燻出ル刻
「位置に付いて、よーいドン。」はアリませんデした。
コツコツと組み立ててた積み木のお城を蹴っ飛ばし、
呼び出し係という名の強制立ち退き勧告が部屋へとやって来た。
首根っこ掴まれいよいよこのお部屋ともお別れである。
バイバイ。今までの私が生きた証。そしてコンニチわ。
これから私の生命を奪おうとする者達よ。
地面にポイと投げ出された私の姿は実に滑稽でアろう?
私が今両手に抱えているのはお気に入りのボールである。
ケラケラ笑うガタイのいい男達が円陣みたく取り囲む中、
私が逃げられそうな方角と言えば家の表の門の方だけであると
言う選択肢の無さにはもはや苦笑いするしかない。
「〇✘◇▽□。」
心細げに私はこの連中の主の名前らしきモノを呼んでやる。
そうそういつもみたいにビクビクと彼の顔を探しながら。
多分コレはあの男の名前なんかじゃない。けれどもこれは
最低限必要な儀式だから。
「〇✘◇▽□。」
ほうら、やっぱリ正しイ意味なんカないじゃない。
だってジリジリと輪が縮まってるもの。一か所を除いてね。
無論逃げずにここに留まるという選択肢もある。
けれどそれじゃアウトな事には代わりはないだろう。
彼らはあくまでも大儀名分が欲しいだけだから。
飼ってたペットが隙を見て逃げ出した。だから処分する。
そしてもしもその事で咎められそうになったらこう云うだろう。
「いやぁまさか2階の部屋から逃げ出すとは思わなかったんだよ。」
「従属の首輪?ペットだしいらんと思ってなぁ。」とか何とか言って
袖の下的なモノ渡して表面上はペコペコしてればイイ。
ね。簡単デショ?ベロしまい忘れてたってケモノだもの問題ない。
「〇✘◇▽□!?」
漸く身の危険を感じた私はアワアワと囲みの薄い方へと逃げ出
そうとぶっとい腕の林の間をすり抜けて行く。
ハシれ。走れ。恐怖の塊達が後かラゾロゾロとやってくる。
此処までは順調だ。誰も私の仕込みに気が付いテない。
あの猫属のお姐さんが暇つぶしにと私に教えてくれた魔法が
私を助けてくれている。「認識阻害」という名のそれは「錬金術」
を利用して描く魔法陣を身に纏うという一種の「戦化粧」。
ホントは彼女の危機感的なモノによるお節介で教えらえた技術
だけどね。夜の舞台は彼女の独占場だっから意味ないとは思うけど
昼間も私をあの男が襲わないか気が気じゃ無かったからだろう。
お散歩ぶっ倒れ事件の時はやって無かったわ。だってあくまでも
私を散歩させているという名目が欲しかったんだから、そんなん
やる必要ないでしょう?後、「認識阻害」の魔法の最大の欠点は
「見破られる」と意味が無くなる事。
だからもし今回出がけに身体検査されてたら、ちょっとばかし
ヤバかったわね。まぁフェイクも仕込んであるからそうそうバレる
事は無いとは思わなかったけど、そこはラッキーかな。
積み木セットは部屋に踏み込んで来た者に対する囮デス。注意を逸らして
彼女を連れ出すという事だけに集中させるという役目を果たしました。