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第20話


「ハルキ様、それはちょっとやり過ぎなのでは?」


「あははははは! きさ、それ、顔!!」


 出陣パレード当日、春希の顔を見てアナスタシアは引き、ミハイルは腹を抱えて笑っていた。


「お二人とも分かってないですね〜。遠くから見てる人にも顔が分かるようにするにはこれくらいしないと」


 本日の春希の顔は眉は濃く、アイラインを大袈裟に引き、ハイライトとローライトで陰影をくっきり付けている。

 所謂舞台メイクだ。


 魔王討伐のパーティーメンバーは魔法使いのアナスタシア、弓も剣も槍も使えるミハイル、魔法と槍が使える春希ともう一人ヨハネスという名の剣術士が加わった。

 焦げ茶の髪に焦げ茶の瞳でハッキリとした濃い顔で恐らく身長は2m近いだろう、体格がとても良い。

 平民出身ながら王国軍の部隊長を務める実力派との事で非常に頼もしいのだが非常に寡黙な男で春希はまだ声を聞いたことがなく、今も春希の顔を見ても眉一つ動かさず全く動じていない。

アナスタシアやミハイルの様な美形や顔の濃いのヨハネスに囲まれるとどうしても春希の顔の地味さがきわだってしまう。

 なあんだ、勇者ってあんなのなんだ、とパレードを見に来た人達をガッカリさせてしまうと折角来てくれたのに申し訳ないのでメイクを頑張ってみた。

 ただ舞台メイクなので近くから見ると大袈裟過ぎるのだ。


「ひ〜〜っ、ひ〜〜〜っ!」

 

 ミハイルはツボに嵌ったらしく引き笑いになっていた。


『きゃーー!! 勇者様!!』

『ステキーー!!』

『今私を見たわ!!』

『何言ってるのよ! 私を見たのよ!!』

『はぁ〜〜! もう駄目…』


「マジか…」


 パレードが始まってすぐ、ミハイルは舞台メイクの威力を知った。

 春希に向けられる黄色い声援の凄まじい事。

 失神者も多く出ているようだ。

 それに比べてミハイルには野太い声援が飛び交っていた。


「俺もメイクが必要だったか…」


 ミハイルの言葉に、メイクしても野太い声援が増えるだけだろうなあと、春希は苦笑した。

 荷馬車の様な物に乗せられてパレードするのかと思いきや、荷台の様な物乗ってそれを人が担ぐと言う、まさかのお神輿スタイルだった。

 手摺りはついているが落ちそうで恐い。

 でもそこは魔法で足を荷台に固定している落ちる事は無いらしい。

 アナスタシアとミハイルは王族なのでパレード慣れしているらしく余裕の表情で顔の横でお上品に手を振っている。

 春希は見様見真似で手を振っているが冷や汗をかいていた。

 ぎこちなさはあるがパレードを見に来た人達と距離があるので誤魔化せている感じだ。

 豪ちゃんは春希の頭の上でブンブンと手を振っている。

 その愛らしい姿に子供や女性に大人気になり、このパレードのあと粘度で作った豪ちゃん風マスコットが売り出され大ヒットする。

 因みにヨハネスは微動だにせず、置物の様にただ立っていた。


 なんとかパレードを終え、今度はパーティーだ。

 パーティーは流石にこの顔のまま出席するわけに行かないので一度化粧を落としてもう少しナチュラルにやり直した。

 夕方から行われる室内のパーティーなので、先日のお茶会よりは少し濃い目のメイクだ。

 衣装はやはり誂えると言ってきたので全力で辞退させてもらったら、勇者様は慎ましい方なのでご辞退されたと、美談のような伝わり方になっていて庶民の好感を集めたらしい。

 慎ましいと言われてる割にはミスリル製の槍は貰ってしまっているが、それは武器だからいいのだろうか。


「先程よりはマシな顔だな」


 右隣に座っているミハイルがぷぷっと思い出し笑いをしながら言った。


「パレードの時の様なメイクだとパーティーでは浮きますからね」


「男のくせにメイクなど、女々しい奴だ」


 そんな事言いながら自分もメイクすればよかったみたいな事言ってたのは誰でしたっけ?


