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第34話


 テレサレーゼと別れた勇太は道中で倒した魔物の素材を買い取って貰う為にその足で冒険者ギルドへ向かった。

 因みにテレサレーゼは商業ギルドへ向かっているはずだ。

 テレサレーゼに登録証について説明をして、テレサレーゼは住民になるつもりはないし、冒険者として階級を上げるつもりも依頼を受けるつもりもないらしいのでそれならば更新料の安い商業ギルドで作った方が良いだろうと言う話になった。

 道中の狩りの成果も綺麗に折半したのでそのまま商業ギルドで売ってお金に変えるつもりだろう。


 冒険者ギルドでブロンズ級の登録証とアイテムボックスの中身を次々に出して行くと、最初は笑顔だった受付の女性の顔色が変わっていく。


「あの、まだあるんですか?」


「今半分くらいですかね?」


「ふぁ!?」


 メリッサと似たような反応をされながら買取をしてもらい、懐が暖まった所で次は装備を見に行く事にした。

 タイラーの所で見立ててもらった装備もまだ使えるが、これから魔の森に入って魔王と戦うつもりなのでそれなりの物を揃えておいた方が良いだろうと思い、目に入った装備屋の扉を開けると見知った顔がいた。


「いらっしゃ〜い」


「タイラーさん!?」


 出迎えてくれたムッキムキでゴリゴリのオカマの店主はどう見てもタイラーだった。


「あらぁ〜 あなたタイラーのお店に行った事があるのねん。アタシ、タイラーの姉のテイラーよ♪」


 テイラーはバチンと勇太に向かってウインクをした。

 その仕草まで本当にそっくりだ。

 しかし姉ではなく兄なのでは? と思ったがそこは突っ込まないことにした。


「そうなんですか… よく似ていますね」


「そうでしょ! タイラーは小さい頃からアタシの真似ばかりしてたから」


 タイラーとの違いはテイラーの方が目が少しパッチリした感じで、胸板が少し厚い…

 もしやこれは胸板ではなく胸なのだろうか?

 だとしたら本当に姉なのか??

 すごく判断に困るが万が一胸だったらセクハラ扱いされて殴られそうなので目を逸らす事にした。


「あらあなた、うぶなのねん♪」


 その反応がテイラーのお気にめしたようだ。


「それで、どんな装備が欲しいの?」


「防御力を強化したいのと、あとはやっぱり剣が欲しいですね」


 タイラーが見立ててくれた防具や武器も悪くないのだが『勇者っぽい』に縛られすぎているような気がした。

 弓は今のでいいが一人で魔王と戦う事を考えると接近戦に強くなるように整えたい。


「そうねぇ、じゃあ剣はこれなんかどう?」


 テイラーが持ってきてくれた剣を握ってみて試す。


「うーん、ちょっと軽いですかね?」


「意外に筋肉あるのね」


 あれやこれや持ってきてくれるがいずれもしっくり来なかった。


「あれ? テイラーさん、あれは?」


 店の壁の真ん中辺りをぐるっと縁取っている装飾用のモールディングに部屋の角を利用して渡す感じで引っ掛け、ハンガーラック代わりに使われているそれに気付いた勇太が訊ねると、テイラーは答えた。


「あれは先代の店主の頃からあるものだから私も詳しくは知らないんだけどダンジョンのドロップ品らしいわよ。刃が無いから模造刀みたいな物だと思うんだけど、使い方がよく分からなくてずっと売れ残ってるの。でも使わないともったいないでしょ?」


