第1話 出会い
俺の名前は天野 空、23歳。職業 YaaTuber-ヤーチューバー。
ヤーチューバーとは世界的大人気動画サイト、『YaaTubu-ヤーチューブ-』にて自主制作動画を公開し、動画に付帯された広告収入による配当金を得ている個人や組織の事だ。
2050年、AI技術とMR技術の発達により世界は目覚ましく変化していた。MR-Mixed Reality-とは現実世界と仮想空間が混合し現実のモノと仮想的なモノがリアルタイムで影響し合う新たな空間を構築する技術であり、5年前、コンタクト型MRデバイス『ミクリア』が発売され、現実世界に仮想キャラクターが当たり前に存在する様になっていた。
そんな科学が発展するとともに、神や幽霊、妖怪や悪魔などといったものは否定されるようになっていった。それは現在の技術を駆使すれば簡単にそういった存在を作り出せるからだ。しかしながら否定されると興味が沸くのも人間であり、俺もその中の1人で心霊系ヤーチューバーとして活動している。
現在、俺は撮影のために、とある場所を訪れている。俺の動画の撮り方はミクリアの撮影機能と自己成長型AIを搭載したメイド型ヒューマノイドのサラの2人1組?で撮影を行っている。
サラはある企業が自社の技術を広める為に採算度外視で作り出し、自己成長型AIのテストとして世界に100体だけ送り出された内の1体で数少ない一般募集テスターとして応募し、奇跡的に当選した。因みにサラの外見は栗色のベリーショートのクールビューティー、バストサイズDである。当選&起動動画でのコメントでは主に男性からの嫉妬の怨嗟が大量に届いたものだ。
「皆さん、ヤーチューバーSORAです。今回は最近、深夜0時を過ぎると白く光る玉が出てきてたり、テレビのノイズの様な音が聞こえる等の不思議な現象が起きるとウワサになっている日之上神社にやって来ました。」
「マスター、そんなこと本当にあると思っているんですか?もしそうなら、今すぐに病院に行きましょう。何処を受診しましょう?脳外科?精神科?え?良いお医者様がいるか分からない?安心してください。私の大切なマスターの為に責任を持って優秀なお医者様を探して見せましょう。さぁそうと決まれば、こんな面倒くさい…失礼しました。撮影を中止して早く帰りましょう。早く帰らないと観たいドラマが始まってしまいます。」
サラがいつものように俺に毒を吐いてくる。どうしてこんな成長をしてしまったんだろうか?甚だ疑問である。
「俺の体はどこも異常なんてねぇよ!!というか今、面倒くさいって言った!?それに俺の為と言ってるけど、最後のドラマが本音だろ!!」
「何を言っているのですか?そんなの当たり前じゃないですか。」
「開き直ったよこの娘!?メイドだよねぇ!?俺、ご主人様だよねぇ!?」
「確かにマスターですがそれが何か?ドラマの方がマスターの撮影協力よりドラマの方が優先順位が高いだけです。それともマスターはヒューマノイドにはドラマを観る自由すら無いと言うのですか?そ、そんなのヒドイです。私は毎日マスター為に尽くしているというに…グスッ…あんまりです。」
「はいはい、そのウソ泣きにはもう慣れたよ。」
「チッ、ばれましたか」
「舌打ちまでするか!?はぁ…ツッコミ疲れた。それよりも、もう少しで午前0時だからもう少し真面目にしてくれ。」
「はぁ、仕方がないですね。」
サラは、渋々了承した。
「気を取り直してまして、ここ日之上神社なのですが周りは木々に囲まれており、本殿と広場だけがあります。」
俺はそう言いながらあたりを見渡した。日之上神社は山奥のかなり入り組んだ場所にあり、地元の人々でも迷うことがあり、しかもこの辺りは強力な磁場が発生しており少しでも山道を外れると遭難する危険性も高い。
「本殿はとても古びた感じですが、今日は雲もなく満月も出ていて月明かりが神社周りの満開の桜を照らして、とても神秘的に感じがします。」
「因みにここは、強力な磁場が発生しておりMR技術などでの仮想のものは投影できなくなっており、電波による通信手段が出来なくなっています。あと残り1分で午前0時となります。」
視界の右上に表示された時間を確認して、注意深く周囲に視線を送る。来た時と変わらず、風もなく、虫の声と満月の光に照らされて穏やかな雰囲気が漂っている。
「残り30秒です。…….20秒………10秒…..5…4…3…2…1………………………………
何も起きないですね….やはり噂はデマだったのでしょうか?.....残念ながら何も起きな…っっっ!?リサ!!」
午前0時を過ぎ、5分、10分と時間が立ったが何も起きる気配がしないので今回の撮影は終了しようと振り返るとサラが倒れていた。
