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第19話

 勇者出陣パレードの5日前、アナスタシアはミハイルを呼び出していた。


「ハルキ様の事だけど、どう思う?」


「身体能力は元々高いようですし、成長が早いですね」


 アナスタシアに問われた事を武術指南をしていてどうか、と言う意味に捉えたミハイルは答えた。


「そうじゃなくて、人としてよ」


「人として? 真面目で熱心ですね。案外根性もあります」


 初めは男のくせにチャラチャラしたいけ好かない奴だと思っていたが、春希の真面目に鍛錬に励む姿にミハイルの態度は徐々に軟化していた。


「…ミハイル、あなたにお願いがあるの」


「なんでしょうか?」


「ハルキ様の成長は目を見張るものがあるじゃない?魔王討伐に向けて旅立つのも時間の問題だと思うのよね」


「そうですね」


「それであなたにもパーティーに加わって欲しいの」


「元よりそのつもりでしたが」


 春希の武術指南を言い渡された時からパーティーに加わる可能性に付いては考えていた。

 前衛から後衛までこなせるのでパーティーに一人いて損はないし、何より魔王討伐の旅なんて男として最高に滾る。

 それに魔王討伐で功績をあげればミレイアとの結婚を認めてもらえるかもしれない。

 その上ミハイルは第5王子なので跡目争いにはほぼ関係ない。

 重大な怪我や最悪死の可能性がある為、王位継承の可能性が絡んでくると魔王討伐の旅などにまずは参加させて貰えないだろう。


「そう、それは良かったわ。ホホホ」


 何かアナスタシアに含む所を感じるが、こう言う時の姉を追求すると碌な事にならない事は良く知っている。

 ミハイルは気付かないフリをして部屋を後にした。


 アナスタシアの含む所とは、スバリここ連日春希に仕掛けている色仕掛けが全スルーされている事に起因する。

 10人いれば10人が振り返る程の美少女であるアナスタシアのアプローチが全く通用しないとなれば、これは噂通りそもそも女性に興味がないのではと、いよいよ確信めいてきたところである。


