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第24話


「でもなんでわざわざ幻術でドラゴン出したりして驚かしてたの?」


 春希はコモドに訊ねた。


「それは… おいら恐がりだからあんまり戦いたくないんだな。でもお腹すいちゃって… ここのダンジョンに来る人間、あんまり強くないんだな。脅かしたらすぐどっか行っちゃうから、ご飯食べてる所を狙って脅かしてたんだな」


 ドラゴンが出たり出なかったりだったのは食事をするかしないかの差だったらしい。

 逃げた後の放置された食事を狙っていたという事だ。


「ご主人様達は」


「春希でいいよ。ご主人様とかガラじゃないし」


「ハルキ達は強そうだから隠れておこうと思ったんだな。でもおいらすごーくお腹すいてたし、ご飯が美味しそうだったんだな。ここの冒険者のご飯あんまり美味しくないんだな。堅ーいパンとか、堅ーい干し肉とか」


「そう言えば貴様、戦闘中になんで片付けようとしたんだ?」


「え? 散らかしっぱなしで放置したら環境に良くないかなと思って」


 ミハイルはようやくえづきが収まったらしい。

 春希はキョトンとした表情で答えた。


「馬鹿なのか? ダンジョンなんだから放って置いても時間が経てば吸収されるだろうが」


「あー、そう言えばそうだったね」


「二度と戦闘中に片付け物などするな」


「肝に銘じます。先生」


 なんとも間抜けな注意を受けてしまった。

 ミハイルに言われて気付いたが、ダンジョンではダンジョンに元々あった物以外は時間が経てば吸収されると文献に書いてあった。

 ドロップ品も早めに拾わないと吸収されて失くなってしまうとか。

 だからゴミなどもそのまま放置して置いても大丈夫だが、忘れ物をすると吸収されて二度と帰ってこないから注意が必要だ。

 命の危険が迫っている時はそうも言ってられないが。


「お腹がすいてたんだったらもっと上の階層にいた方がよかったんじゃないの?」


 このダンジョンに来る冒険者は駆け出し冒険者ばかりなので金持ちのボンボンじゃない限り皆基本的に金欠で、持って来れる食料の質も量もたかが知れている。

 質は変わらないにしても量を稼ごうと思ったら人が多い上層部にいた方が稼げると思う。


「上の方は人間が多すぎて恐いんだな。下の方も強い魔物が多くなって恐いんだな」


 つまり中層部が人間がそこそこ少なくなっていてそんなに強い魔物もいないのでちょうど良かったと言う事らしい。

 コモドはあれもこれも恐いと言うが、魔物なのに魔物が恐いって相当だと思う。

 しかもなんと本当はダンジョンに潜むのも薄暗くて恐かったのだと言う。

 リザードマンとしては皆と違うと言う理由で迫害され、住みたくない所に隠れ住んでお腹をすかせていたと思うと可哀想になって、春希はスープを再度温め直してコモドに振る舞った。

 

