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第57話


「元の世界に戻るならやはり私達も行きましょう。ね?」


 エリーローザは隣にいる魔王を見上げながら言った。


「そうだな」


 魔王は頷いたが、春希はやはり自分の為に異世界に行ってもらうのは気が引けた。


「でも先程言ったとおり寿命を縮めてまで異世界へ行かなくても…」


「寿命の長さは重要ではない。重要なのはエリーローザと共にあれるかどうかだ」


「いや、でも…」


「ならば一つ確認したいのだが、私達の子供は幸せに暮らしているか?」


「そうですね… 父とも仲がいいですし、毎日幸せそうですよ」


 春希の両親は結婚してもう30年近くになるのに未だに新婚の様にラブラブだった。

 喧嘩している所など見た事はないし、おはよう、行ってらっしゃい、ただいま、おやすみは毎回ハグ&キス、毎週末は手を繋いでデートをするし、各種記念日のお祝いも欠かさない。

 と言うか、父が母の事を好き過ぎるのだ。

 母は春希が幼い頃から殆ど見た目が変わらないと言って言い程若々しく愛らしい容姿で、そんな母に父はデレデレだった。

 今考えると母がいつまでも若々しいのも魔族とエルフの混血だからなのかもしれない。


「ならば何も迷う事はない。愛する人に出逢える事がどれ程の奇跡か、私達は知っているのだからな」


 魔王は春希を真っ直ぐ見据えて言った。

 その真っ直ぐな視線に、春希は目を奪われた。

 正直かなりかっこよかった。


「それに孫達の幸せも守らないといけませんもんね」


 エリーローザは春希と勇太を交互に見て微笑みながら言った。


「家族にも一生会えなくなってしまいますよ!?」


「あら、でも行かないとそれこそ子供や孫とは一生会えないんでしょう?」


「それはそうですけど… でもそれだとテレサレーゼさんが…」


「大丈夫よ、エリーが行くなら私も行くわ」


 テレサレーゼの新たな問題発言に皆がギョッとした。


「なっ、テレサレーゼさん、話聞いてました!? 寿命が縮むんですよ」


 勇太が詰め寄るとテレサレーゼは事もなさ気に言い放った。


「聞いてましたとも。寿命が縮むくらいなんですか。エルフの寿命は長いんだから人間になったと思えば良いだけです。エリーに会えなくなる事に比べれば些細な事よ」


「エリーローザさんはともかくテレサレーゼさんが私達の世界に来るのはちょっと容姿が目立ち過ぎるのでは…」


 勇太の懸念はもっともで、髪の色は白髪と言い切れば誤魔化せない事もないだろうし染めれば良い。

 だがエリーローザと違ってテレサレーゼにはエルフらしい尖った耳があり、これがある限り人間にはとても見えない。


「あらそんなの願い事でとうにかならないのですか?」


『異世界に行く、と言う願い事に同行者が増えるのは構わんが、容姿を変えるとなると別の願いになるの』


「容姿を変えて異世界に行く、と言う願い事にしてもらえないのですか?」


『無理じゃ。それを可とすると際限が無くなるからの』


 テレサレーゼは一つくらい良いじゃないと不満そうにブツブツ言っていた。

 そんな様子を見てヨハネスが溜め息混じりに言った。


「では容姿の件は私の願い事を使いましょう」


「良いんですか?」


「構いません。私の一番欲しい者は手に入りそうにないので」


「ああ、なるほどね…」


 ヨハネスがそう言うと、テレサレーゼはヨハネスの好意に全く気付いていない春希を見た後、少し気の毒そうにヨハネスを見た。


「だったらせめて願い事はすそ野を広げて、異世界での生活に困らない様にするとかにしておきませんか?」


 いくら容姿を整えた所でこのままだと今度は魔王達が無戸籍状態になってしまう。

 ただでさえ異世界と言う引っ越しどころでない規模の新天地に渡るのだ。

