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第3話


 てっきり階段の上に王座があるような謁見の間みたいなところに通されるのかと思いきや、案内されたのは食卓だった。

 ただテーブルがとっても長い。

 無駄に長い。

 長方形のテーブルの短辺の席、所謂お誕生日席の扉から遠い方に、巻き髪で立派な顎髭と口髭を蓄えたトランプのキングを実写化した様な中年の男性が座っていた。

 あれが王様じゃなかったら逆にびっくりだ。

 その右隣には赤髪を綺麗に結い上げた女性が、左隣には毛先に軽くウエーブのかかった金髪の少女が座っていた。


「こちらへどうぞ」


 春希は部屋の中に控えていた執事に扉から近い方のお誕生日席に案内され、座った。

 紅いローブの男は春希の左隣の席に案内され着席した。


 こんなに遠くて会話ができるんだろうか?

 まさか会話は全部伝言ゲーム形式でするんじゃないよね?


 と、春希が心配そうにテーブルにそって等間隔に並んだ執事達を眺めていると、目の前に置かれていた箱から声が聞こえてきた。


『この度は突然召喚して申し訳なかった。さぞ戸惑ったであろう。私はニコライ・シェストヴァ・アレクサンドロヴィッチ。このロマノイノフ王国の王である。こちらは王妃エカテリーナ・ヴェリーキイ•アレクサンドラヴィッチ、そして王女アナスタシア・ニコラエヴナ•アレクサンドラヴィッチだ』


 王妃である赤髪の女性は扇子で口元を隠しながら、王女である金髪の少女はニッコリと微笑みながら春希に向かって会釈する。


『そなたをここまで案内したのは王国筆頭魔導師コンスタンチンだ』


「ご挨拶が遅れました。コンスタンチン・ニコラエヴナです」


 箱はどうやらスピーカーの役割をしているらしい。

 返事をする場合はこのままこの箱に話せばいいのだろうかと確認の意味を込めて紅いローブの男、コンスタンチンを見ると大丈夫だと言うように頷いた。


「須藤春希と申します。よろしくお願いいたします」


 気分は取引先との初対面だ。

 何がよろしくなのかはよく分からないが、丁寧に挨拶するにこしたことはないだろう。


『スドウハルキ、よくこの国に来てくれた。この国の全ての民に変わり礼を言おう』


「いえ、お礼を言われるような事は何もしていませんので」


 そしてこれからもするつもりはありません、と言う事は勿論口には出さなかった。


『スドウハルキ、晩餐をしながらこれからの事を話そうではないか』


 王がパンパンと手を叩くと、控えていた執事やメイド達が一斉に動き出した。

 各人にカトラリーが準備され、グラスに透明の液体が注がれる。

ニコライ王は液体が注がれたグラスを軽く掲げると言った。


『栄光あれ』


『『「栄光あれ」』』


 乾杯の挨拶だったらしく、続いてエカテリーナ王妃、アナスタシア王女、コンスタンチンもそれにならった。

 春希はタイミングを完璧に逃してしまったので何も言わずグラスを軽く掲げ、皆がグラスを口に運ぶのを待ってから自分もグラスを口に運んだ。

 透明なのに赤ワインの味がした。

 それもとびきり上等な赤ワインの様な味だ。

 美味しすぎて思わず一気飲みすると、すぐに次が注がれたのでそれもまた飲み干した。


『ほう、スドウハルキはイケる口のようだ』


「とても美味しいですね」


『酒は我が国の特産であるからな』


「元いた世界にも似たものはありますが、これ程美味しいものはそうそう飲めません」


 自慢の酒を褒められたニコライ王は満更でもない様子で顎髭を撫でた。

 アルコールとは恐ろしいものだ。

 つい心の垣根を取り払ってリラックスさせるような魔力がある。


 続いて料理が運ばれてくるが、カラトリーの並びを見ると左にフォーク、右にナイフと見慣れた感じの並びだったので特に何も考えずに一番端の物から使って食した。

 料理も大変美味だった。

 そう言えば鍋を食べに行こうとして食べ損ねたままだったので食事が出たのはありがたかった。

 美味しい酒と料理に舌鼓を打って油断していた時に、その時が来た。


『して、スドウハルキ、魔王討伐についてだが』


「ああ、私は勇者じゃないようなので難しいと思いますよ」


し、しまったーーー!!!


