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第38話


 魔の森に足を踏み入れた勇太はとりあえず魔王城を目ざした。

 途中魔物が襲ってくる事はあったが危なげなく撃退し、これと言ったピンチを迎える事もなく魔王城に到着してしまった。

 今魔王城に乗り込んで魔王を倒せたとしても、勇者のもう一つの役割である次代の魔王の選出が出来ていない。

 魔王のいない空白の期間があるといよいよ魔物達の統率が取れなくなって世界が混乱してしまうので、まだ今の魔王に頑張ってもらうしかない。

 それに勇者として魔王討伐に旅立ったはずの春希に未だに会えていないのだ。

 春希に会わずに勇者としての役割を終えてしまうと自分だけ元の世界に戻る事になってしまい、それだと異世界に来た意味がなくなってしまう。

 この世界を救うのはついでで、勇太個人の目的はあくまで春希を元の世界に戻す事だ。

 魔王城を一度素通りした勇太が森を進んでいると、遠くから人の声が聞こえた。

 何を言っているのかは分からないが、何か激しく喚いている。

 それも一人ではなく複数人だ。

 魔物が群れてわーわー言うとは考えられないので恐らく冒険者なのだろう。

 魔の森の奥に来れるくらいなので力のある冒険者達なのだろうが、そんな大声で喚いたら魔物達が集まりかねない。

 自殺行為に等しい行為をなぜしているのか気になった声がする方向に走った。

 その頭上を羽音が静かに横切っていた。




 春希はスベルタの手の中で激しく後悔していた。

 スベルタの言うオシロとは恐らく、きっと、もしかしなくとも魔王城の事だろう。

 そんな所にたった一人で乗り込むなんて無謀な事はしたくないがここは空の上だ。

 電撃でスベルタを感電させる事はできるかもしれないが、それをすると空に投げ出されてしまう事になる。

 魔法で空を飛べれば良いのだが飛行魔法は難しいと聞いたので全く練習していないし、ぶっつけ本番でやってみるには Dead or Alive 過ぎてやる気になれない。

 こんな事なら飛行魔法を練習しておけばよかった。

 成す術なくスベルタの手の中で大人しくしていると、ふわふわとした浮遊感が止んだ。

 目的地に到着したらしい。


「ツキマシタ」


「ア、アリガトウ」


 春希をやけに丁寧に手のひらから降ろるスベルタにつられてお礼を言ってしまった。

 周りを見渡すと、城のバルコニーの様な場所に降ろされたらしい。

 結構な高さがあるのでここから飛び降りて逃げる事は出来そうにない。


「春希!」


「豪ちゃん! なんで!?」


「カルクナッテクッツイテキタヨ!」


 スベルタの背中に重量操作で軽くなったうえでこっそりしがみついていたらしい豪ちゃんが春希に飛び付いてきた。

 ひとりぼっちだと思っていたのでとても心強い。

 持つべき物はゴーレムだ。


「アレ? マスター、ソレトモダチデスカ?」


 スベルタは首を傾げながら春希に向かって訊ねた。


「マスター?? えっと、そう、友達だよ」


「ジャアタベナイデス」


 どういう訳かスベルタは非常に大人しく、春希の言う事を聞いてくれる。

 先程の戦闘の時と大違いの反応だ。


「どうしたのスベルタ、こんな時間に帰ってくるなんて珍しいわね… あら、あなた」


 城の中から現れた人物はロスタだった。

 咄嗟に臨戦態勢を取る春希とは対称的にロスタはのんびりとした様子だ。


「私が迎えに行こうと思ってたのに、あなたが連れてくるなんてね… ま、クレージじゃないだけマシかしら」


「マスター、ツレテキタ」


「ありがとうスベルタ。お腹空いてるでしょ? 私の部屋におやつがあるから食べていいわよ」


「キョウノロスタヤサシイ。オヤツタベル」


 にっこり微笑むロスタを置いて、スベルタはドスンドスンと足音を響かせながら城の中へ入って行った。


「…邪魔者はいなくなったわね。そう恐い顔しないで。あなたに危害は加えないわ」


 魔族にそんな事を言われても全く信用できない。

 警戒を解かない春希をみてロスタは溜息を吐いた。


「警戒するのも分かるけど、私は初めから言ってるはずよ。命は取らないって。私にとってあなたは利用価値があるの。それにあなたを殺すつもりならもう攻撃してるわ」


 確かにここは敵の本拠地であるし、殺すつもりなら攻撃しない理由がない。

 それに『利用価値』と言う言葉は逆に信用できた。

 理由は分からないが、ロスタは初めから春希に何か価値を感じている様子だったし、何か魂胆があった方が攻撃もされずに丁寧に対応されている今の状況に納得できる。

