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第40話



「すごいな…」


 ミハイルが勇太の作った道を通りながら呟いた。


「完全に置いて行かれましたね」


 アナスタシアはアレクセイと言う冒険者を実力者なのだろうとは思っていたが、これ程までとは思っていなかった。

 本気を出した勇太のスピードに一行は全くついて行けずにあっと言う間にその姿を見失ったのだ。

 自分達の限界までスピードを上げても追いつけないうえに、道は一行が通りやすいように少し広めに枝葉が落とされている。

 つまり、彼自身の限界はもっと上にあると言う事だ。


「テレサレーゼさん、アレクセイさんって何者なんですか?」


 アナスタシアの問にテレサレーゼは答えにくそうに答えた。


「私も詳しくは… 実は親切な駆け出し冒険者と言う事くらいしか知らないんですよね」


「あれで駆け出しなんだな!?」


「私もそれにしては強すぎるなと思って、ハーフエルフなんじゃないかと思ったんすけど本人には否定されました。狩人をしてたからとかなんとか」


「あんな狩人いないだろ。経験として無いよりはマシだが冒険者と狩人じゃ求められる物が全然違うぞ」


 ミハイルはまさかそんな話を信じたんじゃないだろうな、と言いたげな様子だった。


「やっぱりそうなんですか? ただ私と旅をしていた時はここまででは無かったと思うんですけど… アイテムの効果でしょうか?」


 実のところ、テレサレーゼと旅をしていた時はテレサレーゼと勇太の間にそう実力差は無かった。

 だが魔の森に入ってからの勇太の成長はめざましく、アイテムの効果と、おまけに春希のピンチに火事場の馬鹿力を発揮していたのだ。


 皆がアレクセイについて談議している間に、ヨハネスは全く違う事を考えていた。


 ヨハネスは無口で女性が苦手だ。

 それもこれも6人の姉達がきっかけである。

 ヨハネスの家は平民だが自分の畑を持つそこそこ裕福な農家で、兄が1人と姉が6人いる。

 もう1人くらい男の子が欲しいと両親が頑張った末に生まれた次男だった。

 そこそこ裕福とは言っても子供が8人もいると生活はギリギリで、おもちゃ1つ買ってもらえない生活の中で小さな男の子は姉達の格好の玩具だった。

 着せ替え人形の様に扱われたり、道具の様に扱われたり、散々な幼少期を過ごし、抵抗する気を失ったまま大人になった。

 体が大きくなってからは流石に無茶な扱いは受けなくなったが、ヨハネスの家の女性達は皆幼い頃から新鮮な野菜を食べているお陰か、はたまた手伝っている畑仕事のお陰なのか、一般的な女性より背も高く逞しい。

 おまけに一家の中にそれだけ多くの女性の口があれば一日中ピーチクパーチク喧しく、ヨハネスは口を挟む間がないまま、気付いたら声の出し方を忘れていた。

 騎士になってからは男ばかりの世界でとても平和だったが、騎士として接した貴族の女性達は金と男とスイーツの話しかしないし、基本的にお互いの足の引っ張り合いに時間を費やす謎の生き物でしかなかった。

