三話
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父母兄弟からの厳しい教育により、私は私の一切に責任を負う事を決意した。
父母の子育てに対する注意不足も、兄弟の認識の甘さも咎めまい。
私がこうなったのは偏に私自身の努力不足のためである。
そう念じて生きると決めた。
そう決めれば、穏やかでいられた。
何があっても、自分にできる範囲で解決する。できないことは諦める。
私の性別を惜しむ父も、言動の端々を論って咎める母も気にならなくなった。
ただ、人の事を尊敬することは難しくなった。
何かに不平を鳴らす人を見るにつけ、
私の思考は、
他人の事をとやかく言えるほどお前は立派かよ、という結論に帰着する。
***
その日生徒会室には、見知らぬ人が来ていた。
「新しい人だあ」
「こら、指さしちゃだめよ」
開口一番にこちらを指さしてそう言った見知らぬ人は、会長に窘められて黙したが、にやにやとこちらを見つめるのをやめなかった。
「しぃちゃんおかえり。クラスには馴染めてる?」
「こんにちは、会長。おかげさまで大事なく過ごしてますよ。」
心配性の母親のようなことをいう会長をおかしく思いながら応じる。
「そちらの方は?」
「この間は来てなかったんだけど、この子も仲間よ。一谷 菜月ちゃん。」
「よろしく~」
カズヤさんはへらりと笑ってこちらに手を振って見せた。
「よろしくお願いします。」
彼女に応じて一礼をすると、カズヤさんは会長に肘を押し付けて、揶揄うようなしぐさをした。
「なに、めっちゃ真面目ちゃんじゃん」
「そうなの。将来有望よ」
会長も嬉しそうに請け負う。
目の前で自分の評価を聞かされ、尻の据わりが悪い心地がする。
愛想笑いもそこそこに自分のデスクへ避難すると、タケオさんがいつものように背筋を伸ばしてキーボードを叩いているのが視界に入った。
「タケオさん、今朝ぶりです」
「んー。」
「私にできる仕事ありますか」
「じゃあこれコピーとって。二十五部」
「はい」
「おお~!さっちが先輩してる!」
カズヤさんが物珍し気に声をかけてきた。
「カズ、うるさい」
タケオさんが煩わしそうに眉をひそめて応える。
「お?強気~。いいのかな~今はわたしのが先輩ぞ?」
「学年上がったくらいでイキってんじゃねえよ。」
「やだこわ~い、ホラ、マサキちゃんが怯えてるよ?」
「………」
辟易はしている。タケオさんというよりはカズヤさんにである。
「コピー、とってきますね」
「お~、いってら~」
「…お願いします」
なんとなく整理してみる。
三年生だというゴウ会長と、カズヤさんは対等らしい雰囲気があった。
タケオさんとのやり取りを見るに、タケオさんも、もとはあの二人と同学年だったと推測される。
ショウジさん曰く、タケオさんは留年しているらしいから、私とショウジさんの同学年になるのだろう。
ここ数日の様子を見ていても、タケオさんが一人で仕事を回しているのは明らかだった。
ショウジさんやカズヤさんが役員と名乗りつつ、具体的な役職名が出てこないのも、なんだか不自然だ。
タケオさんが一人生徒会室に縛り付けられているのは、仕事をしようとしない彼女たちに原因があるのではないかという気がしている。