「お二人共、おしゃべりは後にして下さいませ」


 アナスタシアに静止されたので私語を止めて姿勢を正した。

 因みに席順は左からアナスタシア、春希、ミハイル、ヨハネスとなっている。

 豪ちゃんは相変わらず春希の頭の上だ。

 パーティーでは入れ替わり立ち替わりお貴族様達が挨拶に訪れる為、主役である勇者一行は食事をする暇はほぼ無い。


「この度はご出陣おめでとうございます。ドナート・ルベンチェンコと申します。こちらは娘のミレイアです」


「お忙しい中お越し頂きありがとうございます」


 お客様の対応は基本的にアナスタシアにおまかせなのだが、ミレイアと言う名前に聞き覚えがあり、春希は右隣りに座っているミハイルの顔を見た。

 ミハイルの目はミレイアに釘付けだった。

 やはり噂の想い人らしい。

 意外だったのミレイアの容姿だ。

 ミハイルの想い人なのでどんな美人かと想像していたら暗い紫の真っ直ぐな髪をキッチリとまとめて眼鏡を掛けている。

 ドレスも装飾が少なくて、派手美人の多いこちらの世界の人にしては地味と言えなくもない。

 ただ地味と言うよりは顔立ちはスッキリと整っているので知的美人と言う感じだ。

 それに見たところミハイルより4、5歳年上だ。


「しかし勇者様は噂に違わぬ色男ですな」


 ミレイアの父であるドナートが言った。

 ドナートは恰幅の良がくて人の良さそうなおじさんだ。


「いえ、そんな事は」


「ご謙遜を!うちのミレイアも勇者様、勇者様とそれは煩いような熱の入れ方ですぞ。ルベンチェンコ家の婿に来て頂けたら私も煩い思いをしなくて済むのですがね」


 そもそも男ではないので本当にそんな事ないのだが謙遜と取られてしまった。

 と言うか、ミハイルがめっちゃ睨んでるのが見なくても分かるのでその話題は辞めて欲しい。


「お父様、あまり恥ずかしい事を言わないでください。勇者様は皆の憧れなのです。それを軽々しく婿などと口にしてはいけませんわ」


 ミレイアがドナートを静止してくれたお陰で睨みが少し和らいだ。

 だが、それも束の間の事で今度はアナスタシアが爆弾を投下した。


「それに、ミレイア様は立派な婚約者様がいらっしゃるじゃないですか」


 え? そうなの? 婚約者!?

 まさかミハイルかと思い右を見るとあからさまにしょぼくれていた。

 ミハイルではないらしい。


「ははは! 冗談に決まってるではないですか!」


「それにしても殿下は少し見られない間にますます立派になられましたね」


 ミレイアに声をかけられてミハイルが見事に復活した。


「うむ! あれから算術もきちんと取り組んでおるぞ!」


「ミハイルは算術が苦手で、以前ミレイア様に指南を受けていたのですよ」


 なんの事だろうと首を傾げているとすかさずアナスタシアが注釈を入れてくれた。

 なるほど、家庭教師のお姉さんに憧れ混じりの恋心を抱いてしまったと言うところだろうか。

 以前から思っていたがミハイルは中学生男子っぽくて微笑ましい。


「噂のミレイア様は知的で素敵な方ですね。先生は女性を見る目がありますね」


 二人が去った後、ミハイルにこっそり話かけた。

 因みに最初に武術指南を受けた時からミハイルの事はずっと『先生』と呼んでいる。

 そう呼んでいた方が機嫌がいいからだ。

 ミハイルは嬉しそうに微笑んだ後、少し悲しそうな表情になって答えた。


「ミレイアは伯爵家の一人娘で家の存続の為に婚約者が決められているのだ。私はそんなミレイアを救いたい。その為にも魔王討伐を果たしたいのだ」


 ミハイルはミレイアを望まぬ結婚を強いられている悲劇のヒロインかのように言うが、本人は本当に結婚を望んでないのだろうか?


「先生、先生の思いはミレイア様に伝えてるんですよね?」


 春希はふと気になったのでミハイルに訊ねてみた。


「? 伝わってると思うが」


「まさか伝えてないんですか?」


「ミレイアを救い出す算段も取れていないのに想いを伝えるなど、無責任ではないか。男たるもの無責任な事はできない。それに言わずとも伝わるはずだ」


 どうやら何も言ってないらしい。

 そりゃ傍から見たらバレバレですけども、本人は案外気付かなかったり、よくある話だ。

 ミレイアのミハイルを見る目は自分を慕ってくれる可愛い教え子と言う感じで、どうもミハイルの思いが通じてる感じはしなかった。


「想いはちゃんと口に出して言わないと伝わりませんよ」


「ミレイアと私の仲だ。必要ない」


「出陣前に一言でも何か言っといた方がいいですよ。じゃないと後悔する事になるかもしれません」


「煩いなぁ! 貴様に何が分かるのだ!」


 駄目だこりゃ。

 ミハイルは可愛いのだが、こう言うところは王子様らしく頑固で人の忠告を聞かない。

 こうやって男女がすれ違って行くのは物語ではよく見るんだけどなぁと思いながら、春希にとっては他人事なのでそれ以上は言わない事にした。


「ミーシャ、ヒトリヨガリ」


 豪ちゃんがボソリとつぶやいた言葉に春希はうんうんと頷いた。

〜次回プチ予告〜

いざ出陣

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