだった。

―-何をするにもムネチカくんに声をかけ、ついて回る姿には閉口する。


ショウジさんは不定期にふらりと生徒会室を訪れては、何をするでもなく愚痴と無駄口をこちらに聞かせて帰っていく。

正直あまり気分がよくないので、今日はいない、ということに少し安堵していた。




「あ―――――!」

帰り支度をしていた会長が、突然奇声を発した。

「みさみさ!困った困った!」

「なんだってんです」

ムネチカくんがうんざりした様子で会長の元へ向かった。

「こんなの出て来たよ!」

「……」

遠巻きに聞こえてくる内容は不吉だ。


「それ、今日までの提出なんだよね」

「そんな殺生な…」

ムネチカくんがいままでに聞いたことのないような(なさけ)のない声を上げた。

相変わらず気分の悪くなる会長の論旨に、ムネチカくんは奮闘虚しく白旗を上げたようだ。

「…やりますよ、すすり泣きながら。」


渋面を作って帰ってきたムネチカくんの手から、私は無言で紙束の半分を取り上げた。


***


夕陽に照らされ朱に染まった二人きりの生徒会室。

私たちのうち一人が言った。

「君は講堂使用許可願の確認印欄に押印したまえ」

もう一人が言った。

「君は予算策定書の文面を添削したまえ」


互いの気取った言い方を面白がりつつ、二人で手分けして進める仕事は愉しかった。



「遅かったな」

「友人の仕事を手伝っていました。」

「仕事?学生に仕事なんてないでしょう」

「……生徒会役員の仕事です。」

「そうか、」と理解を示した父を遮って、母が水を差した。

「志之さん、制服が乱れているわ。だらしがないわよ」

「…申し訳ありません。部屋に戻って着替えますので、これで失礼します。おやすみなさい」

このようにふとした瞬間に現れる、母の脈絡のなさを不気味に感じ、これ以上は居たたまれないとその場を辞す。部屋を出ると、父母の会話が漏れ聞こえた。

「あれで男だったならどんなによかったろう」

「年頃の娘なのに、身を飾ることにも頓着しないで…社交の場さえあの調子なんですよ、恥ずかしいわ。」

「志之は本当に、生まれてくる性別を間違えたな」


2人の勝手な言い分に腹が立った。

私だってこの性分に満足しているわけじゃない。

私なりに努力もしたし、どうにもならない部分は是非もないので受け入れている。

だが、両親のまるで他人事のような批判を聴くたび、どうしようもない怒りが、私の腹の奥底で汚泥(おでい)のようにわだかまっていた。


あんたらの遺伝子で出来たものをあんたらのやりようで育てたらこうなるんだよ。

気に入らないなら産みなおせ。


…こう考えられるようになったのは、ある意味成長か。

以前の私なら、両親の期待に応えられない不甲斐なさを恥じ、ただただ申し訳ないと小さくなるばかりだったはずだ。

逆境に耐えているという自負が、心理攻撃への反骨心を芽生えさせたらしい。

笑い飛ばそうとして、喉奥の圧迫感に身動きが取れなくなる。


いつもの発作だ。


厭になる。


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