 少しでも憂いを減らそうと願い事の仕方としては少し姑息かもしれないが春希はそう進言した。


「そうだな。神よ、私の願い事は【魔王、エリーローザ、テレサレーゼが異世界へ旅立った時に生活に困らない様にする】だ」


『知恵付きおって』


 ヨハネスが春希の提案を呑んで神に願うと、神は面倒くさそうにそう吐き捨てた。


「では私の願いも【エリーと私と魔王で異世界へ行く】でお願いします」


「お母様、本当に良いんですか?」


 エリーローザは重大な決断をあっさりと下したテレサレーゼを不安げに見つめていた。


「良いのよ。私にとって大切なのはエリーだけなんだから」


「お母様…」


 全てを捨てて異世界にまで付いて来てくれると言う母に、エリーローザの目には涙が滲んだ。


「お義母さん、ありがとうございます」


「お義母さんと呼ばれるのはまだ気に入らないけど、あなたのエリーを思う気持ちだけは認めてあげるわ」


 テレサレーゼはここまで魔王が本気でエリーローザを想っているとは考えていなかったのだ。

 てっきり魔王の気まぐれで美しい娘にちょっかいをかけて、飽きたらポイと捨てるつもりなのだろうと思っていた。

 血も涙もない魔族であればそんなものだろうし、エリーローザからいくら魔王が優しい人物だと聞いても俄には信じられなかった。

 だが、目の当たりにした魔王はエリーローザの為なら魔王の座は捨てるし、子と孫の為なら命も厭わない、自分と何ら変わらない心持ちの人物だった。

 そんな魔王の心根を信じてみようと思えた。


「皆さん本当になんて言っていいか… ありがとうございます」


 春希は深々と頭を下げた。

 自分の為に寿命やたった一つの願い事を使ってくれると言う皆に頭が上がらない思いだ。


『ふむ。で、前田勇太の願いは【須藤春希と共に元の世界へ帰る】でいいんじゃな?』


「うん、それで」


 神に再確認され、勇太は頷いた。


『それで、そっちのはどうするんじゃ? 何度も途中で止められるのも面倒じゃからな。先に願い事を言え』


 願い事を叶えようとすると直ぐ横槍が入るので、面倒になった神はコモドに願い事を催促した。

 全部聞いて皆が納得した後に一気に願い事を叶える算段らしい。


「うーん、おいらもっと人間と協力して行きたいんだな。だから【人間が魔族から受けた被害を回復】して欲しいんだな。命は無理でも壊された物とか街とかだったら元に戻せるんだな?」


『可能じゃが範囲が広すぎるの。今回の魔王の弱体化が原因で制御不能になった魔物からの被害に限定させてもらうがそれでいいかの?』


「大丈夫なんだな!」


「コモド、魔王になるんだからこれからの統治が有利になるような願い事じゃなくていいの?」


 魔王としての能力の強化とか、寿命を伸ばすとか、何でも叶うのだから魔王として有利になるような願い事を幾らでも思い浮かぶ。

 春希が確認すると、コモドは春希の目を真っ直ぐ見て宣言した。


「おいら気付いたんだな。種族とか魔族とか人間とか関係ない。おいら、故郷でもずっと『気持ち悪い』って言われて来て、同族ですらそうなんだから一生誰にも受け入れて貰えないと思ってたんだな。でもそんなおいらをハルキが『かっこいい』って言ってくれて、仲間が出来て旅に出て、ロスタさんとも出会えて、おいら本当に嬉しかった。これからの事は自分で頑張るんだな。その為にまず人間に魔王が友好を目指してる事を知って欲しいんだな」


「コモド…」


 初めて会った時のコモドはコソコソ隠れて冒険者を幻術で脅かしては食べ物を掠め取る臆病者だった。

 それが今や自分の意志で勇気と優しさを兼ね備え、魔族を導く立派な魔王になろうとしている。

 コモドならきっと良い魔王になると、春希は確信した。

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