 そして女性と言う生き物に恐怖心を抱いたまま今日に至っているわけだが、春希だけは違うように思えた。

 文句一つ言わずに真面目に鍛錬し、相手に不快感を与えないように反応を見ながら思慮深く行動し、慎ましく、おまけに美しい。

 ドレス姿を見た時の衝撃は今でも忘れられない。

 そして脱出時に抱き上げた時その腰の細さに驚いたのと同時に、男性であるはずの春希に反応して女性アレルギーが発症した事にも驚いた。

 本当に女性であれば理想の女性なのに、と思っていたら本当に女性であった事が分かり、己の幸運を喜ぶと共に女性として春希を守りたいと、そう思っていた時だ。

 腕を振り払われた瞬間の真の勇者であるアレクセイの瞳に並々ならぬ執念を感じた。

 春希とアレクセイは面識があり、それも相当に深い仲の様に感じらる。

 まさか自分が勇者と女性を取り合う事になろうとは思っていなかったが、ここは自分も譲れない所である。

 単純に武力で勇者に敵うとは思えないが、なんとか春希を勇者より先に助け出す方法はないか思案していた。

 そしてあわよくばアレクセイではなく自分を選んではもらえないだろうか。



 魔王城に到着した勇太は日没に備えて待機していた。

 辺りは静寂に包まれていて以前素通りした時と比べて変わった様子もない。

 まだ次代の魔王を決めていないので、今回の潜入の目的はあくまで春希の救出で魔王と交戦する事ではない。

 こっそり侵入して事を荒立てずに救出できればそれが一番良い。


 日が沈むと同時にローブを脱ぎ、『闇夜の衣』に魔力を通して透過させると魔王城へ足を踏み入れた。

 魔王城の門に立つ見張りの魔物は勇太の存在に気付かずにあっさりと侵入を許してしまった。


 魔王城の中は窓が多く、思ったより開放的な作りだった。

 日中であればかなり明るいのだろうが、日がない今は魔法の灯りが廊下を一定間隔で照らしていた。

 人が捉えられていと言えば地下牢か、それもと塔の中に閉じ込められているかが常套だと思うが、下か上かどちらに行こうか迷っているとドスンドスンと重そうな足音が聞こえた。


「ハラヘッタ… ハラヘッタ…」


 足音の主は牛の頭を持つ大男で、『ハラヘッタ』を連呼しながら城の中を歩いていた。

 まさか今から春希を食べに行くのではないかと思い、その牛頭を追う事にした。

 『闇夜の衣』の効果でこちらの姿は全く見えていないようだ。

 牛頭はある扉の前で止まった。


「スベルタ、今入っちゃダメ」


 扉を開けようとするスベルタと呼ばれた牛頭を薄い水色の髪の幼女が静止した。

 今まで廊下にはスベルタしかいなかったはずなのに、一体どこから湧いて出たのだろうか。

 『闇夜の衣』がなければ不意をつかれてあっと言う間に殺されていたかもしれない。


「ローター、ナンデ?」


「お話中。誰も入らないように見張れって。面倒くさいけど」


「ソウナンダ…」


 スベルタはまたドスンドスンと足音を立てながら部屋を素通りして行った。

 ローターと言われた幼女は見た目こそ幼女だが、不意に現れたり、いかにも屈強そうなスベルタが素直に言う事を聞く所を見ると強力な魔物なのだろう。

 その強力な魔物が警護する扉の奥が気になった。

 何か話をしているようだが、もしかしたら春希の居場所のヒントでもあるかもしれない。

 勇太は音をたててローターに気付かれないようにそうっと扉に近づき、鍵穴から中を覗いた。

 そしてそこに春希を見つけた。

 背中しか見えないが間違いない。

 とりあえず五体満足で無事である事は確認できたのでホッと息をついた。

 春希に隠れてよく見えないが奥に男女がいるがあれは魔物だろうか。

 何か話をしているようなので扉に耳をくっつけて聞き耳を立ててみたが会話の内容までは分からない。

 中に入りたいが勝手に扉を開けて中に入ったら流石に何かおかしいと勘づかれてしまうだろう。

 『建付けが悪いなぁ』みたいな感じでスルーしてくれる程魔族も馬鹿ではないと思う。

 などと考えていたらガチャリと扉が開いて、中から難しい顔をした春希が出てきた。

 春希はどんな顔をしていても大抵怒っている様に見られるのだが、幼馴染の勇太から見ると若干ある表情の差で春希の気持ちは分かる。

 この眉間の皺の入り方は『困惑』だ。

 困りながら動揺している顔をしている。


「ローター、お客様のお帰りよ。ご案内して」


「面倒くさい… ロスタがして」


「しょうがないわね」


 ロスタと呼ばれたナイスバディな魔族の女性が春希を先導して歩き始めた。

 勇太も春希に続いて歩いた。

 『お客様のお帰り』と言っていたが魔王城に勇者が連れ去れれたのにまさか無傷で帰してくれるなんて事はないだろう。

 きっと『あの世にお帰り』的な意味に違いないので何か仕掛けてきたら助太刀する気満々だったのだが、そのまさかが起きた。


「じゃ、頼んだ件よろしくね」


「…………善処します」


 ロスタに魔王城の入り口まで案内されるとそこであっさりと開放されたのだ。

 

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