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第46話


「ミレイア… ミレイア…」


 大人しくなったもののめそめそ泣き続けるミハイルに皆は辟易していた。


「ほんっと、女々しいんだから。情けない」


「まあ『女々しい』と言う言葉は男性の為にありますからある意味男らしいかと」


 面倒くさそうに言い捨てるアナスタシアに春希がフォローにならないフォローを入れると、ミハイルは余計においおい声をあげて泣き始めた。


「もうその辺にしといてやれよ」


 勇太は女性陣にけちょんけちょんに言われるミハイルが気の毒になり、一応仲裁に入ってみた。


「いい加減泣きやんで貰わないと困りますわ」


 アナスタシアは大きな溜め息をついた。


「ユ…じゃなくて、アレクセイさん。好きな人が結婚するってなった時どうすれば諦めがつくかな?」


 春希はついいつものくせでユウと呼んでしまいそうなり慌てて言い直した。


「いや、俺もそんな経験ないし分からないけど… いっそ結婚式に行ってみるとか?」


「それ良いですわね! 幸せな二人の様子を見ればいい加減諦めるでしょう!」


「嫌だ! 私はそんな物見たくないぞ!!」


「あら、先程ミレイア様は手篭めにされたとか喚いていたではないですか。もしそうなら幸せな二人の様子なんて見られないはずですよね?」


「うっ…」


 ミハイルはアナスタシアに正論をぶつけられてぐうの音も出せずに黙り込んだ。

 ミハイルだって本当はミレイアが嫌々結婚するとか、無理矢理手篭めにされたとか思っていない。

 ただただ結婚を認めたくない気持ちでいっぱいなのだ。


「まあまあ、遠くからチラッと見るくらいしてみてもいいんじゃないですか? 先生が辛かったら帰ってもいいし、ミレイア様が嫌そうだったら助け出してもいい。見ない事には何もできないでしょ」


 春希がそう言うとミハイルは少し考えてコクリと頷いた。


「では勇者一行の皆で行きましょう。そうすればミレイア様のお祝いの為に一時帰還したと民に思って貰えるでしょうし、万が一ミハイルが暴れたらまたアレクセイさんに羽交い締めにしてもらえますからね」


 アナスタシアはニッコリ微笑んでちゃっかり羽交い締め要因を確保し、皆でルベンチェンコ家の婚礼の儀にお忍び参加する事になった。


 

 なんでもミレイアはルベンチェンコ伯爵家の一人娘なのでお婿さんを貰うらしい。

 お相手は子爵家の三男で、頭が良くておっとりした優しい人だと、春希の髪をセットしながらエレナが言っていた。

 エレナも貧乏ながら男爵の爵位を持つ貴族の家の娘なので、噂程度には知っているらしい。

 

 身支度を整え、一行は馬車に乗り込み婚礼の儀が行われる会場へと向かった。

 馬車は一台に四人までしか乗れないので、一台に王族であるアナスタシアとミハイル、もう一台にそれ以外のメンバーが乗る事になった。

 勇太も城にあった礼服に身を包んでいるが、元々持っていたアレクセイのルックスがようやく生かされた感じだ。


「なんて言うか、今まで装備が悪すぎたね」


「それについては俺もそう思う」


 春希の言葉に勇太は素直に頷いた。

 アレクセイはちゃんとした格好をすれば相当にかっこいいのだ。

 初めからこの姿であれば勇者を名乗っでも信じて貰えたかもしれない。


 馬車がルベンチェンコ伯爵領に入ると、街もお祝いムードで活気に満ち溢れていた。

 領主の家の者の婚礼の儀は市民にも開放されていて、出席したい者は自由に出席できる。

 また人が集まる所には特需が生まれて、出席者相手の行商なども集まって来て市民にとってはお祭りの様な物なのだそうだ。


 他の出席者達とは見るからに違う豪華な馬車なのでこちらを見ている者も多く、おそらく勇者一行だと気付かれているようだ。

 目があった女性に春希が笑顔で手を振るとキャーっと黄色い声があがった。


「なんか勇者が板についてるな」


「召喚されてからずっとやってるからね」


 勇太は元の世界では見た事のない春希の人気者っぷりにちょっと引いていた。

 春希は元の世界では恐がられてばかりいたのにこちらに来てからは主に女性から絶大な人気を誇っている。

 女性から黄色い声援を浴びるほど魅了スキルのランクが上がって行って、今やCランクだ。

 あと時々何をした覚えもないのにレベルが上がる事がある。

 お茶会や出立パレードの時なのだが、もしかしたら春希が『魔人』で魔族としての一面があり、かつこの魅了スキルのお陰で誰かが失神した時に人間を倒した扱いになって経験値が入ったのではないかと春希は推測している。