「美味しいんだな〜」


「果物も食べる?」


「く、くだもの! 食べたいんだな!」


 梨もどきを出して皮を剥こうとするとそのままでいいと言うのでそのまま上げた。

 ダンジョンの中では温かいスープも果物も手に入らないらしく、コモドは尻尾をブンブン振りながら喜んで食べていた。


「ハルキ様はお優しいですね」


「優しいと言うかなんと言うか… 自分に重なると言うか…」


 アナスタシアの言葉に対して春希は言葉を濁した。

 元の世界では恐い恐いと言われ続け、来たくも無かった異世界に連れて来られ、女である事を隠さなければならない自分の状況と重なったのだ。

 ただ春希の場合はお腹はすかせてないので少しマシなのかもしれない。


「ハルキみたいに優しい人間がいっぱいいるならおいら異世界に行きたいんだな」


「優しい人ばっかりでもないからオススメはしないかな」


 実際たまたま春希が爬虫類好きだっただけで、爬虫類が苦手な人の方が多数派だろう。

 おまけにこれだけの巨体だ。

 爬虫類が苦手な人からしたらコモドは恐怖の対象でしかない。

 ただ、爬虫類好きからしたら喋るコモドドラゴンなんて喉から手が出る程欲しいと思う。

 と、言うかめっちゃ研究とかされると思う。


「でもおいらに良く似たのがいるんだな? だったらやっぱり行ってみたいんだな!」


「良く似たのはいるけど、喋るのはいないかな」


「そうなんだな…」


「いや、でももしかしたら知られてないだけでどこかにはいるのかも!」


 コモドがあんまりしょんぼりするのでついありそうもない事を言ってしまった。

 でも、ありそうもない異世界があったんだから喋るトカゲくらいどこかにいてもおかしくないよね?と、春希は無理矢理自分を納得させた。


「コモドさんはハルキ様の従属になったわけですが、大丈夫なんでしょうか?」


「何がなんだな?」


 アナスタシアを問にコモドは首を傾げた。


「私達は今から魔王を討伐に行くのですよ? 魔物であるコモドさんが勇者の味方をして大丈夫なのでしょうか?」


 そう言われば、これは裏切り行為になるのではないか。

 そのせいでコモドが増々迫害を受けるのなら、やめておいた方が良いかもしれない。


「無理しなくていいからね?」


 春希がそう言うとコモドは首を横に振った。


「それは大丈夫なんだな。今まで誰もおいらの事助けてくれなかったんだな。おいらの事カッコイイって言ってくれてご飯をくれるハルキの方が大切なんだな!」


 なんだかとっても懐いてくれたらしい。

 ただご飯に関しては春希は温めただけだ。


「でもおいら臆病だから役に立てるか…」


「出来る事をすればいいよ。コモドの得意な事は何?」


「おいら幻術が得意なんだな!」


「確かにあの幻術はちょっとやそっとじゃ見破れない程精巧でした」


 アナスタシアが認める程の幻術ならこの旅では十分使える戦力だと言える。

 なぜなら、春希は魔王城に辿り着くのが目的であって魔王を倒す事ではないからだ。

 幻術で不要な戦闘を避けて魔王城に辿り着ければ平和的で万々歳だ。


「コモドは幻術で雑魚を蹴散らす係で! できる?」


「任せるんだな!」


「春希、ゴウチャンハナニガカリ?」


「豪ちゃんは引き続き護衛係かな」


「ゴエイ?」


「守るって事だよ」


「ゴウチャン、ハルキマモルヨ! ゴエイスル!」


 とりあえずダンジョン内のドラゴンについては無事に対処出来た事を知らせにコモドと共に街へ戻る事にした。


「えーっと、ダンジョン内のドラゴンですが、この魔物の幻術でした」


「脅かして悪かったんだな」


「この通り本人も反省してますし、これから私達の旅に同行するのでもう大丈夫です」


 コモドを見て街の人達も冒険者も初めはギョッとしていたが、意外にも例の食堂の女の子はコモドを全く恐がらず背中に乗って遊んだりしていた。

 その様子を見て危険な魔物ではないと分かってもらえたようだ。

 小さな女の子が恐がってないのに、大人の冒険者が恐がるわけにはいかないもんね。


「やはり子供は本質を見抜くのですね」


「……………」


 だとしたら私の本質はおばちゃんでもなくおじちゃんなのだろうか?

 アナスタシアが微笑ましい、といった様子で呟くが、それは春希にとってはかなり心中複雑な言葉だった。

 隣で『どっちが王女さまなの?』と聞かれたミハイルも複雑な表情をしていた。


 こうして春希は『旅の途中で困っている人を助けて仲間を増やす』と言う伝承に図らずも沿った形で旅が進んでいたのである。



 …………………

 あれ?

 何か忘れてない?

 

「あれ!? ヨハネスは!?」


「「あ」」


「ヨハネスって誰なんだな?」


「ヨハネスハダンジョンニイルヨ〜」


 固まったまま動かなかったヨハネスをダンジョンに忘れて来た事を思い出した。

 ダンジョンに吸収されてなきゃいいけど…


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