「アナスタシア様、本当にミハイル様に賭けるおつもりなんですか?」


マリアンヌがアナスタシアの背後から恐る恐る訊ねた。


「仕方がないじゃない。もうこうなったらミハイルに賭けるしかないのよ」


 勇者をこの国に留めて、アナスタシアは望まぬ結婚を避けると言う大大円を描いていたがこうなっては仕方がない。

 この国の為に勇者の確保だけは成し遂げたい。


「でもミハイル様には想い人がおられますし」


「あんなのミハイルの片思いじゃない。既成事実さえ作ってしまえばこっちのもんよ」


 一国の王女としてその発言は如何なものかと、マリアンヌは思わずにはいられなかった。

 しかし確かにミハイルの想い人であるミレイアには既に婚約者がおり、ミハイルと今現在どうこうなっていると言う事実はないのだ。


「ではコンスタンチン様は如何ですか? ハルキ様と仲がよろしいようですが?」


「コンスタンチンは駄目よ! 私のプライドが許さないわ!」


「ミハイル様ならいいんですか?」


「ミハイルの方がまだ良いわ。ミハイルは私に負けず劣らず愛らしいもの」


 コンスタンチンは春希と歳が近いせいか親しそうに話してる姿をよく見かける。

 だがアナスタシアにとっては自分に靡かずに男であるコンスタンチンには靡くと言うのはプライドを傷付けられる行為らしい。

 じゃあミハイルも同じではないかと思うが、ミハイルは少女と見紛う程の美少年なのでギリギリOKなのだそうだ。


「でも私だってまだ諦めたわけではないわよ。旅には私も随伴するんだし、まだチャンスはあるわ」


 アナスタシアは国一番の治癒魔法の使い手なので、魔王討伐の旅では勇者を守るために同行する事が予め決められていた。

 何もすぐ決めなくても、旅の間に籠絡できればいいのだ。

 やっぱり無理そうであればミハイルとの間をとりもつサポートに切り替えればいい。


 勇者の籠絡作戦が今だに進行中である事を知ってか知らずか、春希は魔法の練習に励んでいた。

 今は武器として選択した槍に魔法を付与してパワーアップさせる事を目標にして練習している。

 槍を選択したのは、槍は剣に比べてリーチが長いので相手に接近せずに済むし、当てるだけなら弓のほど技術は必要ないだろう。

 それに戦時中に女性たちが竹で作った槍を持って戦う練習をしていたと言う話を思い出し、槍なら女の自分でも使いやすいのだろうか? と単純に思ったからだ。

 唯一の欠点と言えば重さだが、それはミスリルと言う希少金属製の槍をロマノイノフ王国が金に物を言わせて入手してくれたので解決した。

 これがめちゃくちゃ軽くてめちゃくちゃ良く切れるので助かるのだが、めちゃくちゃ高そうなので持つ手が震えるのが難点だ。

 こんな高価な物を偽勇者が持ってていいんだろうか。

 絶対良いはずないと思うけど、うまく断る理由も出て来なくてそのまま使う羽目になってしまった。

 こうなったらせめてちゃんと使いこなして本物の勇者に会えたら譲ろうと思う。

 またこのミスリルと言う素材は魔法と相性が良いらしく魔法を付与して戦うのに適しているらしい。

 そう聞いたのでこれに電気でも通せないかな、と考えたのだ。

 スタンガンの様なイメージで触れたら相手が痺れて動けなくなるとか、そう言う事ができればテクニックいらずでとりあえず当たれば有効な攻撃になる。

 ミスリルの槍に電気が通る様子をイメージしながら藁をまとめて作った人形にチョンと軽く触れてみた。

 すると、バリバリバリドンガラガッシャン!!!と音を立てて藁人形が爆発した。

 ちょっと触れただけでこれである。


「春希スゴーイ」


 恐ろしい物を開発してしまったと冷や汗をかいたが、豪ちゃんはその様子を見て楽しそうに拍手していた。

 と言うかこれだけ威力があるんだったら触れなくても少し離れた所にいてもダメージを与えられそうな気がする。

 でも下手したら味方まで巻き込んで感電させてしまいそうなのでそれはもう少し魔法が上達するまで保留にしておこう。

 あと電気が通るイメージで魔法が発動するならスマートフォンの充電も魔法で出来ないかと考えているが、これも黒焦げにしてしまったり文鎮化してしまったりしそうなので要検討だ。

 いよいよ充電切れになって使えなくなったらダメ元で試してみても良いかもしれない。


「勇者様! 今日も精が出ますね!」


コンスタンチンが手を振りながらこちらに向かって来た。


「コンスタンチンさん、電気…じゃなくて雷を魔法で槍に通せないかと」


「ああ、それは強力でいいですね。たまにそう言う使い方をする人もいますよ。ミスリルじゃないと難しいので中々手を出せる人はいないですが」


 本当にお金の力バンザイだ。

 コンスタンチンは高名な魔導師の筈なのに偉ぶる事がなく気さく、と言うかちょっと抜けた所があって話やすい。

 魔王討伐の旅に付いて来てくれたら心強いのにとも思ったが魔導師と言うのは魔法を使うのに魔法陣とか道具とか色々準備が必要なので、戦闘になるとあまり役に立たないらしい。

 ただその分大掛かりな魔法が使えるので、王室とか貴族のお抱えになる事が多いそうだ。


「そろそろ勇者様も勇者様に相応しい実力が付いてきた事ですし、そろそろ出陣を、と言う話になってますよ」


「そうですね。あんまりのんびりもしていられませんので、私もそれがいいと思います」


 と言うか髪が伸びて地毛が見えてくる前に旅立ちたい。

 毎日鏡でチェックしているが伸びるのが遅いのかまだ地毛は見えていないようだ。

 だがやはり気が気ではない。

 と言うか髪だけでなく爪も伸びていないような?

 ここに来て爪はエレナにヤスリで軽く整えてもらったくらいだ。

 何故だろうか?


「では近日中に出陣パレードとパーティーをしましょう」


「え? パレード? パーティー?」


「他でもない勇者様の出陣ですからね! 国をあげて激励しなくては! それではまた!」


「え! え! ちょっと!!」


 春希が止める間もなくコンスタンチンは走り去ってしまった。

 コンスタンチンは良い人なんだけど、あまり話を聞いてくれない所があるので困る。

 パーティーって、衣装作るとか言い出したらどうしようと春希は青くなっていた。

〜次回プチ予告〜


出陣パレードとパーティー

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