第2話
とっても面倒な事になってしまった。
「とりあえず我が国の王と謁見して頂けないでしょうか?」
と紅いローブの男にお願いされ、断りきれずに王と謁見する為に長い廊下を歩いていた。
右へ左へやたらと何回も角を曲がるしさっきから似たような廊下を何度も通っている。
どこをどう通ってきたかもう分からなかった。
今ここで置いて行かれたら確実に迷子になる自信がある。
異世界召喚や魔王討伐などは漫画やゲームではよくある展開ではあるが、そもそも春希はそんな展開に納得いっていなかった。
幼馴染の勇太がよくそんな感じの漫画を読んだりゲームをしたりしていたが、戦争のない平和な国で育った主人公が、チートやらスキルやらをもらったからと言っていきなり剣を振り回して戦ったりできると思えない。
主人公達はそんな無理をお願いされて縁もゆかりもない人達を救う為に何故恐い思いをしないといけないのか、何故すぐ魔王討伐を引き受けて旅立つのか、気がしれない、と言ったことをユウに訴えた事がある。
「そりゃオトコノコの憧れだろ? ロマンが分かんないかなぁ〜」
「全然分からん。じゃあユウは今から『戦争行け』って言われたら行く? 行かないよね? 無理無理! 恐いし! ってならん?」
「まぁそうだけどさぁ〜じゃあこう考えたらどうだ?主人公も本当は行きたくないと思ったけど断れる雰囲気じゃなかったんだよ。異世界で知り合いも味方もいない、帰り方も分からない、てか魔王を討伐するまで帰さないとか、もしかしたら引き受けないと今すぐ殺す! みたいな脅しをかけられてるのかもしれない。だったら魔王を討伐しますって事にしてとりあえず旅立つんじゃね?で、その辺の事はストーリー上割愛されてるとか」
「あ〜まぁ、それなら納得かな?」
先程ステータス確認の石版に表示されていた適性が頭をよぎる。
『魔人』ってなんだろう。
ランプを擦ったら出てくる願い事を叶えてくれる陽気な精霊の姿した浮かばない。
いや、あれは『魔人』ではなく『魔神』だったっけ?
どちらにせよ願い事を叶えるような存在になったつもりはない。
自分が勇者では無いことを早めに言ったほうが良いのだろうが、人違いだったからと言って素直に元の世界へ返してくれるだろうか?
相手は勝手に呼出して世界を救え、魔王を倒せと無理難題を押し付けてくる輩達だ。
今は勇者だと誤解されているので一応丁重な扱いを受けているが、人違いと分かったら掌を返してくる可能性がある。
「あの、まだ結構かかりますか?」
「申し訳ありません。作法なものですから」
建物内部の構造が容易に分からないようにわざと複雑な道順で案内するのが作法らしい。
似たような廊下だと思ったがむしろ全く同じ廊下を何度も通っているのかもしれない。
だがなかなか辿り着かない方が春希とっては好都合だった。
この間にできる限り情報収集をしておいた方がいい気がする。
「王様にお会いするのに気をつけるべき作法とかはありますか?」
うっかり失礼をしてしまっていきなり打ち首になったらたまらない。
これは一応訊ねておいた方がいいだろう。
「王も勇者様が異世界から来られている事はご存知ですから、作法の違いをとやかくいうような事はないと思います。」
「そう、ですか…」
いきなり打ち首と言う事態は避けられそうだ。
とりあえず勇者だと思わてれるうちは、だが。
「先程の適性ですが、他の方はどんな物が出るのでしょうか?」
「それぞれですよ。その人が生まれ持った最も適性のある職業が表示されます。大抵の方は適性にそった職業につきますが、違う職業に就く人もいますね。その場合もなるべく適性に近い職業に就く方が望ましいとされています」
あれは職業適性検査的なものなのか。
だとしたら適性職業『魔人』って…
もっと謎である。
「適性って変わる事があるんですか?」
「ありますよ。元の適性と努力次第ですが。因みに私の適性は『魔導師』で適性の通り『魔導師』になりました。例えば『魔術師』なら比較的転向は容易く、『魔法剣士』ならまだ可能性はある、『剣士』は難しいと言うわけです」
なるほど。
春希はプログラマー志望だったが営業的側面もあるシステムエンジニアになった。
そこまでならなんとかなっても例えば保険の営業は難しい、という事か。
しかし『魔人』は他に何になれるのか。
まさか『魔王』になれます。とか言わないよね?
春希は一抹の不安を抱いた。
この適性はなるべく隠した方がいい気がする。
何か違う適性をでっち上げて申告して、間違いでした、お帰り頂きましょう、さようなら、という平和的な流れになんとか持ち込めないものだろうか。
勇者でないなら用はない、死ね、のパターンも捨てきれない為非常に迷うところだ。
「さて、長らく歩かせてしまいまして申し訳ありませんでした。こちらで王がお待ちです」
あー! 迷っている間に到着してしまった!
「勇者様ご到着されました!」
焦る春希を余所に扉の脇に控えていた執事が春希の到着を大声で告げてしまう。
『勇者様ご到着されました』
『『勇者様ご到着されました』』
『『『勇者様ご到着されました』』』
『『『『勇者様ご到着されました』』』』
『『『『通せ』』』』
『『『通せ』』』
『『通せ』』
『通せ』
「勇者様、おなーりー!!」
中で伝言ゲームでもしているのか、声が段々小さくなってその後大きくなり、最後はまさかの時代劇調の掛け声で扉が開けられた。
やめて! 恥ずかしい!
春希は顔が赤くなるのを止められなかった。