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第35話


「豪ちゃんなんか大きくなってない?」


 最近なんか視界に影ができるなと思っていたら、いつも頭に乗っている豪ちゃんが大きくなっているからだと気付いた。

 よく見たら手のひらサイズだったはずなのに今は1.5Lのペットボトルくらいのサイズになっている。


「ゴウチャンツヨクナッタ! ダカラオオキクナッタヨ!」 


 少しずつだったので気付いていなかっただけでどうやらレベルアップに伴って大きくなっていたらしい。


「そうなんだ。でも重さはあまり変わらないね」


「オモサハカエラレルヨ。オモイト春希カワイソウダカラカルクシテタ」


 そう言えばロスタと戦っていた時も重くなったりしていた。

 豪ちゃんは重くなったり軽くなったりは自在らしい。

 豪ちゃんの優しさで軽くなって春希の頭に乗っていたらしい。


「これ以上大きくなると頭に乗せるのは大変そうですね」


 アナスタシアの言うとおり、これ以上大きくなられると頭に乗せると視界を遮りそうだ。


「そうですね。豪ちゃん、じゃあこれからは自分で歩こうか?」


「ゴウチャン、アルクヨ」


 豪ちゃんは春希の隣をテクテク歩き始めた。


「愛らしいですね」


 アナスタシアはその様子を微笑ましく見ていた。

 今はまた愛らしいサイズだが、もしかしてこのままレベルアップして行ったら巨大になったりするのだろうか。

 できれば可愛い姿を維持して欲しいな、と考えながら春希と一同は魔の森に入って行った。

 因みに魔の森からは流石に馬車は入れないので徒歩の旅になる。


 魔の森はその名の通り魔物の巣窟だった。

 とは言えコモドの幻術によるドラゴンのお陰でうようよいる弱い魔物は寄って来なかったし、またにいる怖い物知らずは豪ちゃんがキックで撃退したので春希、アナスタシア、ミハイル、ヨハネスはほぼ何もせずに済んでいる。


「暇だな」


 ミハイルは活躍する間が無くて少々不服そうだった。


「おいら頑張るんだな!!」


「ゴウチャンモガンバルヨ!!」


「コモド、無理はしなくていいからね?」


「無理なんかしてないんだな!!」


 豪ちゃんはいつも張りきっているが今回はコモドもすごく張りきっている。

 先日恐がって何もしなかった事を気にしているらしい。

 豪ちゃんはその頑張りのお陰で春希の希望に反してメキメキ大きくなって行った。

 1.5Lペットボトルサイズだったのに、今や既に体長1mくらいある。


「豪ちゃんオオキクナッタ! バンザイ!」


 まあ本人は喜んでいるし、仕方ないかと春希は諦めた。

 それに大きくなっても愛らしい物は愛らしいままだった。

 今は無邪気な子供のようで愛らしく感じる。


 日が落ちると森の中は本当に真っ暗になる。

 魔法で灯りを出す事はできるが、夜は魔物の動きが活発になるのであまり動き回るのは得策ではない。

 夜は移動をせずに見張りをたてながら交代で休む事にした。

 見張りは2人でするが、豪ちゃんは睡眠が必要ない便利な体なので、豪ちゃんとあと1人は交代でという事になった。

 豪ちゃんは睡眠どころか飲食もしないし春希から魔力の供給を受けているわけでもなく、いったいどういう原理で動いているのか謎だ。

 初めにはヨハネスが見張りを買って出てくれたのでそれに甘え、春希達は先に休んだ。

 しばらく仮眠を取ったあと、ヨハネスに交代を告げに行った時の事だった。


「見張りご苦労様でした。交代しましょう」


「…いや、少し時間をくれ」


 ヨハネスが喋った!