 お茶会ではシャルロッテが失神したし、出立パレードでも失神者が属続出したと聞いている。

 そうなるとこうやって春希は愛想を振りまくだけで平和的にレベルが上がる事になり、非常においしい。

 愛想は積極的に振りまく方向で行こうと思う。


「ハルはこっちの世界にいた方が幸せなんじゃないか?」


「え? いやいや何言ってんの」


「ハルキがこちらの世界にいてくれれば、皆も喜ぶだろう」


 勇太の何気ない一言に春希は一度拒否しようとしたが、ヨハネスまでそう言うので少し考えた。


「いや、やっぱりないでしょ。こっちにいる限りずっと勇者のフリしなきゃいけないし、第一家族に会えないし」


 人気者なのは悪い気分はしないが、春希自身の人気ではなく勇者と言うブランドがある事が大きく、そのブランドがなければ結局ただの人だ。

 人気を保つ為には勇者であり続けなくてはならないし、そうなるとこの先もずっと皆を騙し続ける事になってしまう。

 やはり心苦しいし、永遠に人を騙し続けられる程強靭な心臓は持ち合わせていない。

 それにやはり祖母と両親に会いたい。

 ヨハネスが少し残念そうな表情をした事に春希は気づいていなかった。


 馬車が会場前に到着した。

 勇者一行が来ている事はあっという間に噂が知れ渡っていて、沢山の人が見物に集まっていた。

 春希に声援が集まると不思議な現象が起こった。


「え? マジか??」


「どうしたの??」


 しきりに目を擦る勇太に春希は訊ねた。


「ハルの背中に羽根が見える」


「え!?」


「てかめっちゃヅカっぽく見える」


 勇太は以前姿絵を見せてもらった時は正気を疑ったが、今なら納得だ。

 確かに羽根が見えるし、すごくキラキラして見える。

 

「ヨハネスにも見える?」


 春希の問いかけにヨハネスは黙って頷いた。

 これも魅了スキルのなせる技なのだろうか。


「え! 嘘!? アレクセイ!?」


 その時一際大きな声でアレクセイの名が聞こえ、一同は振り返り、勇太は目を見開いて驚いた。


「ニカ!?」


 そこにいたのはアレクセイの元恋人のニカだった。


「知り合い?」


「アレクセイの恋人だったんだけど、勇者だから旅に出るって言ったらフラれたんだ」


 勇太は春希にこっそり答えた。


「それアレクセイが可哀想じゃない?」


「そうだけどどうしようもなくて」


「勇者一行になったって知ったら元サヤに戻れたりしないかな?」


「うーん、試してみるかなぁ」


 人混みを掻き分けて勇太達に近付こうとして警備兵に止められていたニカを春希が頼んでこちらに通してもらった。


「アレクセイ、これって一体どういう事なの?なんで勇者様と一緒にいるの??」


「えーっと、勇者一行になったんだよ」


「ホント、なの?」


「うん」


「そうなんだ… アレクセイ、偉くなったのね…」


 勇太の言葉にニカは目をパチパチさせていた。

 ついこの間までド田舎の村の狩人だった恋人が、突然村を出て行ったかと思ったら勇者と行動を共にしているなんて、とても信じられない話だろう。

 だがアレクセイが勇者を同じ馬車から降りてくるその時を自分の目で見ているのだ。

 否定の使用もない。


「初めましてニカさん」


 春希は話しかけると、ニカは頬をピンクに染めて答えた。


「初めまして勇者様! 私はアレクセイと同じ村出身のニカと申します! アレクセイは迷惑をかけていませんか?」


「アレクセイさんにはいつも助けて頂いてますよ」


「それならいいんですが…」


「こんなに可愛いらしい方とお知り合いだなんて、アレクセイさんも隅に置けませんね」


「そんな… 可愛らしいだなんて…」


 春希に見られれば見られる程、ニカの顔が真っ赤に染まって行く。


「こらこら、俺の目の前で口説くなよ」


「世間話だよ」


 このままではアレクセイとよりを戻すどころか春希に落とされかねない。

 勇太はそっと春希を牽制した。


「兎に角、ニカ、後でちゃんと話そう! どこに行ったらニカに会える?」


「私、この先の串焼き屋で売り子してるからそこに来て」


「分かった」


 とりあえず今はミハイルの事が先決なので、後で会う約束をして一端ニカと別れた。

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