15.彼女はダブルデートに乗り気ではない
「というわけでぇ、ダブルデートしよ?」
本音では嫌だった。僕も萩月も心の中では首を横に振っていた。
しかし、陽キャの誘いを陰キャが断れるはずもなく。
あっという間にダブルデート当日になってしまった。
実にチャラいイベントではあるが、今日の僕は意識を切り替え、それなりにやる気になっていた。
上手に立ち回れば遼と萩月の仲を近づけることができるかもしれないからだ。
「ごめん、待った?」
先に来ていたニセ彼女に謝りつつ、その私服姿を上から下まで見回した。
薄いブラウンのロングワンピースに、白いシャツを羽織ったコーディネイト。足元はヒールのない黒の革靴を着ている。髪型とメガネは学校で見るのと同じものだ。
総評として、地味ではあるが野暮ったくはない、絶妙なラインの服装だった。
萩月つぐみという女の子の個性にマッチしたおしゃれと言える。
「時間どおりだから問題ないんじゃないですか? ……式守君?」
「あ、ああ、そりゃよかった」
こちらの返事が遅れたのを萩月は見逃さなかった。ニヤリと口元が上がる。
「なんです? 地味な彼女のいつもと違う姿にどぎまぎしちゃってます?」
「よく似合ってるよ。背伸びをしない、安定した地味さだと思う」
「後半が余計ですね……」
萩月はジトッとした目を向けてくる。照れ隠しなんだ、ごめんよ。
「式守君は……、なんだか普通ですね」
「まあ、いつもどおりの服装で、特に気合を入れてはいないけど」
僕はあくまでも自然体をアピールする。事実、今日に合わせて新しい服を買ったりはしていない。
ただ、手持ちの服を総ざらいして、それなりの服装には仕上げたつもりだ。
「男子って平均点やや下くらいの服装なら簡単にできてうらやましいです」
「確かに女子に比べたら……え? 平均点やや下?」
「そろそろ行きましょうか」
萩月はこちらの疑問をスルーし、肩にかけたポーチを揺らしながら歩き出す。
ここは本来の待ち合わせ場所ではない。
そこから数百メートルほど離れたところにあるコンビニだ。
4人で待ち合わせをする前に、2人だけで先に合流しようと、萩月から提案があった。
待ち合わせ場所へバラバラに行って、そこで陽キャ勢と2人きりになるのは気まずいから、というのがその理由だ。気持ちはよくわかる。僕も榎本と二人きりだと間が持たないだろう。
「あまり気は乗らないですけど、せいぜい榎本さんの作戦の駒として動かないと」
「なんだ、気づいてたの?」
「そりゃあ、気づきますよ。うちのクラスの生徒なら誰だって」
萩月はつまらなそうに言った。
榎本ひなたは、天原遼に好意を持っている。
これは我がクラス公然の秘密で、たぶん遼だけが気づいていない。
だから今回のダブルデートは、僕と萩月のぎこちなさを取り除くためというより、榎本が遼と親しくなるためのものなのだ。もちろん僕たちのためにという気持ちがないわけじゃないだろう。だが、それはあくまでもついでのおまけ。榎本にとっての本題は、遼との距離を縮めることにある。
遼と親しい僕に彼女ができたことを、こういう形で利用するとは。
榎本ひなた、なかなかの策士である。
もっともその彼女が嘘っぱちの偽物で、しかも遼の好きな人であるというのは、ちょっと面白い状況だ。
それに、僕には萩月と遼をくっつけるという目標があるのだ。
榎本には申し訳ないが、目標のためにこのイベントを利用させてもらうとしよう。
「というか萩月は、利用されてるとわかってるのに誘いを受けたんだ。遼と顔を合わせるの、まだ気まずいんじゃないの」
「陰キャが陽キャの誘いを断れるわけないじゃないですか」
萩月は相変わらず投げやりだ。
「自分より上の人間の誘いを断るのは、相手に恥をかかせることになります。しかも榎本さんは表面上、あたしたちを助けるために誘ってるんですから。それを断るとなると、榎本さん以上に、その周りの人たちの反感が怖いですし」
諦めたような口調だが、萩月はとてもしっかり考えている。
その慎重さに僕は驚いていた。
人知れず善行を積んでいるかと思えば、人間関係には投げやりなところがある。
しかし決して無関心ではなくて、自分に火の粉が降りかからないように気を配っている。
個人主義のようでありながら、他者との距離感に敏感で。
陰キャらしいような、らしくないような、はっきりしない人間性。
萩月つぐみのことを、このダブルデートで少しでも知れたらいい。
そんなことを考えながら、少し前を歩く彼女の背中を眺めていると――
「式守君」
萩月は前を向いたまま、こちらを見ずに言った。
「あたしと天原君の仲を取り持とう、なんて考えないでくださいね」
「――え」
言葉に詰まる僕を気にせず、萩月は行く先を指さした。
「あっ、二人とも来てますね。ほら、あそこ」
「……だね、榎本さんがちゃんと時間を守ってるの、ちょっと意外だな」
否定することもはぐらかすこともできずに、僕はただ萩月に話を合わせる。
そうして、それぞれの思惑が絡んだダブルデートが始まった。




