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第58話


『お主達の希望は分かった。じゃが一つ言っておきたいのしゃが異世界転移は神でも簡単な物ではないんじゃ。いくつか条件があっての』


「簡単じゃないって、でもユウは連れて来たんですよね?」


『簡単じゃないから魂だけ連れて来たんじゃ。前田勇太には以前も言ったが、いた筈の人物が消えると世界に思いもよらぬ影響を与える事がある。それを防ぐ為には元の世界で一度存在を消す、つまり死ぬ必要がある』


「そんな…」


 春希の顔からサーッと血の気が引いた。


「ペラ神! そんなのってないだろ!!」


 死んだ状態で元の世界に戻ってもしょうがないと言うか、そんな事は望んでない。

 春希を取り戻す為に異世界にまで来たのに、結局失ってしまっては元も子もない。


『落ち着け。実際に死ぬ必要はない。この世界で死んだと認識さえされればいい事じゃ。ただその為にはこちらの世界で関わった者の記憶を操作する事になる。そうじゃの… 魔王は勇者との戦いで敗れた。エリーローザは戦いに巻き込まれ死亡、勇者一行の須藤春希、テレサレーゼはその戦いで名誉の戦死をむかえた、と言ったところかの』


「それはちょっと悲しいんだな…」


 コモドにとって春希は自分を初めて認めてくれた恩人だ。

 どのみち二度と会えなくなるとは言っても、別の世界で生きていると思うのと死んでいると思うのでは気持ちが全然違う。


「ごめんねコモド…」


「ハルキが謝る事じゃないんだな。ハルキの幸せの為ならの寂しいけど我儘は言えないんだな」


「元の世界に戻ってもずっとコモドの事応援してるから」


 別れは辛いし、コモドは春希が生きてる事を認識出来なくなる。

 それでもお互いが別の世界での検討を祈り、熱い抱擁を交した。


『それにしてもお主らはラッキーじゃったの』


「え? 何が?」


 勇太は神が言うラッキーが何を指すのか分からず、首を傾げた。


『召喚の時にトラックに轢かれたじゃろ。召喚が成功していれば前田勇太はあれで向こうの世界で死をむかえていた事じゃろう。そうする事で召喚による余波を最小限にするんじゃが、死んだ事になると元の世界に戻す事は出来ないんじゃ。死者が蘇った事になるからの』


「もしかしてトラックに轢かれたのがハルだったから助かったって事か?」


『うむ、そう言う事じゃ。魔族とエルフの血を引く須藤春希は普通の人間より体が丈夫じゃからの』


「マジか…」


 確かに、春希はトラックに轢かれた直後自分は死んだのだと思う程の衝撃があったはずだが、実際は少し体が痛かったくらいで大きな怪我はなかった。

 てっきり召喚されたから助かったのかと思っていたが、単に体が頑丈だっただけだったらしい。

 そう言えば春希は幼い頃から怪我知らずだった。

 春希の母も体が丈夫で『うちの家系は骨太だから』と言っていたのでそんなものだと思っていたが、どうやら魔族とエルフの血の成せる技だったようだ。

 よく考えたら春希のステータスの上昇率が高いのも、普通の人間ではなく魔族とエルフの血を引いている事が理由なのだろう。

 体ごとの異世界転移は本来片道切符で行ったっきり帰って来れない物らしい。

 つまり、勇太が正しくトラックに轢かれて召喚されていたら元の世界に戻る事は出来ないし、春希以外の別の人物が勇太の代わりにトラックに轢かれていてもそうだった。

 トラックに轢かれたのが春希だったからこそ向こうの世界で死ぬ事なく召喚され、元の世界に戻る事が可能になったらしい。

 だがそのせいで別の影響が出ているわけで、ラッキーなのかラッキーじゃないのかよく分からない感じだ。


『あともう一つ条件があってな。異世界のどの時間軸に行くか選ぶ場合何か目印になる物が必要なんじゃが何かないかの?』


「目印って言われても… どんな物が目印になるんだ?」


『こちら世界とあちらの世界で同じ物があれば望ましいが共通点がある物でも良い』


「意味が広いようで難しいぞ、それ…」


 そもそも異世界である2つの世界の間で共通点がある物と言われても皆無である。


「でもおかしくないですか? 私がこちらの世界に来た時はそんな物特にあったと思えないんですけど」


『須藤春希は異世界に【行った】のではなく【呼ばれた】のじゃ。召喚術を行った術者がお主を引き寄せたのだから、この場合は術者本人が目印の様な物じゃ』


 引き寄せたられるのであれば行き先は初めから一つしかないが、行く場合は進む方向によってどの時代にも行くことができてしまうらしい。


「そうなんですか… ちなみに目印がなければどうなるんですか?」


『真っ直ぐ進めばこちらの世界とあちらの世界で対応した時代に出るし、進む方向を調整すれば過去の時間軸に出たり未来の時間軸に出たり出来るがかなり大雑把なもので細かな調整は出来ぬ。前田勇太の魂が体に帰る瞬間に合わせるとなると目印は絶対に必要じゃ』


「別にピッタリ一緒じゃなくても良いんじゃないか?」


「大雑把な調整しか出来ないなら私が2人いたり、逆にいない瞬間ができたりするんじゃない? 少しの間なら問題ないかもしれないけど年単位とかだったら困るし」


『調整できるのは年単位じゃなくて十年単位位じゃよ』


「そりゃややこしい事になるな」


 もしかして人が消えたり突然現れたり『神隠し』と言われる状況は異世界間での行き来のせいで起きているのではないだろうかと勇太は思った。

 本当に『神隠し』があるならの話だが、こうなってくるとかなりありそうな話だ。

 魔王達があちらの世界に行く事で春希が存在しない世界が修正されたとしても春希が十年前に戻ってしまうと今の春希は十年身を潜めていないといけない事になるし、十年後に行ってしまえば十年行方不明になる事になる。

 しかもどちらにせよ年齢に十年の齟齬が出てしまうわけだ。

 目印となる物がなければよほど運が良くない限りややこしい事になる事が目に見えている。

 何か無いだろうかと必死に思考を巡らせる事暫くして、勇太はふと春希の祖母にから高校受験の時に貰ったお守りを思いだした。

 神と会う前に見たお守りの中に入っていた金貨はもしやこちらの世界の物では無いだろうか。


「エリーローザさん! 金貨を持っていませんか!?」


「金貨ですか? あいにく現金はあまり持っていなくて…」


「じゃあ誰か金貨持ってませんか!?」


 こちらの世界はキャッシュレス化が進んでいて現金を持ち歩く事が少ない。

 皆金貨は持ち合わせておらず勇太の問に全員が首を横に振った。

 そんな中テレサレーゼは気になる事を呟いた。


「私もアレクセイさんにお渡ししたのが最後の金貨でしたから」


「何ですって??」


「お渡ししたじゃないですか。ほら、護衛の報酬として」


「アレか!!」


 勇太は急いでアイテムボックスの中からテレサレーゼから受け取った後中身も確かめずに仕舞っておいた小袋を取り出した。

 小袋を開けると中には金貨が一枚入っていた。

 細部まで覚えているわけではないが、この少し歪な形といい、重さといい、お守りの中に入っていた金貨と同じ物に見えた。


「コレだ!!」

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