表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/62

第17話


「うわつ!」


 突然の激しい光に勇太は堪らず目を瞑った。


「えー、前田勇太、目を開けるのじゃ」


 誰かにそう言われて恐る恐る目を開けると、そこは一面真っ白な空間だった。


「ここはいったい…」


「ここはあの世でもこの世でもない狭間の世界じゃ」


「…………………………」


 勇太は目の前にいる物を見て絶句した。

 白い装束で白い髭をたくわえ、頭の上には金色の輪っかが浮いていて、杖を持って雲の上に立っている。

 まるで神様のような出で立ちだ。

 子供が描いた絵のようなペラッペラな姿でなければ。


「儂がペラッペラだから馬鹿にしておるだろう」


「いえ、そんな事…」


「儂は本来実体はないのじゃ。でも体がないと相手が話し辛いようでな、ここに来た人間の『神』のイメージを借りてそれを具現化しておる。つまり儂がペラッペラに見えるのは、お主の想像力が歴代最高に乏しいせいだ。さてはお主、絵心ないの」


「うっ!」


 思い当たる節がありすぎる。

 勇太は美術の成績は常に1だったし、最近ではうさぎのつもりで描いたイラストをカマキリと言われた。


「儂も好き好んでこんな姿をしてるんじゃないと分かってもらえたかの?」


「なんかすみません」


 反射的に謝ったが、そもそも目の前の存在は一体なんだろうか。


「儂は『神』じゃよ」


 紙?


「そっちじゃないわい!」


 あれ? 今俺口にだしっけ?

 勇太の疑問に神が答えた。


「『神』じゃから心が読めるんじゃ」


「えーっと、その神様が何の御用でしょうか?」


「信じとらんな。まあいい。お主願い事をしたじゃろ。『ハルに合わせてください』と」


 勇太はうんうんと頷いた。


「だから合わせてやる」


「え! 本当に!? てかハルは今どこにいるんですか!?」


「異世界じゃ」


「へ? 異世界?」


 そんなファンタジーな展開…

 あり得るか。

 人が存在ごと消えたり、真っ白な空間に連れて来られたり既に十分ファンタジー、と言うかSFな展開だ。


「異世界に勇者と間違って召喚されておる」


「はぁ!? 間違い!?」


「元々儂は勇者としてお主を連れて行くつもりだったんじゃが先走った馬鹿がいての。ちょっとした事で座標が狂って近くにいた人間を連れて行ってしまった」


「あの時ハルが俺を庇っていなければ俺が召喚されてたって事ですか?」


「そう言う事じゃ。身体ごと召喚しようとしたのがまずかったの。通常は身体は向こうで用意して勇者の魂を憑依させるんじゃ。儂も毎回そうしとる。その方が間違いがないし、お主も見たと思うがそこに存在していた物を消すと言うのは意外な所に影響を及ぼす事があるのじゃ。須藤春希が身体ごとの異世界に移動してしまったせいで、お主が見た事以外にもちょっと無視できないレベルの色々な影響がでるようじゃの」