 言おうか言うまいか迷っていた事をほろ酔い気分でついポロッと言ってしまった。

 その場にいる全員がすごい顔をしてこちらを見ている。

 春希の酔が一気に醒めた。

 アルコールとは本当に恐ろしい物だ。


『勇者ではないとは、一体どういうことだね?』


「ええっと、石版がですね、その…」


『石版が?』


「適性の事なのですが…」


 春希の目が泳ぐ。

 覆水盆に反らずとはこの事で、言ってしまった言葉は無かったことにはならない。

 こうなったら適性が『魔人』だったという事だけでも秘匿しなければならない。


「適性が『勇者』ではなかったんです」


『コンスタンチン、確認したのではなかったのか!?』


「申し訳ありません! こちらの言葉で表示されなかったので、で、ですがステータスは『勇者』でなければ説明が付かないほどの高水準でした!」


 哀れコンスタンチンの顔色が土色になっている。


「『勇者』でなければ何と表示されていたのでしょうか?」


「…『システムエンジニア』です」


『スドウハルキ、それは一体なんだ?』


 つい咄嗟に自分の実際の職業が口に出たが、聞きなれない言葉に王は首を傾げた。


「元いた世界で私が就いていた職業でして、なんといいますか、人々の暮らしを楽にする道具の中身を設計する職業、ですかね?」


『魔道具職人と言う事か?』


「魔道具職人とも少し違うような…どういう物が必要なのかを聞きとってどうすればそれが実現できるか考えるのが仕事です。実際に作るのは他の人に任せます」


『作業を細分化しているのだな。面白いやり方だ』


『あなた、話がズレていますわよ。今は職人かどうかが問題ではないでしょう。これはあなたの責任ではなくって?』


 王妃エカテリーナの笑顔が恐い。

 これは王様を尻に敷いてるタイプの王妃様だ。

 間違いない。


『大体私は反対だったのですよ。本来なら神から遣わされるはずの勇者を召喚で呼び寄せるなんて』


「どういうことでしょうか?」


 春希の問に答えてくれたのは王女アナスタシアだった。


『伝承によれば、勇者は本来なら然るべき時が来れば神から遣わされる物なのです。ですが早くこちらに来ていただければそれだけ被害が少なくなるのではないかと、お父様と一部の側近達の意見で今回は先んじて召喚する事に…』


「つまり待ち切れなかったと?」


『端的に言うとそうなりますね。申し訳ありませんスドウハルキ様』


「いえ、元の世界に帰して頂ければ私としては問題ありませんで」


『そういう事で、よろしくね、コンスタンチン』


「申し訳ありません。できません」


「え!?」


「勇者召喚が決まってから召喚術はなんとか確立しましたが、派遣術までは…」


「え!?じゃあ帰りはどうするつもりだったんですか!?」


「伝承では魔王を倒せば帰れるとの事でしたのでそれでよいかと思っておりましたので…」


でた!なんでも伝承頼り!!

じゃあ勇者じゃない場合はどうやって帰れって!!?


『お父様、どうなさるおつもりですか?』


『どうするんですの!?あなた!!』


 ちょっと泣きそうになってる春希を見かねて王女アナスタシアと王妃エカテリーナはニコライ王を責め立てた。


『う、うるさい! うるさい! まだ勇者じゃないと決まったわけでもないじゃろ! そうじゃ! 石版の表示に誤作動がでたのだろう! そうだろうコンスタンチン!!』


「ええっと、そういった事がないとも言えない事もない事もないような…」


『ステータスは高水準だったと言っておったではないか!!!』


「そうですね! 誤作動だと思います!! 召喚による副作用か、もしくは元の世界での職業経験の練度が関係しているのかもしれませんね! なにせ勇者にはなりたてですからね!! 適性は変化する事がありますから、これから変わるのではないでしょうか!? たぶんそう、いえ、きっとそうだと思います!!!」


 えええええ〜

 そんな無理矢理なぁ〜


 王の威厳はどこに行ったのか、突然駄々っ子の様になったニコライ王にもそれに丸め込まれてそれっぽい事を言い出したコンスタンチンにも春希は開いた口が塞がらなかった。


『そうですね。勇者召喚自体前例が無いことですから、そういった事もあるかもしれません。お義母様(おかあさま)、訓練をしながら様子を見ると言う事で如何でしょうか?』


『帰すことができないのでしたら仕方ありませんわね』


『と、言うわけでスドウハルキ様、勇者(仮)として頑張りましょう』


 こうして勇太が言っていた勇者が魔王討伐を目指さざるを得ない理由に当たらずも遠からずな様子で、戸惑っているうちに王女アナスタシアがテキパキと話をまとめてなんとなく勇者を目指す的な展開にされてしまっのだ。


〜次回プチ予告〜


効率的なレベリング

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