「ちょっと持ってみていいですか?」


「いいけど?」


 勇太はそれに掛けられていた物を一旦すべて置いて、使い方不明の模造刀だと思われているそれを手に取ってみた。

 見た目も手に持った感じも完璧に竹刀だった。

 今の勇太には重さは軽く感じるが、剣道をやっていた勇太にとっては使い慣れているせいかとてもしっくりくる。


「これ、試す事とかできますか?」


「庭に巻藁があるわよ」


 庭に出て巻藁に向かって構え、面の要領で打ち込む。

 するとパン! と音がして木の棒に巻きつけてあった藁が吹き飛んだ。


「あら! それそうやって使うの!?」


「みたいですね。これいただきます」


 勇太が知る竹刀ではこんな風にはならないので驚いたが、これなら武器として申し分ない。

 それに普通の剣より使い慣れていて使いやすいのでこの竹刀を購入する事にした。


「まいどあり♪ じゃあ防具はうんとサービスしちゃうわ♪」


 長年の在庫品が片付いた事で上機嫌になったテイラーはなにやら店の奥でガサゴソすると木箱を手に持って来た。


「うちの店のとっておきよ! 性能が凄いからいざと言う時に売ろうと思って取っておいたの」


「そんな凄いの出していいんですか?」


「よく分からないけど、この子はあなたが装備する為にうちに来た気がするのよ。ただの勘だけどね」


 畏れ多く思いながらも木箱を開けると、中身はジャケットとパンツだった。


「『闇夜の衣』よ。生地にミスリルが編み込んであるから鎧より丈夫で軽いの。効果は防御力強化と俊敏性強化。夜は透過効果もあるわ」


 黒い生地にミスリルで作られたキラキラしたスパンコールが縫い付けてあるそれは美○憲一が着てそうなデザインで、性能は良さそうだが若い勇太が着るのは精神的ハードルが高い。


「いやぁ〜 これはちょっと…」


「なによ? 気に入らないの?」


 私の見立てに文句をつけるつもりかと、言わんばかりに睨まれて勇太は怯んだ。


「気に入らないとかじゃなくて、ほら、キラキラしてるから街中では目立つなって…」


「なんだそんな事。街ではローブでも被ってればいいじゃない」


 確かに街ではローブを被っていれば分からないし、魔の森の奥まで行ってしまえば人もいないので恥ずかしくもないだろう。

 それに魔物の動きが活発になる夜に透過効果がある『闇夜の衣』の性能はとても魅了的だ。


「そうですね。じゃあそうします!」


 ローブと『闇夜の衣』は大幅に値引きしてくれ、売れ残りの竹刀はタダ同然で譲ってくれた。

 サービスしてくれたので予想以上に性能のいい装備が買えたが代わりにローブに竹刀、脱ぐと往年の演歌歌手と言う勇者とは程遠い謎装備になった。

 これで勇者と言っても誰も信じないだろう。

 まあ元から誰にも信じてもらえてないが。

 結局テイラーが兄なのか姉なのかはハッキリしなかったが、この謎装備に比べれば些細な問題だ。


 その後食料の補充なども済ませた。

 ローブと変わった形の杖に見える竹刀のお陰で魔法使いだと思われたのか、使い道の分からない草や石などを薦められたりもしたが断った。

 そしていざ魔の森へと足を踏み入れようとした時だった。

 前方に見知った後ろ姿を見つけた。

 うっすらと紫がかったプラチナブロンドの美しい髪、間違いなくテレサレーゼだ。

 魔の森には冒険者であれば入る事もある。

 魔の森はその名の通り魔物が多いのであまり奥に行かなければ絶好の狩場であるからだ。

 ただ冒険者になるつもりもないテレサレーゼが入って行くのは解せない。

 世間を知らないテレサレーゼの事だから、もしかしてまた誰かに騙されたりして間違って入ってしまっているのではないかと心配になり、声をかける事にした。


「テレサレーゼさん!」


「え? 誰? …あ! アレクセイさん!」


 服装がすっかり変わってしまって一瞬誰だか分からなかったようだがローブから覗く顔を確認してアレクセイだと気付いたらしい。


「なんでここにいるんですか!? ここは『魔の森』ですよ!?」


「え、ええ…」


 テレサレーゼはバツが悪そうに目を逸らした。

 どうやら知らずに入ったわけでは無さそうだ。


「何か訳ありですか?」


「すみません! こればかりはアレクセイさんにも言えないんです!」


「テレサレーゼさん!? 待って!!」


テレサレーゼは勇太の静止を聞かずに森の奥へ走り去ってしまった。

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