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第49話


『ハルキ! ハルキ! 大変なんだな!!』


「えっ!?」


 春希はコモドの声が聞こえた事に驚いて振り向いた。

 コモドはテレサレーゼと魔の森付近の街に滞在しているはずで、当然そこにはコモドの姿は無かった。


「どうした?」


 勇太が突然振り返った春希を不思議そうに見ていた。


「いや、今コモドの声が聞こえて…」


『魔の森に魔物が集まってるんだな! 今すぐ帰って来て欲しいんだな!』


 コモドにはアナスタシアが通信の魔道具を預けていたので、それを使って春希に通信をしているのだろう。

 通信の魔道具の使い方は確か、声を届けたい相手の顔を思い浮かべながら伝えたい内容を考えるだけでそれが音になって相手に届くらしい。

 通信の魔道具はあくまで相手に音を届ける道具なので会話がしたいならお互いにピンクのアフロを被る必要がある。


「ついにこれを使う日が来たのか…」


 春希はコモドに返事をする為にが通信の魔道具であるピンクのアフロを被った。

 誰でもコント仕様になれる通信の魔道具を使うのは初めての経験だがうまく行くだろうか。


『コモド、聞こえる?』


『聞こえるんだな』


 コモドからはきちんと返事が返ってきたが、勇太は肩を振るせて笑いを堪えている。


「笑わないでよ」


「いや、笑うだろ」


 それはさておき、今は魔の森の状況を確認するのが先決だ。


『魔物が集まってるって、攻めてきそうって事?』


『色んな魔物が集まって一つの大きな魔物になろうとしてるんだな! このままにしておくととんでもない厄災になりかねないんだな!』


『分かった、兎に角直ぐ行くから!』


「ユウ、魔の森に魔物が集まってるって。すぐ戻ろう」


「分かった」


 春希はアナスタシアにも思念を飛ばし魔の森に帰る事を告げる事にした。


『アナスタシア様、起きてますか?』


『どうかされましたか?』


 少し遅い時間だったがアナスタシアからは直ぐ返事が来た。


『魔の森に異変が起きたようです。私達はすぐ立ちます』


『今アレクセイさんと一緒ですか?』


『はい』


 アナスタシアは春希がこちらの世界に来てから何かと接する機会の多かったアナスタシアより、出会ったばかりのはずのアレクセイとまるで旧知の仲の様に随分仲が良さそうなのを不思議に思っていた。

