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第55話


「ハルキ様が私の曾孫にあたるなんて信じられないし、魔王との結婚なんてやっぱり私は賛成できないわ」


 そう考えれば辻褄が合うと言うだけでなんの確証もない話である以上テレサレーゼの意見ももっともである。

 そこで勇太はある提案をする事にした。


「では確かめて見ませんか?」


「確かめるって… どうやって確かめるんですか?」


「神様への願い事を使えば正解が分かるはずです。それにアナスタシア様の治療も願い事を使うしかないかと」


 勇太がアナスタシアの件に触れるとミハイルとコモドが深く頷いた。


「そうだな」


「特にアナスタシア様の治療は早い方がいいんだな」


「神様を呼び出すに為には勇者である俺が役目を終えないといけません。その役目と言うのがどこまを含むのか分からないのですが、最低でも魔王の代替りはしてもらわないといけません。それだけは駄目だったらまた考えましょう」


「うむ」


 駄目だった場合は最悪魔王を倒さないといけないかもしれない。

 だがそれは魔王も覚悟はしているようで特に異論はないようだ。


「だが次代の魔王についてまだ任せて良いと思える者がいない。勇者の方で候補はいないか?」


「うーん、そうですね…」


 条件としては魔王として相応しい人格で少なくともやっても良いと思っている魔族で、当然魔王である以上ある程度の実力は必要だろう。

 だがそもそも魔族の知り合いなんていないのに選びようがない、と勇太が思った所で一人だけいる事に気が付いた。


「コモドはやってみる気ない?」


「え!? おいらなんだな!?」


「うむ、クレージの暴走を収めたくらいだ。実力は申し分ない」


 コモドはいきなり自分に矛先が向いて驚いているが、魔王は乗り気だった。


「いやいやいや、無理なんだな!」


「何故だ?」


「おいらすごく弱虫なんだな。魔王なんて務まらないんだな!」


 コモドは自分が弱虫だからと言うが、春希は本当にそうだろうかと異論を投げた。


「そうかな? コモドは自分で思ってるより弱虫じゃないと思うよ」


「え?」


「だって目の前で危険に晒されてる人がいたら逃げずに立ち向かうじゃん


「そうですね。実際私も助けられましたし」


 春希の意見にクレージの炎の輪から助けられたテレサレーゼも同意した。


「それは夢中だったからなんだな…」


「でも本当に弱虫だったら何があっても逃げるんじゃない? コモドはさ、目の前で誰かが傷つくのが嫌なんだよ。誰かが傷つく所を見たくないから避けてるだけで、何か起これば立ち向かえだけの強さはある。優しいだけで弱くないよ」


