第4話
場所を変えて、修練場と呼ばれる城の中庭にある広場の様な場所に来ていた。
ここは王族の修練の為に使われる場所で関係者以外は立ち入らないので色々と都合がいいらしい。
「それではスドウハルキ様、改めてステータスを確認して頂けますか?」
「ステータス開示」
アナスタシアに手渡された石版に手をあててステータスを表示すると、アナスタシアとコンスタンチンが石版を覗き込む。
須藤 春希 Lv.1
HP:810/810
MP:999/999
適性:魔人
【スキル】
自己治癒:C+
鑑定:D
威圧:E+
魅了:E
先程見たと時と違ってHPが満タンになっていた。
来た時に感じていた腰の痛みが取れたからか、それとも食事の効果だろうか?
「コンスタンチンの言っていた通り読めるのはアルファベットと数字だけですね。この、紋様の様な物も文字なのですか?」
「それは『漢字』と言って1文字で複数の音や意味を表す時に使うんです」
「表示が簡略化されて便利なものですね。ではこの『魔人』の2文字で『システムエンジニア』となるのですね」
「ええ、まぁ…」
それは『まじん』と読みますとは言わず、感心するコンスタンチンに曖昧に笑って頷いておいた。
「申し訳ありませんがスキル欄にある項目を読み上げて頂けませんか?」
アナスタシアが身長差もあって上目遣いで春希を見る。
遠目で見ても分かっていた、アナスタシアは相当な美少女だった。
瞳はエメラルドグリーンに輝き、まるで宝石の様だ。
それにすごくスタイルがいい、と言うか胸がでかい。
しかしあまりジロジロ見るのもなんなのですぐ目をそらした。
「自己治癒、鑑定、威圧、魅了の4つです」
「珍しい組み合わせですわね」
「そうですね。威圧と魅了は対称的なスキルなので両方備わる事は稀ですし、鑑定もレアスキルですからね。それにLv.1からスキルが4つもあるのも珍しいです。大抵はスキルなしかあっても1つです」
「スキルってどうやって使うんですか?」
「対象を見ながら『鑑定』と唱えるだけなのですが、コンスタンチンで試して見ませんか?」
「じゃあ、『鑑定』」
試しにコンスタンチンを見ながら言ってみた。
コンスタンチンの頭の上辺りにモニターの様な物が見えるが名前のところ以外は砂嵐のようになっていて見えない。
「相手が秘匿スキルを持っていてそのランクが自分の鑑定ランクより高いと本人が開示を許可したところ以外は見えないのです。因みに私の秘匿のランクはB+です」
コンスタンチンがそう言うと砂嵐だらけだったモニターに『秘匿:B+』という記述が浮かび上がった。
本人が秘匿のランクを告げた事で許可されたと見なされたらしい。
「他に秘匿の魔術具などを使っていると見られなくなります。鑑定は滅多に使える者がいませんが、念の為私ども王族は皆秘匿の魔術具を身につける事が決まりとなっています」
スキルと言うのは便利なようで色々と条件があるらしい。
「あの、威圧ってあると相手を恐がらせたりとか、そう言う事ってありますか?」
「E+でしたら人間相手にはあまり効きませんよ。赤子に泣かれる位でしょうか。と、言うのも威圧に対する耐性は威圧を持つ人間や魔物と対峙する機会が多い程高まるんです。ここで暮らす以上それは避けられませんから、年齢が上がるにつれて皆耐性が付いて来て低ランクの威圧では効かなくなるのです。ただスライム程度の魔物なら動きが止まるので楽に倒せますよ」
こちらの世界に来てから恐がられる様子がないのでおかしいな、とは思っていたが、こちらの世界の人達は魔物などが普通に出る環境なので恐怖というものに耐性があるのかもしれない。
多少顔が恐くても魔物に比べたら可愛い物なのだろう。
「あまり意味がないスキルなんですね」
アナスタシアの説明に春希はホッと胸を撫で下ろしたが、その後すぐコンスタンチンによって奈落の底に突き落とされる。
「大丈夫ですよ。スキルのランクさえ上がればドラゴンでも足止めできると言いますから」
それ全然大丈夫じゃないよね!?
