その男、銃を知る
あれから少し経って俺もこの世界に慣れてきた。俺とゼクスの一件以降、俺もセレナもギルドに受け入れられて仲間の冒険者と日々一攫千金を狙い魔物を狩る日々を続けている。
冒険者は危険さえ伴うものの他の職種に比べて時給は素晴らしい。というわけで宿の一室をほぼ貸切感覚で住居にしている。
「おい旅のとセレナ、今からエミアド洞窟の魔物を狩りに行く。飯奢ってやるから手伝え」
「はいはい、クラリア牛のステーキで手を打とうじゃん」
「マジかよ…………来てすぐのクセに味をしめやがって」
「私もそれで!」
ポーチの金貨を確認するゼクスを見てギルド中から笑い声が上がった。なんやかんやで今俺達を一番気にかけてくれてくれているのはあのゼクスだったりする。彼曰く『あの夜の事は互いの水に流そうぜ』らしい。
そうして今日も通い慣れたギルドのドアを開ける。平凡だが楽しい一日が始まーー
「ぐあああ、クソッ! 強え!」
「ちょ、いきなりなんーー」
ギルドに入るなり俺に向かってゼクスが吹っ飛んで来た。今日はどんな手荒い歓迎だと思ったがそういう訳でもないようだ。なんだこれは? 良くて冒険者のケンカトーナメント、最悪道場……いや、ギルド破りのようなものだろうか。
「あ! おはようハルキ」
「おはよ、セレナ。何が起こってるんだこれ? 緊急事態か?」
「ううん。今ギルドに王都からS級冒険者の『ケンセイのアルバ』がこの前のフレイムドラグーンの調査に来てるの。ゼクスさんは……腕試しに戦いを挑んでこんな感じだけど……」
セレナから事情を聞きギルドを見渡すと真ん中辺りに声援を受ける40代くらいの男が自分の肉体を見せつける様に立っていた。浅黒い肌にタンクトップ越しに見えるバキバキの腹筋、見るからに強そうだ。流石はS級といったところか。
「確かにめちゃくちゃ強そうな冒険者だな。でも剣聖って言う割には剣を持って無いけどーー」
「違うよハルキ、あの人の異名は。アルバは初の依頼でゴブリンエンペラー率いるゴブリンの群れ100匹をその拳だけで全滅させた人、拳の方の拳聖なの」
拳だけで魔物を狩る、まだこの世界に来て数日だが俺は断言出来る。そんな事出来るヤツは人間を辞めていると。その辺の雑魚の魔物でも何体かは銃が効かない世界だ。どんな硬い骨を持っていたらそんなことが出来るのか。
「なんだよ怖い目でジロジロ見やがって……ああ、お前は知ってるぜ! 一人でフレイムドラグーンを倒した魔道具使いのハルキだろ?」
「な!?」
アルバがこちらに気づきドカドカ歩いてくる。レベルが上がったとはいえ貧弱高校生の魂は危険信号を鳴らしていた。死んでしまう! だが、見た目で判断するのは早計と言うものだ。アルバは俺の最寄りの椅子に腰掛けると俺を手招いた。
「ハルキ…………」
「大丈夫だ、事情聴取かなんかだろ。ササッと終わらせてくる」
俺はそれに従って向かいの椅子に座った。なんでも来い! 疚しい事なんかーー多分ないぞ!
「だから怖い顔すんなって、リラックスしろリラックス。そうそう、それでいい。俺が呼んだのはただの興味ってやつだよ、ほら! お前が使うっていう魔道具を俺も見てみてぇなって思っただけだ!」
銃の事か。俺はポケットから取り出すように銃を創造してテーブルの上に置いた。アルバは興味ありげにジロジロと見てから手に取って質感を確かめた。
「これの名前は?」
「拳銃だ。一種の武器みたいなものでーー」
「ほうほう、gunか!」
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脳が現実を否定したがっている。まさか、そんなことーーでもこいつは、アルバは確かにこの銃をガンと……そして
「もしかしてこう使うアイテムかぁ?」
そう言って俺に銃口を突きつけた。そんなこともあろうかと中は空砲だ。やれるものなら……誰だろうとねじ伏せる。しかし、数秒俺の目を見てからパタリと銃をテーブルに捨てた。
「本当の目的はなんだ?」
俺は率直に聞く、するとアルバはガタリと立ち上がり俺一人に話しているとは思えない大声で語りかけてきた。
「俺は拳聖アルバ、アルバ・カヴターニだ。ってのはこっちのヤツらに向けた自己紹介、お前にはこっちの方がいいだろ? The United States of America出身のボクシングヘビー級元世界チャンピオン、アルバ・カヴターニ。お前と同じ経歴だ。お前、俺と王都に来いよ」