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五話

昼休憩の時間になった。

私はムネチカくんに誘われて、昼食を共にするために屋上を訪れた。


「おぉい、こっちこっち」


購買でパンを購入するために先に行ってもらっていたムネチカくんが、こちらに手を振る。

その隣にはもう一人、思いがけない人が腰かけていた。


「タケオさん」


「こんにちは」

タケオさんはそう言って、はにかんだ。


「君が随分気にしていたようだからね、直接話すのが一番いいと思ってさ」

「…はは、ありがとう」

鷹揚に胸を張ってみせるムネチカくんに礼を述べて、タケオさんを見る。

「すみません、探偵をするつもりはないんですが、気になって」

「ふふ、気になりましたか」

生徒会室に居る時とは打って変わって、随分とリラックスした様子のタケオさんは、からかうように応えた。

「ええ、…いつも大変そうだなって」

「マサキさん…マサキでいい?」

「ええ、もちろん」

「マサキも、これから大変になるよ。」

「…でしょうね」

目を伏せると、三人の間を強風が吹きぬけた。


「あたし、勒堂から出向依頼を受けててね。来月から向こうに行かなきゃいけないの」


「え」


「もうわかってそうだけど、他の連中にあんまり期待できそうにないんだよね、引き継ぎ。」

「そ、そうですね。」

「だから、今日から君にお願いしようと思って」

「あ、はい」

眼を白黒させていると、タケオさんが吹きだした。

「まあ、勒堂に行っても向こうからサポートはするから。」

「はあ、お願いします…」


**


「しぃちゃん聞いたよ~。来月からタケオさんの代わりするんだって?」

教室に戻ると、ショウジさんが脈絡のない馴れ馴れしさで近づいてきた。


「…ええ、よろしくお願いします。」

「こちらこそ~。会長からLINEきて吃驚しちゃった。っていうかタケオさん無責任じゃない?しぃちゃんに全部押し付けて勒堂に逃げちゃうなんてさ」


言いたいことは山ほどあったが、あまり深入りしたくなかったので、黙って受け流した。



**


放課後、引き継ぎを終えて忙しなく勒堂に向かったタケオさんを見送ると、入れ違いに入ってきた会長がこちらを拝んできた。


「しぃちゃんごめんねぇ!さっちゃん、ちーちゃん先輩には弱いからさあ。」

「なにがですか」

「今朝さっちゃんから聞いたんだあ。勒堂にいっちゃうって…」

「………」

「私たちの給与のこととかもあるし、これからどうしよう…」

もうずっと薄々感じ取ってはいたが、観点が責任者の立場とかけ離れている。


「今月分の給与計算は、タケオさんが引き継ぎと並行して処理してらっしゃいましたよ。学園への支給申請書も一式揃えて決裁に上がっていたはずです。」


「あ、そっかあ、なら、安心だね」


「…いつも、会長の押印が必要ということで、整えた書類を会長が提出してらしたんですよね?」


「あ、そうだったね~」


「あとは、確認していただいて、押印したあと、学園の総務課に届けるだけみたいなんで」


「ん~~、じゃあ安心だね!」


「提出しないと、終わりじゃないですからね」


なんだろう、不安になる。


「総務課ってどこにあるんだろうね?」


「……いつも、してらしたんですよね?」


「んーー、さっちゃんに任せてたからなあ」


「…それって、本来はどなたの仕事になるんです?」


「さっちゃんがしてたなあ」


「………どなたに、権限があるんです?」


「えぇー?まあ…わたしじゃなくてもいいかなって」

「……」


「さっちゃんの後を継ぐんなら、しぃちゃんにお願いしよっか」


「私にはまだ判断できるだけの経験も知識もありません。責任を負いかねます」


「大丈夫だよ!しぃちゃん真面目だから」


「性分でどうにかなるものじゃないと思います。」


理不尽さに抵抗しようと食い下がったが、何故か笑われて終わった。


ショウジさんといい、会長といい、……―――――。

罵詈雑言が浮かんできて、慌ててかき消す。己の品位を貶めてはならない。



***



真夜中の廊下。


のどが渇いて目覚めた私は、台所で水を飲み、寝床に帰ろうとしているところで声を掛けられた。


「お前、さね坊か。」


声のする方を見ると、なかなか会う機会のない政木家の長兄が微笑を浮かべて近づいてきていた。

この兄はなぜか、私のことを「さね坊」と呼ぶ。

「しばらく見ないうちに大きくなったなぁ」

仕事帰りなのだろう、少しよれてはいるが、スーツをきっちりと着込んでいる。

一之(カズユキ)にいさん」

「おう。久しぶり」

「ご無沙汰しております。」

「…学校はどうだ」

「つつがなく」

「…そうか。まあ、元気にやってんなら良い。」

「ありがとうございます」


志之(シノ)


真剣な調子で呼ばれて、兄を見上げる。

手が降ってきた。


「何かあったら、言えよ」


頭を押さえつけるように撫でられて、兄の表情は窺えなかった。


「……」


私はただ黙した。


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