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第43話


「と、まぁこんな事があって、ちょっとどうして良いのか分かんない状況で…」


 春希の話を聞いて勇太も頭を悩ませていた。


「うーん… ハルのご先祖様が魔王の血縁者かもしれないって事だよね? でもそんな事本当にあるのかな?」


「無いと思う?」


「いや、ペラ神の話ではさ」


「ペラ神って何?」


「あ、ごめん、それは一旦スルーして。ここに来る前に神様に会ってさ」


「こっちに来る前にトラックに轢かれたじゃん? そもそも俺が勇者であそこで轢かれて召喚されるのは俺だった筈なんだよ。それをハルが庇ったから座標がズレて代わりに召喚されたらしい。で、その影響で色々まずいことになってて」


「色々って?」


「こっちの世界が消えて」


「何それ恐い」


「あっちの世界ではハルとハルの家族が消えてた」


「何それ恐い!!」


「だろ? なんでもそこにあったはずの物を消すと、思いもよらぬ事が起こるリスクがあるらしい。それにさ」


 勇太はアイテムボックスから『異世界の歩き方』を取り出して春希に見せた。


「神様から貰ったんだ。異世界で過ごす為のガイドブックみたいなもんなんだけど」


「何それいいな! 私の時はこんなん無かったよ! てか神様になんて会ってないし!」


「ハルは人工的に召喚されたからだろ。てか全然良くないし! 神様からの支給品ってこの身体とガイドブックだけで後は着の身着のままだからな!」


「え、バックパッカーより身軽じゃん…」


「身軽どころじゃないぞ。最初の方なんてボロ布着て焼いただけの肉噛って旅してたからな」


「マジで…」


 春希は勇太の境遇に同情した。

 勇太に比べれば自分はガイドブックこそ無いが三食昼寝イケメン指導者美人ガイド馬車付きでのほほんと過ごしてきた気がする。


「そんな苦労してさ… もしかして、もしかしなくても、私を探しに来てくれたって事だよね…」


 春希の心を塞き止めていた箍が外れ、その目に見る見る間に涙が溢れ出てきた。


「お、おい、泣くなよ」


「ごめん、自分で思ってたより気を張ってたみたいで…」


「あーもう…」


 やっぱり女の涙は苦手だと思いながら、勇太は春希を抱き締め、その背中を擦ってやった。


「泣くなよ〜」


「こ゛め゛ん゛」


「探しに来たのはそうなんだけどさ、ハルの為だけってわけじゃないから」


「どういう事?」


「なんか世界が急に変わった感じがしてめっちゃ恐かったんだよ。だからハルの為だけってわけじゃなくて、世界の為でもあるし、寧ろ俺の為だし」


 そうは言っても異世界が消えても勇太にとっては関係の無い話だし、春希達が消えたとしても勇太自身に何かが起こるわけでもない。

 それなのに自分の為だと言い切ってしまうのは実に勇太らしい。

 こんな風だから勇者に選ばれてしまったのだろうと、今なら想像できる。


「ユウって昔からホントお人好しだよね」


「普通だろ」


 『絶対普通じゃないよ』と言う言葉の代わりに春希は微笑んだ。

 春希に笑顔が戻った事で勇太もホッと息を吐いた。


「話それたけどさ、このガイドブックではあっちの世界とこっちの世界では時間の流れにあって、こっちの10日があっちの1日らしい。それでさ、ハルこっちに来てから髪とか伸びてないんじゃね?」


「そうそう、髪も爪もほとんど伸びてなくて、不思議だなとは思ってたんだけど」


「俺は身体はこっちの世界の人のだからそんな事はないけど、ハルの身体はあっちの世界の物だから時間もあっちの世界と同じよいに流れてるんじゃないかな?」


 勇太の推測が正しければこっちの世界で10年過ごしても肉体的には1歳しか歳を取らない事になる。

 それならそろそろ生え際が見えてきてもおかしくない髪も、爪も、ほとんど伸びていないのにも説明がつく。


 それでふと気付いたが、春希の寿命が日本人の平均寿命くらいだと仮定するとあと60年ほどある事になり、こちらの世界で60年分歳を取ろうと思うと600年かかる事になる。

 魔族の寿命がどれくらいかは分からないが、魔王が今600歳くらいだと言っていたので、それだけ寿命があれば魔王もできるとか言われかねない。

 この事は内密にしておいた方がよさそうだ。


 それはさておき、問題は春希とは逆パターンで転移した場合どうなるのかだ。


「それなら逆にこっちの世界からあっちの世界に転移したら10倍のスピードで歳を取る事にならない?」


「たぶんそうなるんじゃないかと思うよ。転移したらあっと言う間に歳取っちゃうし、世界にどんな影響が出るか分からないならわざわざ自分から異世界に行こうとは普通は思わないよね。ハルみたいに無理矢理召喚するにしても、俺達の世界にはそもそも魔法とかないわけだし、不可能だよな?」