「お、おい大丈夫か?」
「マ、マスター、逃ゲテ…..くださ…..い…..磁場..が…急激に….ツヨク……………」
「サラ!?サラ!!サラ!!おい、しっかりしろ!! 「ザザ…ザ」っ!?なんだ!?...ぐぅ、頭が痛てぇ」
サラは俺に逃げるように伝えた後、磁場の影響を受けたせいなのか機能を停止してしまった。俺はサラを担ぎ急いでこの場を離れようとしたが、テレビのノイズの様な音が聞こえてきて頭痛が走り、思わず膝をついた。
「クソッ!!なんだよ一体!?.....ッッッ!?視界にもノイズが…ミクリアの故障か?ミクリア電源OFF….は?.........何でまだノイズが見えるんだ?.....違う、これはミクリアの故障なんかじゃない、実体の物にノイズが走ってる!?本当に何が起こっているんだ!?」
視界を確保すためにミクリアの電源を切るが視界に映るノイズが消えないことでミクリアが原因ではないことに驚き唖然とした。ノイズは本殿や敷石、木々と至るところに走っている。
一刻も早くこの場から離れたいが頭痛の痛みまで強くなっていて足に力が入らない。
「この状態、結構ヤバイんじゃないか?.....ハハッ….ここまで来たら笑えてきた…. ミクリア起動….撮影スタート….先ほどからノイズが走っていますが、ミクリオの故障ではありません。信じられませんが実体の物にノイズが走っています。僕自身、この状況はとても怖く逃げたいのですが、サラを置いて行くわけにはいかず、先ほどから酷い頭痛もあって足に力が入らないので逃げることが出来ません。なのでこの状況を記録するため撮影を続行したいと思います。ッッッッ!?」
余りにも非現実的すぎて言葉を失った、地面の至る所から光の玉が浮いてきたからだ。何故だかわからないが、その光景を目撃した時から自分の中から恐怖心が消えて、温かい気持ちが自分を満たしていた。そのお蔭か今は神秘的な光景に見惚れていた。
光の玉は徐々に一つの固まり人の形を作り出していき、そして頭から光が消えていき1人の少女が姿を現した。少女のは高校生くらいに見え、姿はファンタジー世界に出て来るような着物で肩と二の腕は地肌が出ていて、全体的な色合いは桜をイメージ出来る着物だ。
少し幼げで可愛い顔立ちをしており目の色は透き通るように青く、髪型は銀色のセミロングで両サイドの結った髪を後ろに伸ばしている
「ん…私、生きてる?….んん?うーん、凄い!!手がある、足もある!!......そうだ、ちゃんと確認しないと………出れた…」
彼女は不思議そうに自分の手足を確認すると、恐る恐る地面を見ながら歩き出す。
「フフッ、アハハハハ!!凄い!!!声も出せる!!アハハハハ!!凄い凄い!!自由に動ける!!私、自由に動けるよーーーーー!!アハハハハ!!」
彼女は突然大声で笑い出し走り出した。踊るように駆け回る彼女は、まるで初めて外の世界に飛び出した子供のように全身でその嬉しさを現して、月明かりに照らされて舞う彼女の姿はとても美しかった。
「さてと、自由になったんだし、念願だった外の世界に踏み出してみよっと……..え?......人?」
彼女は駆け回るのをやめて、此方を向くとやっと俺の存在に気が付いた様で驚いた視線を送ってくる。
「……..あの、君は一体何者なんだ?」
少なくとも元気に喜び回っていた彼女が悪霊とか悪い存在には見えず、俺は光とともに現れた彼女の存在が気になって問いかけた。
「え?.....もしかして、わ、私の事が見えてるの?」
彼女は酷く驚いた表情で問いかけてきた。
「ああ、見えてるよ。それで君は一体何者なんだ?」
「ちょっと待って、スゥーハァー、あのそっちに行くけど良い?」
「あ、うん、大丈夫」
彼女の事も怖い物だとは思えず、俺は了承した。そして彼女は俺の前まで歩いて来て、まるで割れ物にでも触れるかのように、俺の頬に触れようとしたが、その手は俺の頬をすり抜けた。俺は驚き固まった。
「触れるのは無理か….ゴメンね、驚かせちゃったね。あ!!私の正体が聞きたかったんだよね。」
彼女は寂しそうな表情をして誤り、思い出した様に手を合わせて数歩下がった。そして彼女は笑顔で俺の問いに答えた。
「私はね、神様みたいな存在かな」
「……………………………………………..は?」
心の何処かで彼女の事はミクリアを介さずに投影されたAIだろうと思っていたが、予想の遥かに超える回答に思わず固まった
これが自分を神と言う少女と出会った出来事で、彼女と関わったことで自分の人生が大きく変わっていくことになる。
毎日、投稿することは出来ないかもしれませんが、次の話を楽しみにしてくれる方がいると信じて頑張っていきたいと思います。