ただでさえ恐い恐いと言われ続けてきたのに、さらに恐がられるようになるのは避けたい。
どうにか威圧のランクは上げない方向で行こうと春希は誓った。
「それはそうと、スドウハルキ様」
「アナスタシア様、ずっと気になっていた事があるのですがいいですか?」
春希が軽く右手を上げて訊ねる。
「ええ、どうぞ」
「何故ずっとフルネームで呼ばれているのでしょうか?できれば春希と呼んで頂きたいのですが」
「え?」
「あ、何か決まりがあるのでしょうか?」
「もしかしてスドウは家名ですか?」
「家名…そうですね、そんなところです」
「そうですか…そういう事ですのね…ではこれからハルキ様と呼ばせて頂きますわね」
アナスタシアは何かブツブツと独り言を呟くとニッコリと笑って頷いた。
美少女の笑顔は眩しい。
本当は『様』も不要だがずっとフルネーム呼びされる違和感よりマシだ。
「ハルキ様、武器は如何しましょうか?」
「ぶ、武器ですか?」
「何か慣れ親しんだものはありませんでしょうか? 剣や弓を嗜まれた事は?」
アナスタシアの問に春希は戸惑った。
平和な国で育った春希は武器と呼ばれる物は持った事もない。
目つきが悪くガンを飛ばしていると勘違いされる事はあっても元々が平和主義者なので喧嘩も禄にした事がなかった。
勇太は昔から剣道をやっていたので何度か練習を見学したり試合の応援に行ったりしたが、当然ながら見学したくらいで身に付くものではない。
「特にないですね…」
「そうですか、困りましたわね。ハルキ様の武器や戦闘スタイルに合せてパーティーを編隊しようと思っていたのですが…」
「すみません」
困ったと言われても自分が戦うというイメージが全くわかない。
でもとりあえず謝っておいた。
武器が使えなくてすみませんと言うよりは勇者じゃなくてすみませんと言う意味だが。
「アナスタシア様、それでは勇者様にはまずレベリングして頂いては如何でしょうか?そうしているうちに適切な武器が見つかるのでは?」
「そうですね、そういたしましょう」
「では私はアレを取ってきますね」
「アレがいいでしょうね。お願いします」
暫くしてコンスタンチンが1m四方くらいの木造りの箱と、細身の剣を持ってきた。
箱は簀子のように等間隔に隙間がある。
その中に半透明のジェルのような物からみっちりと詰まっていた。
「なんですか? これ?」
「これは貴族や豪商の子供が手っ取り早くレベリングする為に開発されたもので、中にスライムが詰まってます。」
「使い方はこうですわ」
アナスタシアはコンスタンチンからレイピアを受け取ると箱の隙間にぶっ刺した。
「キュッ!」
「鳴いた!?」
「スライムの断末魔です」
「さ、ハルキ様どうぞ」
アナスタシアからニッコリ笑ってレイピアを差し出されたら受取るしかない。
「さ、刺すんですか?」
二人ともにウンウンと頷かれ、春希は意を決して剣を突き刺した。
「キュッ!」「キュッ!」
今度は2つの鳴き声が聞こえた。
箱にサーベルを刺しても中に入っていた人は大丈夫でした!という手品に似ているが、こちらは確実に中身に被害が出ている。
しかも意外と鳴き声が可愛いので罪悪感が半端ない。
「勇者様! ドンドンやっちゃって下さい!」
「さぁ一思いに!」
二人に応援され、春希は半泣きで『ごめんなさい、ごめんなさい』と心の中で呟きながらザクザクと何度も箱にレイピアを突き刺した。
今更ながらはじめまして。後藤マリアです。
誰も見てもらえないだろうと思っていましたが、ポツポツPVがありとても嬉しいです。
ありがとうございます。
こういった物を書くのははじめてで子育ての合間に書いてるので絶対とは言えないでますが、しばらくはなるべく毎日更新したいなと思っています。
拙い文章ですが、時々でも覗いて頂けると嬉しいです。
〜次回プチ予告〜
アナスタシアと侍女のガールズトーク