 『利用価値』とは人質的な意味かもしれないが。


「分かりました。とりあえずあなたの言い分を信じましょう」


「物分りが良い子は好きよ。とりあえず私に付いて来てもらえるかしら?」


 春希と豪ちゃんはロスタの後に続いて城の中へ足を踏み入れた。

 魔王城とはおどろおどろしい暗い城を想像していたが中は結構明るくて開放的な雰囲気で、王都の城とそう変わらないように感じた。

 違う点は恐ろしく静かな事だ。

 王都の城は使用人達が常に忙しく働いていたし、出入りする商人や貴族も多く、人の出入りが多いので結構騒然としていた。

 魔王城では人と言うかロスタ達以外の魔族が活発に出入りしている様な雰囲気はない。

 魔物は夜の方が動きが活発なので、今が昼であるからかもしれない。


「ところであなた、女の子なのよね?」


 今は動きやすさを重視した軽装な鎧をつけいて全体的に男性物っぽい装いだが、ロスタとは初対面時がドレス姿だった。

 それに魔物は人間より長命なので人間の女性などいくつになっても小娘みたいなものなのかもしれない。

 ロスタも見た目は色っぽいお姉さんだが、実際はいくつなのか不明だ。


「ええ、そうです」


 久しくされていない女の子扱いに少し動揺してしまったが、男性だと思われると勇者だと言われている人物と勘づかれても困るのでここは女性だと言う事で通そうと思う。


「その格好は趣味なの?」


「そう言う訳では… ちょっと訳ありで」


「そう、依頼の関係ってやつね。冒険者の仕事も色々だものね」


 余計な事を口走ると碌な事にならないので言葉を濁すと、ロスタは勝手に納得してくれたようだ。

 どうやら春希の事をただの女冒険者だと思っているようだった。


 ロスタはある扉の前で止まるとノックをせずに扉を開けた。

 ロスタの部屋なのかと思ったが、明らかに違う感じだった。

 荘厳な椅子が一つあるだけの広い部屋だったからだ。


「あら? いないわね?」


 春希はもしかして、と言う悪い予感を止められないでいた。

 これってもしかして玉座の間と言う部屋ではなかろうか。

 魔王城で玉座の間にいる人物などきっとアレしかない。


「まさかとは思いますが、誰かに会わせようとしてます?」


「そうよ。魔王に会わせようと思ったの」


 ロスタは事も無げに言うが、春希はサーっと血の気が引いていくのを感じていた。

 戦闘訓練を積んでそこそこ強くなったとは思うが、本物の勇者ならいざ知らず偽勇者の春希が魔王に対峙して無事でいれると思えない。


「でもいないみたいね。最近ちょこちょこいなくなるのよね」


「ゴ不在デシタラマタ日ヲ改メマショウ。オ邪魔シマシタ」


「待ちなさい」


 ロスタは踵を返して帰ろうとする春希のクビ根っこを掴んで引き止めた。


「何勝手に帰ろうとしてるのよ」


「私の様な小市民にはいきなり魔王様とご対面は荷が重くて」


「あなたなら大丈夫よ、絶対」


 その自信はどこから来るのか。

 そんな適当に激励されても本人が荷が重いって言ってるんだから、無理なものは無理だ。

 どうにか逃げ出す方法がないか思案していると、玉座の間から眩いばかりの光が漏れた。


「お帰りになったようね」


 間に合わなかった!

 春希はせめてどこか隠れられる所がないか急いで辺りを見渡したが、そこはただの廊下だ。

 隠れられる所などあるはずもなく、じゃあせめてとロスタの背後にひっついて小さく身を屈めて潜んでみた。

 完璧に無駄な足掻きなのだが、それしか出来なかったのだ。


「魔王様、お帰りなさいませ」


「来ていたのか」


「最近よくお出掛けになりますね」


「…何か用があるのではないのか?」


「そうなんです。紹介したい子がいて」


 春希はロスタに引きずられるように玉座の間に入れられてしまった。


「ワーーー!!」


 豪ちゃんが魔王を見て叫んでいる。

 それほどまでに恐ろしい生き物なのだろう。

 春希は恐ろしい魔王の姿を想像して益々ロスタの背中にしがみついたまま顔を上げられないでいた。


「なんだソレは?」


「見てもらえれば分かるはずです。ほら、いつまでひっ付いてるのよ」


 グイと無理やりロスタに背中を押されて前に出された。

 ここまで来てしまったら乗りかかった船だ。

 相手を見ない事には不測の事態にも対応できないので、恐る恐る顔を上げて魔王の姿を見た次の瞬間。


「わーーー!!!!」


 豪ちゃんより大音量で叫んでしまった。

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