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第23話


「じゃあ休憩がてら何か食べましょうか」


 アイテムボックスにはお城のコック長ご自慢の料理の数々が保存されている。

 アイテムボックスの中は時間が止まっているらしく、食べ物を入れておいても腐らないし熱い物は熱いまま、冷たい物は冷たいままという優れ物だ。

 とはいえ、アイテムボックスに入れるまでに少し冷めてしまったりしているので食べる直前に温めたり、切り分けたり盛り付けたり簡単な調理は必要だろう。


 ここで春希ははたと気づいたが、このパーティーで簡単な調理ができるメンバーって限られているのではないか。

 アナスタシアとミハイルは王族なので自分で食事を準備すると言う概念がなさそうだし、豪ちゃんは体が小さいのでできない。

 春希は独り暮らしをしていたので普通に料理くらいはできる。

 ヨハネスは実力未知数だけど、庶民出身だから生活能力はあるだろうし、王国軍にいたわけだだからきっと遠征とかで調理の経験はあるだろう。

 

 アナスタシアとミハイルは予想通りちょこんと座って何か出て来るのを待っている。

 アナスタシアは以前サンドイッチを持って来て自分が作ったと言っていたが、その設定はもういいのだろうか?


 とりあえずアイテムボックスからトマトスープっぽい赤いスープが入った陶器でできた瓶を取り出しているとヨハネスが黙って火を起こしてくれていた。

 瓶の中身を鍋に移して火にかける。

 スープだけと言うのもなんなので果物でもと思ってアイテムボックスをあさると梨っぽい果物が出てきたので皮を剥いて食べやすい大きさにカットして出してみた。

 温まったスープはヨハネスが黙って人数分をお皿に装って配ってくれた。

 何気にヨハネスって気が利く人だ。

 スープと果物と、あとカットしたバゲットで軽食を取る。

 スープは見たまんまトマトスープの味なのだが梨っぽい果物は梨では無かった。

 皮を剥いている時から柔らかいとは思っていたが、食感は桃で味はぶどうだった。

 これはこれで美味しいからいいけど。


「ダンジョンの中でこれだけ美味しいものが食べられるって結構贅沢な旅ですよね」


「あとデザートが欲しいな」


 春希にとっては果物はデザートなのだが、ミハイルにとっては物足りないらしい。


「甘いものばかり食べてると」


「分かってるよ、背が伸びないんだろ?」


「ハルキ様ったらミハイルのお母様みたいですね」


「いやぁ、ハハハ」


 この世界に来て初めての女性扱いで少し嬉しいが、こんな大きな子供を生む様な歳ではない。

 それに勇者でなければ男ですらない事は隠さないといけないのだ。

 春希は笑って誤魔化した。


「春希、ミーシャノオカアサンナノ???」


 豪ちゃんが混乱して首を傾げている。


「豪ちゃん違うよー。みたいだね、って話」


「これが母親なわけなかろう」


 ミハイルが心底嫌そうに言うのでちょっと傷つきながらも和やかに食事をしている時だった。


『グルルルルル』


 と、地の底から響く様なうめき声が聞こえた。


「ドラゴンか!?」


 ミハイルが素早く体制を変えて音の方向へ弓を構えた。

 アナスタシアは後方に移動して杖を構える。

 ヨハネスはミハイルやアナスタシアよりも早く反応し、誰よりも前に出て剣と盾を構えていた。

 春希は皆から一歩遅れて槍を構えはしたが、頭の中では鍋とか片付けなきゃと緊迫感のない事を考えていた。

 経験の差が如実に出た形だ。


『グルルルルル』


 ドラゴンと思しきうめき声が段々と大きくなり、ついにその姿を現した。


『人間共、ここから立ち去れ』


「人語だ!」


 ミハイルの弓を構える手に力が入る。


「かなり知能が高いですね! 注意して下さい!」


 魔物は基本的には人語は話さない。

 人語を操るがと言うことはそれだけ知能がたかく、強力な魔物である事を示している。


『グルルルルルルルル』


 立ち去れとは言うもののドラゴンは動かず、攻撃をしようともしない。

 この間に食器や食べ物を片付けた方がいいかもと思い、春希が鍋に手を伸ばしたその時だった。


