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第31話


「ハルキ様! ヨハネス! ご無事でしたか!」


 屋敷を出るとすぐアナスタシア達が駆け寄っきた。


「ヨハネスが負傷しました!」


「すぐ治療しましょう!」


 アナスタシアが治癒魔法でヨハネスの傷を治す。


「それにしても良く異変があった事が分かりしたね」


 ヨハネスは豪ちゃんを指差しながら答えた。


「コイツが教えてくれたんだ」


「ゴウチャン、春希ガアブナイノワカルヨ」


 どうやら豪ちゃんには離れていても春希の異変が分かる機能が備わっているらしい。


「それで一体何があったんですか?」


 ヨハネスの治療を終えたアナスタシアが訊ねた。


「噂のポドロフスキー辺境伯の側室の女性ですが魔族でした」


 春希は今回の事の顛末を話した。

 『魔人』なのではないかとロスタに言われた事は言おうか言うまいか迷ったが、ヨハネスは会話の内容を一通り聞いているはずだが、一言喋っただけで再び口を噤んでいる。

 言ったほうがいいだろうか?と訊ねる意味で視線を合わせたが、特に何も反応がなく好きにしろと言われているような気がしたので黙っておく事にした。


「お、おいらそいつ知ってるんだな」


 コモドが慌てた様子で口を開いた。


「魔王直属の四天王の一人なんだな! 恐いんだな!」


「その話詳しく聞かせろ」


 震えるコモドにミハイルが詰め寄った。


「貪欲のロスタなんだな。何でも欲しがって手に入れるまで絶対諦めないんだな。精神攻撃が得意で心から相手を屈服させて支配して行くんだな!」


「確かに何か催眠術みたいな感じだったな。おそらくパーティーに出席した人達は全員操られてる」


「ロスタは怠惰のローターと姉妹で、大体いつも二人で行動してるんだな」


「厄介だな」


 ミハイルの言うとおりだ。

 魔族のロスタ相手ならともかく、人間相手だとこちらも手荒な真似はし辛いし、コモドの話だと敵は複数いる事になる。

 複数の強力な魔族相手に沢山の人間を助け出す事ができるだろうか。


「ポドロフスキー辺境伯も操られてるいるのでしょうか?」


「操られているわけではないようでした」


 ポドロフスキー辺境伯はロスタに対して静止するような言動を見せていた。

 操られていると言うより協力させられていると言った方がしっくりくる。


「ポドロフスキー辺境伯も何か訳があって今回の様な事態を起こしたのでしょうね。何とかしなければ」


 アナスタシアはそう言うが、押し入って制圧するにしても屋敷には強固な魔法の結界が張ってある。

 あれも恐らくロスタの術だったのだろう。

 招待もなく中に入るのは難しい。


「応援を呼びましょう」


 アナスタシアは自身のアイテムボックスからピンク色のアフロのかつらを取り出し、それをなんの躊躇もなく被った。


「アナスタシア様、それは何ですか?」


「通信の魔道具です。これが脳波を読み取って離れた場所にいる人間に思念を飛ばす事ができるのです」


 そう言えば以前エレナにスマートフォンを見せた時、丸くてふわふわした通信の魔道具があると言っていた。

 それがこれなのか、と納得はしたが、ピンク色のアフロのかつらを被る王女とは何ともシュールな光景だった。

 しかも真面目な顔をして目を瞑っているので瞑想しているようにも見える。


 暫くするとコンスタンチンが文字通り飛んでやってきた。


「お待たせしました」


 コンスタンチンは背中に天使の様な羽を付けていて、それが転移の魔道具らしい。

 本来は金髪イケメンのコンスタンチンがつけると偉い天使の様になるはずだが、頭に通信の魔道具もつけているせいですごくコントっぽい仕上がりになっている。

 以前エレナが持ってくると言っていた羽はたぶんコレだったのだろう。

 つくづく止めておいて良かったと、春希は思った。


 コンスタンチンには外から結界を破ってもらう。

 国軍を送ってもらうことも考えたが、相手が精神攻撃を仕掛けてくる以上人数を増やすとかえって相手に操られてしまう可能性があるので、潜入は少人数での方がいいと言う事になった。

