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「実は昔、私はキミと会ったことがあるんだ」


「ノル様と、私が……?」


「小さい頃に一人で屋敷を抜け出したこと、あっただろう?」


「……はい」


 たまに夢に見る程度のおぼろげな記憶でしかないし、その記憶の中にノル様の姿はなかったはずだが。


「私の姿に覚えがないのは無理もない。キミはあの日も、今日と同じように獣に襲われ……気絶してしまっていたのだから」


「あ……」


 いつも中途半端に途切れていた夢の中での光景。

 私はノル様に、二度も助けられていたのか。


「キミは自身に魅力がないと思い込んでいるようだが、それはキミの魅力を理解できるものがいなかっただけだ」


 悲しげな表情のまま、ノル様は続ける。


「少なくとも私は、あの日からずっとキミのことを忘れたことなどなかった」


 ともすれば愛の告白ともいえるような言葉を語っているというのに。

 なぜにノル様はずっと、悲しそうな表情をされているのだろう。


「だが、それももう、今日で終わりだ」


(……?)


 何やら雲行きが、怪しい気がする。


「せめて、キミの生活の保障くらいはさせてほしい。キミさえよければあの屋敷にそのまま住んでくれて構わないし、もちろん、別の住居を用意することだってできる」


 ノル様は自身のことを話すときに限って、結構強引に話を進められる方だったらしい。

 こんなところにもギャップ萌えが潜んでいた。


「ノル様、ノル様」


「ああ、もちろんキミの意思を最優先に……」


 まだ何か言い続けようとしていた口を強引に塞いで、とりあえず落ち着かせようと試みる。


「む……」


「なにも終わってなんか、いませんよ」


 ノル様が落ち着いたのを確認してから、私は口を塞いでいた手を放す。


「もちろん、驚いていないなどというのは嘘になってしまいますが」


 しかし、それがなんだというのか。

 私より夜型なのも、どこのなく漂っていた怪しげな魅力も、傷がすぐに塞がるのも。

 吸血鬼であることに起因していたという、ただそれだけのことにすぎない。


「ノル様は、ノル様ですよ」


 何者であろうと、関係ない。

 私の愛しい人。

 少しでも安心させたくて、慣れない笑顔も作ってみる。


「私が恐ろしくないのか、キミは」


「はい、全く」


 むしろ自分をここまで想ってくれている人の、どこに恐れる要素があるのだろうか。

 

「……ああ。そんなキミだからこそ、私も心を惹かれたのかもしれない。


 ノル様が私を抱え上げ、目線の高さを合わせてくれた。


「改めて、私と一緒にいてくれるだろうか?」


「もちろん。私などでよければ、いつまでも」


「……キミでなければ、ダメなんだ」


 月明りの下、再び私たちは口づける。

 互いの存在を確認するように、ゆっくりと。

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