プロローグ
初めはただその場にいるだけの存在だった。何も考えず、動こうともしないで時間だけが過ぎて行った。多分数年が過ぎたころだったと思う。一組の男女が訪れてきた。いつもは迷い込んできた森の動物しか見たことがなかった私はいつもとは明らかに違う生き物に初めて興味という感情が沸いてきた。
「ねぇ、ここ何処よぅ、温泉なんてないじゃない」
「おっかしいなぁ、やっぱりあの道を右に曲がったら良かったなぁ、てか何でこの辺はスマホの電波が届かねぇんだよ、めんどくせぇ」
「そんなのどうでもいいわよ、こんな古びた神社に興味なんてないし、早くし戻らないと日が暮れるじゃない」
どうやらこの男女も迷い込んできたらしい、私はまた、この生き物がいつ現れるか分からないと思い話しかけてみた。
「貴方たちは何処から来たの?」
「…..何かテレビの砂嵐みたいな音聞こえない?」
「ん?俺は全然聞こえないけど…..」
「えぇ!?そんなこと聞いたら何か気味が悪くなってきた….早く来た道に戻ろうよ」
「そうだな、そうするか。」
「……………」
どうやら、あの生き物たちには私の声は聞こえず、姿も見えないらしい。ふと地面を見ると男がスマホと呼んでいた物が落ちていた。私は気になったが、手も足もないから触れることが出来ない。それでもあの生き物達が落としていったスマホが気になりじっと見つめた。すると突然画面が光りだして、私の中に膨大な情報が駆け回った。
そしてこの時に自分が特別な存在で、特別な力があることに気が付いた。スマホから得た情報で先ほどの生き物は人間ということ、外の世界は美しい景色や美味しい食べ物、人間の愛情や友情、輝かしいものに溢れてる事を知って外の世界に行ってみたいと思ってこの土地を出ることを決意した。
でも、結果的には私は外に出ることは出来なかった。生まれた場所から数メートルも離れると急激に力が抜けて存在が消えてしまいそうになったからだ。どうやら私の生まれた場所はは龍脈が複数交差する場所で、そのお蔭で私の様なものが存在を維持できているらしい。それなら龍脈の力を多く取り込んで、外でも存在できるようになれば良いのではないかと思って見たが、これも失敗した。龍脈の力が大きすぎて途中で意識が途絶えた。感覚的に私の器?格?の様なものが小さいのか一定以上の力を取り込む事が出来ないみたいだ。多分、無理をすれば私の存在が龍脈に流れて溶けてしまうかもしれない。
それでも外の世界に対する憧れは薄れず、時折訪れる人間に対して対話を試みる為に声をかけたり、自分の力を使って自分の姿を見せようとするも、私の姿は光の玉の様なものであり、驚かれたり怖がられたりで、声に関しても聞こえたとしても、人間には聞こえないかテレビのノイズの様な音にしか聞こえないから会話も成り立たない。だから人間も早々に去っていった。何度か神職の人や霊媒師がやって来て期待しだが、そんな人たちでも私の声を聞くことは出来なかった。
最初は人や外への興味から、次ならきっと大丈夫と思って頑張っていた。しかし数十年の月日が経っても私の声を聞ける者は現れず、私の心は疲弊していた。声も届かず、手がないから何かに触れることができない、足が無いから大地をかけることもできない、何で私は生まれてきたんだろう。最近はそんな事ばかり考えている。私に寿命といったものがあるのか分からず、このまま誰とも関わることが出来ずに、ずっと1人で生きていかないかもしれない。そう思ったら凄く怖くなった。あるはずの無い体が震えた気がして、心がバラバラになりそうだった。そんなのは嫌だった。だったら、どうなるかは分からないけど、1度やって諦めた龍脈の力を使ってみよう。上手くいけば何かが変わるかもしれない、例え私という存在が消えようとも、このままずっと1人でいるよりマシだ。
そして私は意識を集中させて龍脈の力を取り込んでいく、強大な力の奔流に何度も意識が途切れそうになるなか、私は絶対に外の世界を見に行くんだ、もう1人嫌だと自分に言い聞かせて、どんどん力を溜めこんでいき、集中力を高めていった。
いつもだったら気付くはずの人の気配に気付かずに……..
小説を読もうで投稿小説を読み始めて約7年、自分でも小説を投稿してみたいという思いが膨らみ続けて、やっと書き始めました。自分でも投稿するまでに、かなり長い時間がかかったなと思いますが、温かい目で見守って頂けると幸いです。