 SFの世界では度々そう言った事象が題材になったりするが、『バタフライ効果』とか『風が吹けば桶屋が儲かる』とかそう言った類の話らしい。

 ともかくそのせいで春希だけでなく春希の家族まで消えてしまったのだろう。


「色々な影響って例えばどんな影響ですか?」


「あー簡単に言うと、異世界が消える」


 異世界が消えた所で正直勇太には知ったこっちゃない話だが、今だけは話は別だ。


「まさかそのままだとハルも…」


「異世界と共に消える」


 大変な事になった。

 つまりは勇太の隣にいたが為に春希は巻き込まれて異世界に行ってしまい、こちらの世界では家族ごと存在が消え、おまけに行った先の世界は消えるらしい。


「神様権限で元に戻せ!!」


 勇太は思わず口調を荒げでペラッペラの神様に詰め寄った。


「神にも色々決まりがあるのじゃ。人間がした事には基本的には手出しはできん。人間で解決すべき事じゃ」


「神様のくせに見捨てんのかのよ!?」


「お主神を勘違いしとるぞ。神は別に人間の味方ではない。神は全ての世界や種族に平等なのじゃ。人間だけ特別扱いはしないのじゃ」


「そんなぁ〜」


 勇太は頭を抱えた。


「まあでも今回は流石に、須藤春希が気の毒だからの。出来る限りの便宜は図ろう」


「便宜?」


「向こうの世界でとりあえず生活に困らないようにしておいてやろう」


 そんな生活保護程度の便宜じゃ根本的な解決にはならない。

 勇太は絶望した。

 だが続く神の言葉で希望光が射した。


「あとお主が勇者としての役割を終えれば一緒に元の世界に返してやろう」


「本当ですか!?」


「本当じゃ。やるか?」


「やるやる! やります! やりますとも!!」


 俄然活力を取り戻した勇太は右手を掲げてやるを連呼した。


「ふむふむ。では明日の今頃、異世界に旅立つように手配をしておくからの。あとコレをやる」


 神から手渡された物は一冊の本だった。

 有名な旅行ガイドブックを捩ったのか、タイトルは『異世界の歩き方』と銘打ってある。


「説明が面倒だからあとはそれを読むように」


「ありがとう! ペラ神様!」


「誰がペラ神じゃい!!」


 視界が急に晴れて、気付くと実家の自室にいた。

 夢だったのではと思ったが、手にはしっかり『異世界の歩き方』が握られていた。

 早速『異世界の歩き方』を開くとまず目次があり、目次の先頭は『時差について』とあった。

 勇太はとりあえず最初から順に読む事にした。


 これによるとこちらとあちらでは時間の流れに差があるらしく、だいたいこちらの1日が異世界の10日程になるらしい。

 異世界に魂が転移している間身体は眠った状態になるが、時差の関係で異世界に一ヶ月いたとしても戻った時は3日程しか経過していない事になる。

 なので身体が極端に衰弱するといった事はないが、痛みや暑さ寒さなどを感じない状況にしておく事、また何日間か連絡が取れなくても周囲が不審に思わない状況を作る事が望ましいとなっていた。

 そして特記事項として大人用のオムツの着用がオススメされていた。

 抵抗があるが確かに戻った時の惨事を避ける為には必要だろう。

 明日買いに行こう。


 次の日の朝、スッキリした顔をした勇太を見て母はホッとした笑みを浮かべた。


「おはよう。よくなったみたいね」


「寝たら治った! あ、母ちゃん、俺明日からの中国に出張なんだ。すごい僻地らしいからもしかしたら携帯通じないかも」


「あらあんたそんな所も行くの」


 勇太は商社務めなので度々海外出張の機会はあったので特に不審がられる事も無かった。

 勇太はドラックストアで大人用オムツを購入し独り暮らしをしている部屋に帰った。

 買うのにも少し抵抗があったが、勇太が着用するとは思ってないはずなので努めてキョドらないように注意しながら、必要はないが介護食なども一緒に買って介護を装ってしまった。

 会社の上長にはインフルエンザで暫く会社を休むとメールで連絡し、会社のウェブシステムで有給の申請も出しておいた。

 今は彼女はいなしい、友人は暫く連絡が取れなくても後でどうにでも言い訳できるだろう。

 公共料金、家賃、携帯代は毎月引き落としなので貯金が尽きない限り問題ない。

 誰にも異変に気付かれずに暫く引きこもる事って、案外簡単な物なんだなと勇太は思った。


 『異世界の歩き方』によると、異世界には魂だけで行くので何も持って行く事はできないらしい。

 ただしこの『異世界の歩き方』だけは例外だとか。

 『異世界の歩き方』には様々な事が書いてあるがなかなか分厚いのでたった1日で全てを読んで覚える事は不可能なので持って行けるのはありがたい。


 シャワーを浴びてからやはり抵抗を感じながらオムツを着用し、ジャージに着替えた。

 エアコンの暖房を23度の自動運転でONにし、何となく換気は大丈夫なのか気になったので換気扇も回す。

 そしてベッドの上に横になって布団を掛けた。

 色々考えたがこの体制が一番安全に配慮されてて暑さ寒さを感じないだろうと思う。

 とりあえずできる準備はしたが、もし魔王討伐までに1年かかったらこちらでは1ヶ月と少し時間が経ってる事になる。

 そうなると寝てるだけとはいえ流石に飲まず食わずでどれだけ身体が持つのか分からないし、友人や同僚が連絡がつかないのを怪しむだろう。

 不安は残るが、なるべく早く帰って来れるように努力するしかない。

 勇太はベッドの上で約束の時を待った。




〜次回プチ予告〜


本物の勇者異世界へ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