 本当に普段全然喋らないのでたまに喋られるとびっくりする。


「いいですけど、どうかしました?」


「聞きたい事がある」


 以前ヨハネスの声を聞いた時は非常事態中だったし、それもたった一言だった。

 だからあまり記憶に残ってなかったがこうして改めて聞くとなかなかのイケボだ。

 春希はヨハネスの右隣に腰掛けた。


「聞きたい事ってなんですか?」


 恐らくロスタが行っていた『魔人なのではないか』という言葉についての追求だろうと春希は思っていた。

 が、実際にヨハネスの口から結構長い沈黙の後に出た疑問は別物だった。


「………勇者殿は、女性なのか?」


 ギクリと春希の体が硬直した。


「どうして、そう思いました?」


 春希が訊ねると、ヨハネスは自分の左袖をまくり、右手で春希の腕を触った。

 するとヨハネスの左腕にみるみる間に鳥肌が浮かび始める。


「自分は極度の女性アレルギーだ」


「女性に触れるとこうなるんですか?」


 春希の問にヨハネスは頷いた。

 恐らくお姫様抱っこされた時に気付いたのだろう。

 女性に少し触れただけでこうなってしまうなんて、今まで色々と苦労があった事だろうと想像できる。

 しかしアレルギーでないと女性だと気付かれない自分も悲しい。


「実は、そうです」


「では勇者ではないのか?」


 ヨハネスの問に今度は春希が頷く。


「春希ユウシャジャナイノ?」


「うん、実はそうなんだ。ごめんね」


 豪ちゃんは少し小首を傾げて考える素振りを見せると言った。


「豪ちゃん、春希がユウシャジャナクテモスキ!」


「ありがとう」


 豪ちゃんは春希が勇者ではなくてもあまり関係ないようだ。

 ヨハネスからは怒って怒鳴られるのではないかと内心ビクビクしていたが、予想に反してヨハネスは静かに溜息を吐いた。


「召喚は失敗だったのだな」


「そうなります」


「元の世界に帰る術はないなか?」


「召喚は出来ても帰す事は出来ないみたいでした」


「本物の勇者を待つしかないのか…」


「そうですね… あの、黙っていた事を咎めたりしないんですか?」


「言い出せないだろう事は予想がつく」


「結果的には騙している事になるので、せめて魔王討伐だけは勇者と共に頑張るつもりです。それに魔王を倒せば帰れる可能性もあるので」


「勇者殿」


「その… 勇者ではないので春希と呼んでください」


 本当は一度ペロリと白状してしまったのだが、そこからはむしろ意図的に勇者らしくしようとしていた節があるので春希としては罪悪感はある。


「ハルキに責任はない」


 だがヨハネスは突然異世界に女性一人で連れて来られて真実を話せる方が稀有だと思っていた。

 それどころか突然召喚して女性に戦闘訓練をつませてこうして戦地に送り出しているのだ。

 もっと治安が悪かった時代は僻地の子供を誘拐して兵士として訓練し、戦争に送り込むと言う事が横行していたと聞く。

 やっている事がそれと同じだ。

 女性一人でよく弱音も吐かずここまで頑張ったと思うし、それと同時に国の行いに怒りすら覚えていた。

 ヨハネスは膝をつき春希に深々と頭を下げた。


「この度の我が国の所業、本当に申し訳なかった」


「ええ!? やめてください! ヨハネスにこそ責任はないでしょう!?」


 ヨハネスは王国軍の部隊長であったが元々平民であるし、勇者召喚には全く関与していない。

 ヨハネスにこそ一切の責任はないのだ。


「しかし」


「しかしもかかしもないです! 本当にやめて下さい!!」


 春希はヨハネスの腕を引っ張って無理矢理立たせたが、ヨハネスが女性アレルギーだったとはたと気付いて急いで手を放した。


「すみません。触っちゃいけないんでしたね」


 放した手を今度はヨハネスが掴んだ。


「ハルキは必ず自分が守る」


「豪ちゃんモ春希マモルヨ!」


 ヨハネスは真剣な眼差しで春希を見つめていた。

 生真面目なヨハネスの事だから責任感からそんな事を言っているのだろうと予想はつくものの、恋愛経験が乏しく男性とこんなに接近する機会が無かった為思わず照れてしまう。


「あ、ありがとうございます…」


 恥ずかしくてまともにヨハネスの顔を見れないが、やっとの思いでそう返事を返した。


「おい! そろそろ交代してや…………」


 そこに交代を告げにミハイルがやってきて固まった。


「すまない。邪魔をした」


「先生ちょっと待って!」


 春希は急いで踵を返してその場を離れようとするミハイルを静止する。

 絶対何か誤解されている気がする。


「私は何も知らん!」


「いやいや! 知らんって何を!?」


「戦地で男同士気持ちが通じる事もあると聞く! 私は見ていないから気にするな!」


「見てる! それ見てるよね!? てかそーゆーのじゃないから!! 誤解だからね!!」

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