「ハルキ… そんな風に言ってもらえて、おいら嬉しいんだな」


 コモドは喜びの涙を流した。

 コモドの戦い方は専ら幻術で相手を逃がすと言う戦法だ。

 それは誰も傷付く事のない戦法で、争いを好まないコモドらしいやり方だった。

 だがだからと言って弱い訳ではなく、十分な実力がある事は証明されている。

 それに優しいコモドが魔族を統治すれば穏やかな治世になりそうだ。


「魔王になられるなら私もサポートしますよ。コモドさんは私の憧れですから」


 ロスタがサポートを買って出ると、コモドは意を決したように意気込んで言った。


「分かったんだな! おいらやってみるんだな!」


「では早速魔王を継承しよう」


 早急な対応の中に、気が変わらないうちにさっさと魔王を継承してしまおうと言う魂胆が透けて見える。

 魔王は手の平から黒い球体を出してコモドに差し出した。


「手を出せ」


 コモドは魔王に言われてオズオズと手を差し出すと、黒い球体はコモドの手の平にすぅっと吸収されて行った。


「これで魔王が継承された」


「え!? これだけなんだな!?」


 随分あっさりとした魔王継承にコモドは驚いた。


「あれは魔王の証であり魔王の力そのものだ。色々な事ができるが、私が説明せずとも暫くすれば体に馴染んで珠が教えてくれるだろう」


「そうなんだな?」


 コモドにはあっさりし過ぎて魔王になったと言う実感も何もなかった。

 だが魔王がそう言うからにはそうなのだろう。


「おめでとうございます。これで新魔王の誕生ですね」


 ロスタが拍手で新魔王の誕生を讃えると、春希もそれにならって拍手した。

 それに続いて一人、また一人と拍手に加わり、結局全員分の拍手が集まった。


「皆、ありがとうなんだな」


 コモドは気恥ずかしそうに微笑んでいた。

 すると次の瞬間、勇太の頭上に金色に輝く魔法陣が現れ、そこを起点として小さなつむじ風が起こった。


「これってもしかして!」


 春希は瞬間的に何が起こってるのかを悟った。


「たぶんそうだ!」


 勇太も確信していた。

 きっと魔王が代替りさせた事で勇者の役割が終わったのだ。


『ようやったの。前田勇太』


 勇太よ頭上の魔法陣の上にペラッペラの神様が現れた。


「ペラ神様!」


『だからペラ神言うな。前も言ったがペラッペラに見えておるのはお前だけだからの。他の者は各々の思う神の姿で見えておる』


「まじか。ちなみにハルはどんな風に見えてるんだ?」


「えっと… なんか布袋様っぽい」


「ペラペラしてない?」


「どちらかと言うとふっくらしてるね」


 春希の目には神が大きな袋を持った、でっぷりとした半裸のおじさんのような姿で見えていた。

 何故春希の神のイメージが布袋様なのかは謎だ。

 同じ七福神でも弁財天とか恵比寿様とかもっといるじゃん、と自分でも言いたくなる。


『儂の姿の事はどうでもいいんじゃ。折角勇者としての役割を終えた報酬を渡しに来たのに、いらんのか?』


「いるいる! いります!」


『ではさっさと願い事を言うんじゃ。一人一個じゃぞ』


 神はスーパーに子供たちを連れて行って『おやつは一人一個』と宣言するお母さんの様な事を言う。


「はい、質問です。一人一個って、誰まで叶えてもらえるんですか?」


 春希は右手を軽く掲げて神に訊ねた。

 伝承では勇者とその仲間の願いが叶えられる事になっているが、この場にいる者しか叶えてもらえないのか、それともこの場にはいなくても叶えてもらえるのか、そもそも勇者の仲間がどこまでを指すのか、それによって適応範囲が大きく変わってしまう。


『勇者が自分のパーティーだと思っている人物じゃな』


「エルフや魔族は入りますか?」


『種族の区別はない。エルフのテレサレーゼも、魔族のコモドも、何なのかよう分からんが豪ちゃんも勇者のパーティーに入っとるから安心せい』


 流石に魔王やその側近の四天王、エリーローザは対象外らしいが、魔族で現魔王のコモドでも願い事を叶えて貰えるらしい。

 しかし豪ちゃんは神ですら何なのか分からないって、本当にいったいどんな存在なんだろうか。


『あと死んだ者を生き返らせる事と他人の心を変える事は出来ん。その他なら何でも叶えてやろう』


「では私から良いだろうか? 私の願いは【姉上の怪我の完治】だ」


 軽く挙手しながら願い事を言ったミハイルに春希は訊ねた。


「自分の願いを叶えなくて良いんですか?」


「姉上は今意識が無く願い事を言う事も出来ないだろうから仕方ない。それに私は今特に願いたい事はないからな」


 本当ならミレイアとの結婚でも願おうと思っていたのだろう。

 ミハイルは人妻であるミレイアを思って遠い目をしていた。


『うむ。叶えてやったぞ』


「本当か!? ちょっと姉上の様子を見て来る!」


 願い事は秒で叶えられた。

 なるべく態度には出さないようにしていたがやはりアナスタシアが心配だったのだろう。

 ミハイルは願い事が叶えられたと聞くと、アナスタシアの様子を見に部屋を飛び出して行った。

 麗しい姉弟愛を垣間見た。


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