 精神攻撃への耐性は威圧に対する耐性と同じらしい。

 ヨハネスが何とか耐えられたのも耐性のお陰なのだそうだ。

 相手の術を破る事ができたヨハネスと、アナスタシアとミハイルも耐性は強い方だと胸を張るので付いてきて貰うことにした。


「コモドはどうする?」


「おいら、恐いんだな」


 コモドの話ではロスタの精神攻撃は魔族相手には少し効きにくくなるらしい。

 なので魔族のコモドに付いてきて貰えると嬉しいが、こう恐がっていると難しそうだ。

 そもそも出来る事をすればいいと言う約束だったので、今回は控えておいてもらうことにした。


「ゴウチャンハ春希マモルヨ!」


「ありがとう、豪ちゃん」


 結局いつものメンバーで再度屋敷に突入する事になった。

 コンスタンチンは結界を破る為に魔法陣の書かれた大きな布を敷き、その中心部分に立つと杖に魔力を込めながら長い呪文を唱えた。

 呪文を唱えている間にも屋敷を覆っていた膜のような物にヒビが入っていく。

 王室筆頭魔導師の座は伊達ではないようだ。

 あれほど強固に感じた結界が今では卵の殻より脆いものに感じる。

 そして呪文を唱え終ると、結界は綺麗に霧散していた。


「行きましょう」


 春希が言うと一同は頷いた。


 屋敷の中はつい先程までパーティーをしていたとは思えないくらいシンと静まり返っていた。

 パーティーをしていた会場に再び入ると、そこにいたはずの貴族達は一人もいなかった。


「待っていたわ」


 その代わり、ロスタが逃げも隠れもせず壇上に佇んでいた。

 その傍らにはポドロフスキー辺境伯が縛られた状態でグッタリしている。

 春希達は戦闘態勢を取った。


「戦ってもいいけどあなた達に勝ち目はあるのかしら?」


「勝ち目ない。面倒くさいから早く諦めて」


 パーティー会場の入口、春希達が先程通った場所に水の渦が現れたかと思うと、中から一人の少女が現れた。

 薄い水色の長い髪と白い瞳を持つ幼い少女だ。

 この少女がロスタと姉妹というローターだろう。

 幼い容姿に似つかわしくない禍々しい気配を纏っていた。

 前にはロスタ、背後にはローターと挟み撃ちにされている状態だ。


「他の人達はどこですか?」


「生きてるわよ、ちゃんと」


 春希の質問にロスタは答えた。

 不思議な事にロスタに先程は感じていた敵意が感じられない。


「返してもらえますか?」


「あなたが私に協力してくれるなら返してあげなくもないわ」


「協力?」


「命は取らないわ。私に付いてきてくれればいいの。ただそれだけよ」


「…ポドロフスキー辺境伯は何故縛られているのですか?」


「いらなくなったからよ。殺してもいいけど、あなたとの交渉に使えると思って。こう見えて私、平和主義だから」


「ハルキ様、相手の話に乗ってはいけません」


 アナスタシアに言われるまでもない。

 恐らくロスタはポドロフスキー辺境伯と何らかの約束をしていたのだろう。

 そしてその約束を一方的に破棄して相手を縛り付けている状態だ。

 平和主義が聞いて呆れる。

 春希が協力すれば人質を返す、命は取らないと言う約束も守られる保証はどこにもない。 


「そんな怪しい契約は結べませんね」


「あらそう、残念ね。じゃあ無理矢理でも連れて行くわ!」


 ロスタの右腕が再び蛇に変化して春希に襲いかかった。


「ゴウチャン、イキマス!」


 豪ちゃんが春希の頭の上から飛び出して蛇の頭を抱えた。


「オモタクナリマス!」


「クッ!!」


 ズン!と音を立ててロスタの腕が床に落ちた。

 豪ちゃんの宣言通り重量が変わったのか、ロスタは腕が上がらない様子で顔を歪めた。


「面倒くさい…」


 ローターは水の矢を無数に飛ばし、春希達を襲った。

 その矢はヨハネスによって叩き落とされたが、次々に矢は降って来る。


 ミハイルはロスタの頭を目掛けて矢を放った。

 ロスタはその矢を左上で受け止めると叫んだ。


「そこのピンクの頭の子! 好きな女一人物にできないようね! 私に協力すれば物にしてあげるわよ!!」


「何!?」


 ミハイルの顔色が変わった。


「それに金髪の女! あんたには好みのイケメンをあげるわ」


「え!?」


「先生! アナスタシア様! 何揺れてるの!?」


「ち、違いますわ! 揺れてなんかっ!」


「そ、そうだぞ! 魔族の協力など必要ない!!」


 慌て方に全然説得力がないよ! と、思いながら、春希はローターから仕掛けられた水の矢を槍で受け流し、ロスタの方へ飛ばした。

 ロスタはその矢を石のように硬い蛇の左腕で真っ二つに折るとローターに叫んだ。


「ローター! もう少し真面目にやりなさい!」


「面倒くさい…」


 ローターはそう言いながらも唄を唄いはじめた。

 聞いたこともない不思議な旋律だ。

 身体から力が抜けて意識が遠くなって行く気がする。

 このまま聞き続けるとヤバイと判断した春希は槍に電気を纏わせてローターに向かって投げつけた。

 槍は水の矢に阻まれローター自身に当たる事はなかった。

 だが、ローターの周りは水に満ちている。


「キャーーーッ!!!」


 バリバリバリバリ! とローターの周りの水に電気が走り、ローターの身体にも電気が通り抜けた。


「ローター!」


「先生! ロスタに矢を!」


「分かった!」


 ローターが感電して慌てた様子のロスタに向けてミハイルに矢を放ってもらい、それに魔法で電気を付与した。


「はあーーーん!!!」


 矢はロスタに叩き落とされたものの、腕が濡れていた為水に反応して広範囲に電気が広がった。

 豪ちゃんは矢が届く直前にロスタの右腕から離れ、素早く春希の元へ戻って来た。

 矢はミスリル製ではないので春希のミスリルの槍程の威力は込められないが、それでも中々の威力だったようだが、ちょっと色っぽい声だったような気がしたのは気のせいか?


『いいわぁ。もっと欲しくなっちゃった…』


 全身が蛇に変化したロスタは蛇の口で舌なめずりをし、倒れたローターの身体を咥え、飲み込んだ。


『次は本体で迎えに来る。必ず私の物にしてみせるわ』


 ロスタの身体を中心にして地面に渦が出来ると、地面に沈み込むようにロスタの身体が飲み込まれていった。

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