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第52話


「みんな無事ですか!?」


 春希はスベルタの手から飛び降りるとヨハネス達に駆け寄った。


「ハルキ! アナスタシア様が負傷した!」


「アナスタシア様が!? 駄目だ… 私では治せそうにない…」


 ヨハネスに背負われているアナスタシアはぐったりとしたまま意識がない。

 もしかしたら頭を強打したのかもしれない。

 春希も幾らかは治癒魔法は使えるが、そもそも春希の魔法はほぼ無意識で発動するものばかりなので治癒はあまり得意ではない。

 治癒魔法と言うものは医学知識をもとにイメージを構築して繊細なコントロールで魔法を行使する必要がある。

 例えば素人が出血してるからと言って単純に止血をしても、必要な血管の流れまで止めてしまい逆に命を落とす事もあるのだ。

 大した医学知識を持たない春希の腕では簡単な怪我や疲労を回復さられるくらいで、アナスタシアをどうする事もできそうに無かった。


「とにかくアナスタシア様は安全な場所に避難させよう」


 勇太の言葉に春希は頷いた。


「そうだね。スベルタ、この人を魔王城に運んで。丁寧にね」


「ワカリマシタ、マスター」


「豪ちゃんはアナスタシア様についていてあげて」


 あまり頭の良くないスベルタだけでは看護に不安があるので豪ちゃんにアナスタシアを頼む。


「分かった!」


 春希の事を魔王だと思い込んだままのスベルタは言いつけどおりにアナスタシアを大切に抱え、豪ちゃんは重量操作で軽くなった後スベルタの足にしがみついて魔王城へと飛び帰って行った。


「何故魔王の手の者と共にいるのだ?」


「説明は後でします。今はアレを止めましょう」


 ミハイルの疑問はもっともだが、今はそんな場合ではない。

 ローターが魔法でかなりの量の水を降らせているが未だに暴れている四天王の一人、クレージを止めなければいずれ森は全焼してしまう。


『クレージ、落ち着け』


「その声は魔王か!?」


 クレージが魔王と口にした瞬間、皆の視線が魔王に集まった。


「おい! アレが魔王なのか!?」


 ミハイルは春希に掴みかかって真偽を確かめた。


「まあ、そんな感じです」


「魔王…」


 テレサレーゼは魔王と聞くと一目散に魔王に走り寄り叫んだ。


「魔王ーー!!」


「魔王! 人間共を殺せ!!」


「テレサレーゼさん危ないだな!!」


 脇目も振らず魔王に接近しようとするテレサレーゼにクレージの炎の輪が迫り、その輪を今現場に辿り着いたコモドが尻尾で叩き落とし事なきを得た。


「熱! 熱! 熱いんだな!!」


「あらヤダ」


 高温の炎に直接触れて軽い火傷を負ったコモドの尻尾をロスタがフーフーと息を吹きかけて冷ましてあげていた。


「ローター、水で冷やしてあげて」


「面倒くさい…」


 面倒くさがりながらもローターはロスタのお願いを聞いてコモドの尻尾に流水をあてる。

 テレサレーゼはと言うと一応コモドに助けてもらったにも関わらず感知せず、魔王に詰め寄って叫んだ。


「私の娘を返せーー!!」


 その叫び声に一同の視線が集まった。


『お義母さん』


「お義母さんなんて気安く呼ばないで!」


『誤解があるようですが娘さんが帰宅を拒否してるのであって』


「言い訳は止めなさい! この助兵衛! スケコマシ! 私の娘を誑かしておいてよくもっ!!」


『誑かしたとは心外です、お義母さん。私達は真剣に』


「だから気安く呼ばないでちょうだい!!」


『兎に角、私は娘さんを誘拐した訳でも閉じ込めている訳でもありません』


 テレサレーゼはキーキー怒りながら魔王に拳を振り上げているが、悉く避けられてまた余計に怒りをつのらせていた。

 以前春希がテレサレーゼから聞いた話では何か大切な物を魔王に奪われたと言っていたがどうやらそれはテレサレーゼの娘の事のようで、テレサレーゼの様子は娘の彼氏に文句を言いに来た母親のそれでしかなかった。

