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第7話


 ガラガラ!ピシャン!!!


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


「エレナ、どうかしたの?」


 真っ赤な顔で息を上がらせて休憩室に飛び込んで来たエレナに先輩侍女が声を掛けた。

 この部屋は侍女達が交代で昼休憩を取ったりちょっとお茶を飲んだりと入れ替わり立ち替わり常に4,5人は誰かがいる感じだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、さま、かた、だだ、どどど、、、」


「落ち着いて、これ飲みなさい」


 別の侍女がエレナにコップを差し出す。

 また別の侍女はエレナの背中を擦っていた。

 ぐびぐびぐび! っとコップに入った水を流し込み、ようやくエレナは平静を取り戻した。


「ぷはっ!すみません、取り乱しました」


「で、どうしたの?何かあったの?」


「ハルキ様に」


「ハルキ様?」


「あ、勇者様です」


「ああ、スドウハルキ様! 勇者様ね!」


「呼び捨てでも良いって言われて」


「あら、気さくな方なのね」


「でも流石に呼び捨てはどうかと思うので『ハルキ様』と」


「愛称ってやつね」


 侍女達は今だに『スドウハルキ』が名前だと思っていた。


「それでその勇者様がどうかしたの?」


「かっ、肩を抱かれました!!」


 エレナがそう言うと一瞬静寂が訪れた後、皆が一斉にキャーっと黄色い声を上げた。


「あと、頬を撫でられました!!」


「やだ! 勇者様ったらお手が早い!」


「紳士っぽいのに案外男なのね!」


「ギャップがあっていいじゃない〜!」


「やったじゃないエレナ!」


「やった、なのでしょうか?」


「「「「嫌なの?」」」」


 先輩侍女達に一斉に聞かれ、エレナは考えた。

 ハルキ様は素敵な方だ。

 切れ長の瞳は涼し気だし、所作は洗練されていて、髪まで手入れが行き届いていて清潔感がある。

 それに一介の侍女の自分にも基本的に敬語で敬意を払ってくれるし、『呼び捨てでもいい』などと言ってくれ親しげだ。


「嫌、と言うか…」


「じゃあ肩抱かれた時どうだった?」


「……いい香りがしました…」


 再び茹で蛸の様に顔を赤くするエレナを見て、先輩侍女達はにニヤリと笑った。


「女はね、本能的に男性を匂いで判断するらしいわよ」


「あ、それ私も聞いたことある! 血が近いと臭く感じるんでしょ?」


「確かに! お父様とか臭くてたまんない時あるよね! 枕とかヤバイ!」


「お父様が入った後の厠もヤバイよね! 何が出てんだって話!」


「そりゃ汚物でしょ」


「違いないわ!」


 ワイワイガヤガヤ誰が何を話してるか分からない無法地帯になりかけているのを一番年長の侍女が静止する。


「ちょっと話がズレてるわよ! とにかく、いい香りと感じたんなら本能的にOKってことよ! 嫌じゃないなら行っちゃいなさい! 勇者様のお手付きになれば勝ち組よ!あなたの実家の借金もきっと勇者がどうにかしてくれるわ!」


 王宮の侍女はそれなりの教養を求められる為、貴族や富豪の娘が花嫁修業代わりに結婚までの腰掛けで務める事が多かった。

 侍女として務めている間に身分の高い方に見初められる可能性もあるので勤め先としてはなかなかの人気だ。

 ただエレナ自身はウラジーミロ男爵家の長女なのだが、超弩級の貧乏男爵家で腰掛けと言うよりは寧ろ出稼ぎだった。

 春希の侍女を誰が担当する? と言う話になった時、他でもない『勇者』と言うブランドに食い付いた侍女達はたくさんいたが、エレナの実家があまりにも貧乏で気の毒だと言う事で皆が譲った結果エレナにお鉢が回ってきたのだ。

 まぁそれだけではなく、最年少の妹キャラで皆に可愛がられていたエレナの人徳でもある。


「でも私、経験がなくて…どうしたらいいか…」


 男性に免疫のないエレナにとって、いくら相手が素敵だと思っている男性だとしても不安な事に変わりはない。


「大丈夫よエレナ、こういう場合は男性に身を任せればいいと聞くわ」


「そうそう。男性は『初めて』って結構嬉しいらしいわよ」


「でも下着くらいは綺麗なのにした方がいいんじゃないかしら?」


「そうね。白のレースとか清純でウケが良さそうなのが良いわね。」


「白のレースですね…」


 先輩達に促されて、エレナは次第にやる気を取り戻しつつあった。


「そう言えば勇者様は? ほっといていいの?」


「あ! 湯浴みの準備するって言って出て来たんだった!」


「あらやだ! じゃあ丁度いいじゃない!」


「そこで一気に決めちゃいなさいよ!」


「私達遠慮するから! 頑張って!!」


 通常湯浴みの際は2、3人で介助する事になっているがエレナの為に2人っきりにしてくれるらしい。


「っ〜〜〜がんばります!!!」


 皆に激励され、エレナは鼻息荒く春希の部屋に戻って行った。

 ちなみに下着については貧乏すぎて綺麗な白のレースの物はなかったので『結局は脱ぐんだから多少サイズがあってなくても分からない』と言う先輩の言葉を信じて一番サイズが近い先輩に借りた。


「ああだめ! 気になる!」


「仕事する気にならないわね!!」


「しょうがないわね。お茶でも入れましょうか?」


 皆気になって仕事が手につかず、でも暫く帰ってこないだろうからとお茶を入れているとあっさりエレナが帰ってきた。


「ただいま帰りました…」


「えっ? えっ?」


「なんで??」


「勇者様はどうしたの???」


 訊ねるとエレナは目にいっぱい涙を溜めて、わぁ! っと泣き出した。


「なんか拒否されました!!」


「なんで!?」


「私、がっつき過ぎたんでしょうか〜???」


「うーん、エレナちょっと鼻息荒かったから…」


「でも女に恥をかかせるなんて!!」


「勇者死ね!」


「エレナ、勇者様は何か言ってなかった?」


 最年長の侍女はエレナに優しく問い掛けた。


「えっと、『一人で入らないと神の裁きが』とかなんとか」


「もしかして、禊的な意味があるのかしら?」


「勇者様は神の遣いでもあるから、ありえなくないわね」


「きっとそうね。大丈夫、まだチャンスはあるわ」


「ごめんねエレナ、私達が焚き付けちゃったから。悲しかったわよね?」


「いえ、私も突っ走っちゃって、すみません…」


 先輩達に慰められ、エレナは少し元気を取り戻した。

 涙をグイッと拭うと意気込みを新たにした。


「私、諦めません! がんばります!!」


「次は失敗しないように、作戦立てましょう!」


「そうね!」


「はい! なんか男性は『うぶ』な方が嬉しいって聞いたわ!」


「恥じらってる方がそそるってよく言うよね!」


「寧ろちょっと嫌がる位がいいとか!」


「『あ〜れ〜おやめ下さい!』『良いではないかぁ〜良いではないかぁ〜』ってアレね!」


 色々言ってはいるが皆基本的に良い所のお嬢様達なので恋愛経験はほぼない。

 小説や噂話などで聞きかじったふわっとした知識総動員で作戦を立てるのであった。



予告入れ忘れてました!



〜次回プチ予告〜


春希と初めての魔法

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