「そうだね…」


 あと考えられるのは、こちらの世界から誰かに無理矢理転移させられたか、何も知らずに転移してしまったのか、知っていたけどのっぴきならない事情があって転移したのがだが、いずれの場合も世界にどんな影響が出るか分からないのは同じだろう。


「考えても真相は分からないんだから、それは一旦置いとこうぜ」


「ユウは魔王を見てないから実感わかないかもしれないけど、生き別れの兄だって紹介されたら信じるくらいマジで似てるんだよ」


「まあまあ、でも問題の一個は片付いたじゃん。勇者は俺なんだから、勇者を説得する手間は省けただろ」


「それについてはホント感謝だね」


 春希とっては気楽に置いておけるほどどうでもいい問題でも無かったが、確かに勇太が本物の勇者であった事で肩の荷が少し下りたのは事実だ。


「どうする? 今から魔王に会いに行くか?」


「遊びに行くみたいに気楽に言うけど、このまま会いに行ったら間違いなくアナスタシア様達が突入してくるよ。出来れば魔王の姿は見せたくない」


「アナスタシア様って金髪とピンクどっちの美少女?」


「あれ? もしかして皆に会ったの?」


 勇太は春希に偽勇者一行に会った経緯を簡単に説明したが、ヨハネスの事は綺麗に割愛した。


「あー、確かに騒いでたね。アナスタシア様は金髪の方で、因みにピンクは男の子だからね」


「はぁ!?」


 予想通りの反応に春希は少し笑った。


「兎に角、魔王城に突入されたら困るからここで皆を待とう。それで一旦撤退して、スキを見て二人で魔王城に来よう」


「それが一番無難だろうな」


 春希の提案に勇太は同意し、皆が魔王城に到着するまで口裏を合わせておく事にした。

 偽勇者一行が魔王城に到着したのはその少し後だった。


「ハルキ様! ご無事だったんですね!」


 アナスタシアは春希の姿を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。


「アナスタシア様、ご心配をお掛けしました。アレクセイさんの手助けもあって脱出できました」


「ゴウチャンはどうしたんだな!?」


 コモドの問いに、春希は悲しそうな顔で答えた。


「豪ちゃんは人質に取られてしまって…」


「おのれ魔王! やはり外道ですね!」


 テレサレーゼは義憤に駆られていた。


「どうする! 突入して取り戻すか?」


「いえ、待ってください」


 今すぐにでも魔王城に飛び込む勢いのミハイルを勇太が止める。

 勇太の目には微かにこれが男なのかと、戸惑いの色が見えたが、それを見分けられたのは春希だけだろう。


「不測の事態が発生しました。一度撤退しましょう」


 春希がそう言うと一同の視線が春希に集まり、皆の疑問をアナスタシアが代弁した。


「不測の事態とは一体何なのでしょうか?」


「簡単に言うと、魔王はこちらと戦う事を望んでいないようです」


「魔王が勇者と戦う気がないなんてそんな事あるんだな?」


「信じられないかもしれないけど、今の魔王は平和主義みたいで」


「また上手い事を言って! ハルキ様! それがあの男の手なのです! 騙されてはいけません!!」


 憤慨するテレサレーゼをまあまあと勇太が宥めながら訊ねた。


「テレサレーゼさんは魔王と面識があるんですか?」


「直接対峙した事は有りませんが、魔王の話は聞いた事があります。とても信じられない様な話ばかりですが」


 仮に面識があれば春希の顔を見た時点でもっと驚いてる筈だ。

 面識がないのはそれはそうだろうと思うが、信じられない話と言うのが気になった。


「その信じられない話とは?」


「それが、魔王は本当は優しいとか、魔王は誰かがやらなければならない役割で今の魔王は実は魔王になりたくなかったとか、代わりの魔王を探してるとか」


 春希は驚いた。

 側近のロスタですら今まで知らなかった魔王の内情を知っている人物がいて、しかもその人物はエルフのテレサレーゼに話が出来るほどには近しい人物だと言う事になる。


「テレサレーゼさん、その話は一体誰から聞いたんですか?」


「それは…」


 春希な訊ねると、テレサレーゼは言い澱んでハッキリしない。


「兎に角、こちらも無闇に戦うのは得策だとは思わないので一度撤退して策を練り直したいんです」


「ハルキ様がそう言われるなら…」


 勇者の春希がそう言うのならと、話が纏まりかけたのだが、テレサレーゼだけは断固反対した。


「嫌です! 私はこのまま突入します!」


「テレサレーゼさん落ち着いて。一人で突入してどうにかなる相手ではないですよ」


 勇太が宥めてもテレサレーゼは納得しない。


「でも!」


「いずれまたここに戻る時が来ますから、一度私達と撤退して下さい」


 勇者だと思われている春希にもそう言われ、最終的には渋々ながら撤退を受け入れた。

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