 魔王も他の人には割と尊大な態度なのに、テレサレーゼには幾分丁寧だ。


「テレサレーゼさんって娘さんがいたんだ?」


 春希が勇太にこそっと訊ねる。


「いや、俺も知らなかった。人探しとは聞いていたけど娘さんだったんだな」


 と言うかテレサレーゼは見た目は春希達と変わらないくらいにしか見えないのに結構大きな娘さんがいるようだ。

 エルフや魔族は本当に見た目では年齢が分からない。


「俺を無視するなーー!!」


 ようやく目が開けられるようになったクレージが怒りで爆発した。

 炎の柱が上がり、それが形を変えて龍を形取って大きな口を開けて辺りを全て飲み込もうとしていた。


『マズいな怒りで制御不能になっている』


 魔王が淡々とした口調で言うとロスタが慌ててローターに支持を出した。


「ローター水で炎を消して!」


「あんなに大きいの無理…」


 いくらローターが水魔法が得意でも、巨大な龍に水鉄砲で挑むようなもので、対処できるレベルをとうに超えていた。

 

「ハルキ、私の背後に」


「え? いや、悪いよ」


 ヨハネスは春希を背後にして何とか守ろうとするが、春希に軽く断られていた。

 好きな女を守りたいと言うヨハネスの気持ちに全く気付いてない春希はそれどころかミハイルを守る様に提案する。


「ミハイルを守った方がいいんじゃない? 王子だし」


「私は守られるほど弱くない!!」


「龍の消し方… 龍の消し方…」


 勇太は『異世界の歩き方』を捲り龍の消し方を調べていた。

 が、勿論そんな事はどこにも載っていなかった。


「魔王! なんとかしなさいよ!!」


『私の力は弱体化していてこれを止める程の力はありません』


 慌てたテレサレーゼはさっきまでけちょんけちょんに言っていた魔王に頼るが、魔王はあっさりと不可能を告げる。


「こ、このままじゃ大変なんだな!」


 何とかしなければとコモドはいつも出している幻覚のドラゴンを、もっと大きく、もっとリアルにと念じながら出していた。

 するとコモドの体が黄金色に輝き出し、幻覚のドラゴンが実態を持ち始める。

 実態を持つ巨大ドラゴンとなった幻覚はゆっくりと口を開けると炎の龍をパクリと咥え込み、そのままごくりと飲み込んでしまった。

 再びドラゴンが口を開けると口から煙が一立ちして、ドラゴン自体も砂になって消え、それと同時にコモドの体も輝きを失って普段のコモドの姿に戻った。


「消えた…」


 勇太は呆然とその光景を見つめていた。


「すごいじゃんコモド!」


 春希が手放しに褒めるとコモドは照れながら正直な気持ちを打ち明けた。


「自分でもちょっと驚いてるんだな」


『危機に面して潜在能力が開放されたのだろう』


 急激な成長を遂げたコモドを、魔王は興味深そうに見つめていた。


『さて、こいつをどうするか…』


 魔王が怒りに任せて力を開放し過ぎてその場でぐったりと横たわっているクレージの側に寄ると、その直ぐ側に寄り添うように一羽の黄色い小鳥が蹲っていた。


「ピッ。お父さんをいじめないでッピ」


 小鳥が魔王の視線に気付くと小さな羽をはためかせてそう言った。


『お父さん、だと?』


「もしかして…」


 春希は例の魔物を閉じ込めていた魔法の檻で囲われた温泉を見ると、どさくさで魔法の檻は壊れ、そこにいたはずの魔物の姿も既に無かった。


「あの魔物がこの小鳥?」


「そうだッピ」


「随分可愛らしくなっちゃって」


 小鳥はミハイルに己の予想が正解である事を告げると、勇太に可愛いと言われて満更でもないない様子でまた羽をパタパタはためかせた。


「温泉に浸かってたら苦しいのとか嫌な気持ちが全部なくなって気付いたらこうなってたんだッピ」


 温泉にそんな効果があるとは、驚きの効能だ。


「そんな事より娘を返しなさい」


 だがテレサレーゼにとっては瑣末な事柄らしく、相変わらず魔王に娘を返すように詰め寄っていた。


『何度も言っていますが、私は閉じ込めているわけでは…』


「魔王様、これじゃ話が堂々巡りですよ。一度三人で話し合いをしては?」


 魔王にも言い分はあるだろうが、テレサレーゼも娘と話さない事には納得できないだろう。

 春希が話し合いをすすめると、魔王は頷いた。


『そうだな。どのみちお義母さんに挨拶はせねばと思っていたのです。一度我が魔王城へお越し下さい』


「だがらお義母さんと呼ぶのを止めなさい! 大体私達年変わらないでしょう!」


『年齢は変わらなくともエリーローザの母君であれば私にとっては義母です』


「ムキーーー!!」


「まあまあ落ち着いて。兎に角一度魔王城へ行きましょう」


 淡々としている魔王とは反比例して分かりやすくヒートアップして行くテレサレーゼを勇太は宥めた。

 

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