ハルキ転生!
俺、伊達遥輝は普通の高校生だ。陽キャ達とも無口なクラスメイトともそこそこ上手くやり、人一倍モテたことも無いがバレンタインデーは何度か本命を貰ったことがある。まあ、可もなく不可もなく俺なりに幸せな人生を送っていた。
今日は放課のチャイムと同時に教室を飛び出し、カラオケに誘うクラスメイトに適当な理由をつけて学校を後にした。何せ今日は俺にとって重大な用事がある。
「おい、遥輝ー。カラオケ行こーぜ!」
「悪ぃ! 今日は知り合いの見舞いに行くんだ、また誘ってくれ!」
(なーんてな、今日はラノベの新刊の発売日! ドラマCD入り限定版を逃すわけにはいかねーんだよ!)
少し友人を騙したことへ罪悪感を感じるが気づかないフリをした。今回の特典CDでは物語の根幹に関わる情報が提示されるらしい。古参の俺がそれを掴み損ねるなんて……あってはならない事だ。
階分の階段を一気に駆け下りて昇降口へ、今ならスポーツ大会で陸上部にも勝てそうだぜっ! 履き潰した靴を走りながら正してかけ出す。校門も抜け歩道が見えた。2年近く通った通学路だから信号のタイミングも計算済み、見えている信号が赤に変わってから7秒間青になる事なんてもう常識だ。いける! 間に合う!
体の加速に身を任せ縞模様の引かれた道路を横切る。信号は青に変わってから僅か一秒、余裕だった。がーー
「なっっ!!」
その瞬間、勢いで浮遊した視界の隅に異様な光景が映った。耳元で聞こえる爆音のファンファーレ、まるでファッションショーに出るイケメン俳優になったかの様なド派手な光に照らされて俺は……
ドゴッ!
車にはね飛ばされた。落下した先の地面に自分の鮮血が広がっていく。傷口を押さえようとした手への信号が上手く伝わらず、死にかけのバッタの様にピクピクと動いている。医学に詳しくない俺でもすぐに分かった。
(あ、俺死ぬのか……父さんと母さんごめん。クラスのアイツらともカラオケに言っておけば良かった……)
熱を帯びていた体から一瞬で温度が抜けていって体感は冷凍庫の中のようになった。その頃には既に思考すらも上手く纏まらずに助けに来た運転手と通行人の悲鳴、嗚咽、絶叫だけが俺の頭をボワボワ巡回している。
朝まで隕石のニュースでも見て死にたくねえなんて笑っていた。死なんてそんなものだったはずだ。限りなく日常から遠かったはずだ。
最後の最期で俺の頭に浮かんだのはとてつもなく、死にかけの自分ですら下らないと思えるような妄想。そういえばーー買おうと思ってたラノベのプロローグもこんな感じだったよな。事故で死んで、美少女の神様に転生させられて活躍するやつ。もしもあれがホントだったら……
(俺も……異世界に転生できねえかな)
『利害は一致したな、こっちに引き上げるか』
(お前ーー誰だよ?)
人生最大の疑問を残したまま意識は暗転しーー俺、伊達遥輝の人生は終わった。
* * *
「ようこそ伊達君。神の領域へ」
目覚めると知らない天井、どこまでも神々しい白が感じられて居るだけで心が浄化されそうな空間。いやいや待て! そんな事より今目の前にいるこの男はなんと言った?! 今、神と名乗ったのか?
彼は俺の前に経つと厳かに、それでいて違和感のある笑みを浮かべて俺に告げた。
「君は異世界転生者として転生する権利がある。神のルールであるため詳しくは言えないがーー今のままの年齢、記憶、ついでに『すごい能力』を持たせて転生させる決まりなのだ……受けるかい?」
それは平凡を平穏に生きていた俺を籠絡するには十分すぎるほど甘ったるい言葉だった。
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