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29.幼なじみと彼女の対面

 二階からの呼び声に従って、僕と萩月は、真名佳の部屋の前まで来た。

 呼び声の主は僕たちが上がっているあいだに部屋へ引っ込んだらしい。


 真名佳ときちんと話をするのは、萩月にとっても待ち望んでいたことだろう。しかし、昨日の件もあってか、自分から動こうとはしない。僕がドアを開けるのを待っているようだ。


「萩月は、真名佳の部屋は初めて?」


「……はい。式守君は?」


「まあ、割としょっちゅう」


 日課と言っても過言ではないレベルだ。


「そうですか」


「怖い?」


「そりゃそうですよ。昨日、柊さんはあたしの顔を見て倒れたんだし」


「でも呼んだのは真名佳自身なんだから、ここでまた倒れたら真名佳のせいだよ。大丈夫」


「倒れちゃう時点でどっちみち大丈夫じゃないんですけど……、なんか今日の式守君、変じゃないですか? 強引というか適当というか行き当たりばったりというか……」


「強引にいかないと開けない道もあるんだよ」


「またノリでそんなこと言って……」


 萩月はあきれた顔をしつつも、自分からドアノブを握った。

 心の準備をする少しの間。


 部屋に入ると、真名佳はいつもどおりベッドの上に座っていた。


「いらっしゃい、恭ちゃん。つぐみん」


「し、失礼、します」


 萩月はびくびくしながら中に入った。

 真名佳と顔を合わせるのが怖い、というのもあるだろう。

 しかしそれ以前に、部屋の薄暗さが不安感をあおっている。


 再会のシーンにはふさわしくないな……。

 僕は気を利かせてカーテンを開けた。


「うぅ、恭ちゃんまぶしい」


 真名佳は文句を言うが、萩月は少しほっとしていた。


「その……、柊さん」


「まなてぃでいいわ」


 萩月の弱々しい語りかけをさえぎって、真名佳は呼び直しを要求する。

 しかし、萩月も素直ではない。


「ごめんなさい、あのとき協力できなくて……」


「もともとつぐみんには黙ってたのよ。わたしが勝手に遠ざけてただけ」


「それって、あたしを守るために」


「違うわ。わたしが一人でやりたがる性格なの、知ってるでしょ」


 突き放すような真名佳の言葉。

 萩月は口をつぐみ(つぐみだけに)、別件の話を持ち出す。


「……あのあと、あたしが余計なことをしたから、クラスの出し物がメチャクチャになった」


「どのみちメチャクチャだったわ。つぐみんのおかげでギリギリ形になったのよ」


「でも、中途半端に完成してしまったから、最後に、あんな……」


 萩月は言葉に詰まってうつむいてしまう。

 当時のことを――真名佳が不登校になる決め手となった一幕を思い出しているのだろうか。続きの言葉が出てこない。傍観者の僕はそれを待てばいいのか、先を促せばいいのかもわからない。


「あーもう! つぐみん!」


 沈黙が気まずくなるよりも先に、真名佳がキレた。

 立ち上がって萩月の頬を両手ではさんで、無理やり顔を上げさせる。


「むぐ」


「謝るのはもうやめ!」


「ふぇも……」


「でもはなし!」


 真名佳はぐいっと顔を近づけて強引に弱音をさえぎる。

 離した手を首の後ろに回して、そのまま萩月を抱きしめた。


「昔のことは散々考えてきたんでしょ? 考えても答えが出なくて、一人で悩んで、どこにも行けなくなってたんでしょ?」


 真名佳の胸元で萩月がうなずく。


「わたしもそうだったわ」


 真名佳はそう言ってから、ちらりと僕を見た。


「…………まあ、わたしは一応、ギリギリかろうじて一人じゃなかったと言えなくもないけど」


 そのフォローになってないフォローいる?

 というツッコミが出かかったが空気を読んだ。


「だからね、つぐみん。昔のことはもういいの。これからのことを考えましょ」


 萩月はこくりとうなずいた。ずずっ、と鼻をすする音がした。

 真名佳は僕をにらみつけて、あっちを向いてろ、とあごで示す。

 その瞳も潤んでいた。


 女の子二人の泣き顔を見るわけにもいかず、僕はそっと部屋を出た。

 廊下の壁にもたれて、そのままずるずるとしゃがみ込む。


 萩月を教室から連れ出して、口車に乗せて真名佳の家まで連れてきた。

 真名佳には事前にアプリで連絡をして、萩月が来ることを伝えておいた。


 僕がやったことなんて、その程度の小手先だ。


 萩月を泣かせて罪の意識から解放したのは、真名佳とおばさんの許しであり。

 真名佳がかつてのような振る舞いを取り戻したのは、弱っていた萩月を励ますため。


 当事者たちのがんばりが、問題を解決したのだ。


 それでも、まあ、僕もそれなりに。

 やるだけのことはやったし、結果にもつながった。

 肩の荷が下りた気分にひたっても、文句は言われないだろう。


 タバコが吸えたら一服しているシーンだが、未成年なので手持ち無沙汰だ。部屋の中に聞き耳を立ててみたけれど、二人の声は聞こえなかった。


 しばらくしてドアが開いた。

 ジャージをまとった腕がちょいちょいと手招きする。




「わたしとつぐみんがまた同じ学校に通ってたこともびっくりだけど」


 まだ目の赤い真名佳が、ベッドの上で枕を抱いて言う。


「恭ちゃんとつぐみんは同じクラスだったのね」


「ついこの前までほとんど接点はなかったんだけど」


 軽い調子で返事をすると、ギラリと真名佳の目が光った、ような気がした。


「じゃあ今は?」


 真名佳がずいと身を乗り出す。


「二人は今、どういう関係なの?」

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