 もしや、と言う考えが頭をよぎったが、今はそれどころではない。


『そうですか… では私はミハイルとヨハネスと連絡をとってすぐ追いかけます』


『よろしくお願いします』


『通信はすぐできる状態にしておいてください』


『やっぱりそうですよね… 分かりました』


 ビジュアル的に辛いが今はそうも言ってられない。

 春希は通信の魔道具を被ったまま、今度は転移の魔道具を背負い魔の森へ向かう事になった。

 その風貌を見て笑っていた勇太だが、『闇夜の衣』と転移の魔道具の組み合わせも紅白の最後の方に出てきそうな感じでなかなかの抱腹絶倒物だと言う事をお忘れのようだ。




「ハルキ! 待ってたんだな!」


 コモドとテレサレーゼが滞在している宿屋の一室でコモド達は春希達を待ち構えていた。


「お待たせコモド! テレサレーゼさんは大丈夫ですか?」


「少し瘴気にあてられただけですから大丈夫です」


 テレサレーゼは気丈に大丈夫だと言うが、顔色が悪く見るからに辛そうだ。


「無理しないでください。コモド、先に現場に案内してくれないかな」


「分かったんだな」


「私も一緒に行きます」


「いえ、テレサレーゼさんはここに残って下さい」


「ですが」


「アナスタシア様達も追ってくるはずなので行き違いになると困るので一人はここに残っていて欲しいんです」


「…分かりました」


 こんなに顔色の優れない人を無闇に動かすのは憚られた。

 行き違い云々は建前で実際は通信の魔道具があるので待ち合わせくらいどうとでもなるとテレサレーゼ自身も本当は分かっているのだろうが渋々納得してくれた。

 コモドの案内で現場に向かった。

 立ち込める瘴気の凄まじさに人間である春希や勇太でも船酔いの様な気分の悪さを感じた。

 魔物がお互いに吸収しあってできた新たな魔物は黒いドロドロとした塊状になっており、先程コモドが見た時と比べて目に見えて大きくなっていた。

 黒いドロドロは新たな餌を探すように触手を伸ばし、その触手に当たった木々が次々に腐り落ちて行く。


「これは想像以上にヤバイね」


「さっきはもっと気持ち悪かったんだな。共食いとかもしてたんだな」


「それは見ないで済んで良かったかも」


 春希の顔が思わず引きつる。


「こんなのが街にでたらとんでもない事になるぞ」


「だよね。そうなる前になんとかできそう?」


 こんなヤバイ魔物を春希だけでどうにかできる自信はないが本物の勇者でる勇太ならどうにかできるのではないか、という希望的観測で訊ねてみるが、その返事は決して色よい返事では無かった。


「いや、普通の魔物じゃないから対処方… 弱点でも分かればいいんだけど」


「弱点…」


 そんなもの春希が知っているわけもないが、知っているかもしれない人物になら心当たりがある。


「魔王に会ってみる?」


「うーん」


 どのみち勇太を魔王と対面させる気だったので一石二鳥ではあるが、ただ魔王がこの魔物に何も関わりが無いとは限らない。

 勇太は少し迷った。


「魔王に会いに行くにしてもとにかくこいつが動かないようにはしておきたいな」


「でもどうやって? 触れた物は腐っちゃうからロープとかは使えなさそうだし… 電撃の魔法で感電させるとか?」


「何が刺激になって動き出すか分からないこらそれは辞めた方がいいんだな」


 電撃の魔法を繰り出そうとした春希をコモドが静止した。


「魔法で檻でも作れないかな」


 勇太の発案に春希が反応した。


「そんな大きな物を囲っておける檻なんて作れるかな?」


「魔法はイメージだって言うから出来ると思えばできるだろ」


「そっか… じゃあなるべく大人しくしててもらえるように居心地の良い空間だったらいいかな…」


 春希が呟いた直後魔物が見えない壁に覆われ、中に石造りの大きな桶のような物が現れて桶の中に適温のお湯が注がれて暖かな湯気が立ちこめる。

 どう見ても露天風呂だ。

 湯の中にはおちょこに入った酒と温泉卵が乗ったお盆がゆらゆら揺れている。

 春希が無意識にイメージを膨らませ魔法を発動させてしまったらしい。


「誰が露天風呂を作れと」


「ごめん、居心地良いと言ったら温泉かな〜っと思ったら勝手に…」


 勇太の魔法はしっかりイメージしようとしなければ発動しないが、春希の魔法はどうも無意識下での発現率が高い。

 そう言えば春希は美術の成績はいつも良かったな、と勇太は思った。

 勇太にはペラペラに見えた神様も春希から見るとリアルに神々しい神様に見えるのだろうか。

 魔法の能力ももしかしたら絵心に影響されるのかもしれない。


「あっ! でも凄いんだな。魔物が寛いでるんだな!」


 温泉に浸かった状態の魔物は先程の禍々しさが削げて気持ちよさそうにリラックスしている。

 酒を飲んでさらに頬らしき場所を上気させ、さらに温泉卵を口と思われる場所に放り込むと目と覚しき場所からポロポロと涙を零し始めた。


「なんか感動してるんだな」


「てかよくおちょこの使い方分かったな。本能かな」


「あんなに喜んでくれるなんて… お酒と温泉卵、無限に出るようにしとこう」


 春希の魔法で酒と温泉卵が無限に出現する露天風呂が出来上がり心地良い空間になったので、恐らくそこから暫くは魔物は動かないだろう。

 この間に魔王の元へ移動する事にした。

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