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六話

***


腕時計の針は、18時15分をさそうとしている。


――15分の遅刻だ。


ゆるやかな揺れを繰り返すバスをもどかしく感じる。

終点を知らせるアナウンスに、思わず腰を浮かすと、停車の振動で尻もちをついた。


勒堂学園の職員室。

「失礼します」

(はや)る心を抑えて入室したつもりだが、勢いづいてしまったらしい。

職員のほとんどがこちらを振り返った。

「ああ、さっちゃん、来てくれたのね。」

そう言って近づいてきたのは、かつての副会長・醍醐(ダイゴ) 清祢(キヨネ)先輩だ。


「ダイゴ先輩、遅くなりました!」


小さな背丈にふくよかな体つきの穏和そうな女性で、凛音設立時には、ハヤト生徒会長の影として尽力した。今年の四月に凛音を卒業した後は、勒堂学園に就職し事務員として勤めている。


「いいのよ、生徒会は順調?」


「――はい、見込みのある子が一人、入ってきたので」


思いのほかマサキは呑み込みが早かった。

引継初日なので、まだまだ伝えることはたくさんあるのだが、押しても引いても役に立たなかった他の連中に狎れている身には、手ごたえのある反応が新鮮で頼もしい。


「マリカはどう?」


「話になりません」


「そう……」


ダイゴ先輩が残念そうに眉尻を下げた。

「今後の予定について、伺いたいのですが」

「そうね、面談室を開けてあるから、そこでお話しましょう」




***


翌朝、生徒会室の扉を開くと、意外な光景があった。


カズヤさんが仕事をしている。



「広報のことはカズヤに頼んだから、あいつに振っていいよ」

タケオさんがカズヤさんを親指で差す。

良い笑顔だ。


「じゃ、あとよろしく~」

カズヤさんに向かって挑発的な声をかけ、タケオさんは今日も勒堂へ消えた。


つまらなそうにPC画面を眺めているカズヤさんは、単調な動きを繰り返していた。

不躾だという意識が飛んで、ついつい覗き込んでしまう。

こちらの動きを察したカズヤさんは、PCに体を向けたまま泣き真似をしてみせた。

「わあん、しぃちゃん聞いてよ~、さっちは鬼だあ」

どうやら過去の資料の整理をしているらしい。

膨大な量のPDFが画面上に並んでいる。カズヤさんがそのうちの一つをクリックすると、前時代的な基調で「学徒新聞」と銘打たれた広報誌が目前に広がった。


「あはは~これ、超懐かしいわ~」

そう言って、データを印刷したものを、こちらに差し出してきた。

「よんでみそ~うちの歴史」

ありがたく受け取ると、カズヤさんはにやにやと笑ってPCに向き直った。



***


引き継がれた仕事と目についた雑用を片付け、印刷された学徒新聞を眺めていると、ショウジさんが生徒会室に入ってきた。


「うわぁ、(きた)な。」


ぶつぶつと何事かを呟きながら入り口付近で室内を眺めているショウジさんを見とがめたカズヤさんが、跳ねるような強めの語調で騒いだ。


「あれ!みゃーちゃんだ!めっずらし!どしたん!?」


「べつに…、ていうかわたしも役員なんですけど、来ちゃだめなんですか?」


ショウジさんはカズヤさんをじっとりと見つめて不服そうに唇を尖らせた。


「んーん!いままで来なかったのに、どういう風の吹き回しだろってだけだよ!」


カズヤさんとしばらく応酬をしたあと、ショウジさんはこちらに近づいてきた。


やたらに間合いを詰めてこられて、辟易する。

「聞いた?今の。いままで仕事してなかったくせに、竹尾さんが居なくなったとたんこれだよ。ほんとうんざり」

何がうんざりなのかはわからないが、ショウジさんはこちらの反応には興味がないらしく、よくわからない愚痴をその後も延々と垂れ流した。


「っていうか、しぃちゃんも仕事あるんだ?」

「はい、昨日から少しづつ引継ぎを受けています」

「ふうん」

つまらなそうな声を発し、こちらの手元の資料を覗き込んでくる。

「あ、そこは全部右詰にしないとだめだよ」

「……そうなんですか?」

「そうそ、ここじゃそうなの」





「この右詰は不自然かなあ!ふつうはしないよ!」


そうして言われたとおりに作成した書類は、カズヤさんから強い語調で突き返された。

「すみません」

席に戻ると、近くですましていたショウジさんが耳打ちをしてきた。


「竹尾さんがダメっていったんだよ」

「……」


随分と被害者意識をお持ちのようだが、貴女もなかなか悪辣ですよ、とは直接お伝えすることは叶わなかった。


***

…という私の愚痴を聞いていたムネチカくんが、生徒会に志願した。


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