『待て人間! 鍋は置いて行け!!』


「くっ!」


 突然春希に吠えたドラゴンに向かってミハイルは咄嗟に弓を放った。

 その軌道はドラゴンの額に当たるように真っ直ぐ飛んだはずだった。

 しかし、矢はドラゴンに当たることなく額をすり抜けてダンジョンの壁に突き刺さったのだ。


「このドラゴン幻術ですわ! 奥に本体がいるはずです!」


「春希マモルヨ!!」


「あ! 豪ちゃん!!」


 アナスタシアの声をスタートの合図にしたかのように、豪ちゃんがダンジョンの奥へと飛び込んで行って、何かをバシバシと叩くような音が聞こえた。


「わ! わ! 降伏するんだな! やめるんだな!!」


「ゴウチャン、マモノヤッツケタ!」


 豪ちゃんと、その後ろからズルズルと音をたてながら魔物が出て来て、その姿を見て皆が言葉を失った。


「こ、これは一体なんですの?」


「う、気持ち悪い… おぇ」


「………………」


 アナスタシアは血の気の引いた顔で一歩後ずさり、ミハイルはえづいている。

 ヨハネスはやはり無言で固まっていた。

 そんな中で春希だけは違う反応を見せた。


「うわ! かっこいい!」


「「「え!?」」」


 一同がぎょっとした顔で春希を見ていた。

 かっこいいと言われた当の本人すら驚いている。


「オオトカゲじゃん! 初めて見た!」


 出て来たのは体長3m程の巨大なトカゲだった。


「オオトカゲってなんだ!?」


「え? こっちにはいないの?」


「リザードマンに似ているようですが、このように蛇のように地を這うリザードマンは見た事がありませんね。おぞましい…」


「ううううう… うわーん!」


 おぞましいと言われたオオトカゲが突如泣き出した。


「え! オオトカゲさんどうしたの??」


「おいら、リザードマンの変異種なんだな… 皆に気持ち悪いって言われて、ここに逃げて来たんだな…」


 春希はおいおい泣くオオトカゲが可哀想になって背中を擦ってあげた。


「そうなんだ… 大変だったね…」


「おいら、自分が変で気持ち悪いの知ってるんだな」


「そんな事ないよ。ここでは珍しいかもしれないけど、あっちでは結構いるよ」


「あっち?」


 オオトカゲは目に涙を溜めながら春希を見上げた。


「ハルキ様は異世界から来られた勇者様なのです」


「ゆ、勇者!? ごめんなさいなんだな! 倒さないで欲しいんだな!!」


 アナスタシアに春希が勇者だと知らされたオオトカゲは短い腕で頭を抱えたプルプル震えている。


「倒さないから、大丈夫だって」


「本当なんだな?」


「うん。 大丈夫、大丈夫」


「異世界にはこんなのがウヨウヨいるのか?」


 ミハイルはまだ吐き気があるのか口を抑えながら訊ねた。


「ウヨウヨってほどでもないけど… 割といるよ。ペットとして飼う人もいるし。でもここまで大きいのはコモドドラゴンぐらいかな? 確か2mとか3mとかあって、あんまり大きいからドラゴンなんじゃないかって噂になってそんな名前になったとか」


「コモド、ドラゴン? カッコイイ名前なんだな」


「気に入ったなら名乗っちゃえば?」


「おいらドラゴンじゃないけど、名乗っていいんだな?」


「他にオオトカゲもいないみたいだしいいんじゃない? こう言うのは早い者勝ちだよ」


「バンザイなんだな! おいら、ドラゴンの『コモド』なんだな!」


 二足で立って手を上げてそう宣言すると、その周りをキラキラした物が舞った。

 このキラキラには見覚えがある。


「これってもしかして…」


「従属になったようですね」


「え! 名前つけてないですよ!?」


「付けたじゃないか。『コモド』って」


「あれ、付けた事になるの!?」


 春希が訊ねると、アナスタシアとミハイルがうんうんと頷いた。

 こうしてリザードマンの変異種『コモド』が春希の従属になった。


「オナカマフエタ〜」


 春希は唖然としていたが豪ちゃんは喜んでいた。

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