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第16話


「すみません!大丈夫ですか!?」


 トラックの運転手が慌てた様子で運転席から出てきた。

 ああ、そうか、俺轢かれかけたんだ。


「本当にすみません、怪我とかないですか?」


 尻もちはついたが怪我はなさそうだ。

 なんかすごい勢いでトラックが突っ込んで来た覚えがあるのに、なぜ尻もちくらいで済んだのだろうか?

 勇太は疑問に思いながらもとりあえず返事をした。


「大丈夫、みたいです」


「よかった〜! でも一応病院行ってください。警察も呼びましょう」


 大丈夫だとは思うけど、こう言うのは後から痛みだすと聞くし、トラックの運転手さんもそう勧めてくれたので病院は後日行く事にした。

 とりあえず警察を呼んで簡単に事情を聞かれたりとか色々してて結局モツ鍋は食べ損ねた。


 ん?


 俺、1人で鍋食べるつもりだったっけ?


 ふと疑問に思った。

 最近は一人焼肉とか一人カラオケとかお一人様で色々する人も増えてると聞くが、勇太は一人で何かするのは苦手だった。

 そう言えば卒業旅行でアメリカまで一人旅に出た猛者がいたが誰だったか?

 食事は特に一人では食べたくないので誰も捕まらない時は決まってハルを呼び出して…


 ハル?

 そうだ! ハルだ!


 ハルこと須藤春希は新生児室からの長い付き合いの幼馴染だ。

 おまけにトラックに轢かれかけた時、春希が肩を引いてくれたから尻もちて済んだのに何故今まで忘れていたのか。

 と、言うかその存在自体を忘れかけていたような気がする。

 怪我など何もしていないと思っていたが、頭でも打って気絶していたのだろうか?

 そもそも春希はどこに行った?

 よく恐いと言われていたがそれは誤解される事が多いだけで、気絶した親友を置いてどこかに行くような薄情な人間では無いはずなのに。

 勇太はスマートフォンを取り出して春希と連絡を取ろうとLINEのトークを探すが見当たらない。

 おかしい。

 先程まで待ち合わせの為にメッセージのやり取りをしていたのに。

 操作ミスで非表示にでもしてしまったのだろうか?

 まどろっこしいので電話にしようと電話帳を探すが、そこにも春希の名前が見当たらない。


 え?

 おかしくない?


 とにかく連絡が取れないことには仕方がないので春希が独り暮らしをしている部屋まで行く事にした。

 ここからそう離れていないし何度も遊びに行った事があるので迷う事もない。

 部屋に着いてチャイムを押す。

 しかし扉から出てきたのは見知らぬ男だった。


「はい」


「あ、あれ? すみません。ここ須藤さんのお部屋では?」


「違いますけど。前住んでた人とかですか?」


「最近引っ越して来られたんですか?」


「いや、3年くらいはここに住んでますけど」


「じゃあ多分部屋を間違ったんだと思います。すみません」


 慌て過ぎて部屋を間違ったのかと思ったが、扉が閉まった後再確認しても部屋の番号は間違っていない。

 もちろん建物も間違っていない。


 勇太は何かそら恐ろしい気持ちになって駅まで走った。

 途中で何人かにぶつかったが禄に謝る事も出来ずに電車に飛び乗る。

 何かすごく嫌な予感がしていた。

 見慣れた地元の駅で降りてまた走る。

 走った先には見慣れた家があり、よかった、あったと思いながら家のチャイムを押そうとして固まった。


『江島』


 見慣れた家に見慣れない表札がかかっていた。

 え? 誰?

 ここは幼馴染の須藤春希が幼い頃から暮らしていた実家のはずだ。


「勇太、あんたどうしたの? こんな所で」


「母ちゃん」


 勇太の母が燃えないゴミの袋を持って立っていた。


「江島さん家になんか用なの?」


「江島さんって誰?」


「何あんたボケたの?町内会長さんよ。昔からお世話になってるじゃない」


 全く知らない。

 町内会長さんとやらがどんな人でどうお世話になったのかも記憶にないのに、母はやけに知っていていで話してくる。


「母ちゃん、須藤春希って知ってるよな?」


「すどうはるきくん?んー?誰だったかな?あんた友達多いからねぇ」


「じゃあ近所に須藤さん家ってある?」


「さあ?たぶんないと思うけど?」


 母は『須藤春希』という名前に聞き覚えがないらしい。

 春希と勇太は幼馴染だし母親同士も仲が良かったのに忘れてしまうなんて、そんな事普通あるか?


「勇太!?」


 勇太は再び走り出した。

 自分の実家に帰ると階段を駆け上がり、しばらくぶりの自室に飛び込んで押し入れを開ける。

 中に押し込んでいた卒業アルバムを引っ張り出して春希の名前を探した。

 幼稚園から高校まで同じ学校だったはずなのに、高校、中学、小学校、幼稚園、と遡って探しても『須藤春希』は見つからなった。


「あんたどうしたの? いきなり走って」


「母ちゃん! アルバムどこ!?」


 勇太は血相を変えて走り去った勇太を追って帰ってきた母の肩を揺さぶる。


「リビングの棚よ」


 階段を駆け下りてリビングに走り込み、棚にまとめて置いてあったアルバムを片っ端から捲った。

 家族ぐるみの付き合いだったので、幼い頃から家族行事も殆ど一緒だったはずだ。

 遊園地とか花火大会とかキャンプとかプールとか一緒に行った記憶が勇太の中には確かにある。

 なのに写真には春希も、その家族の写真も一枚もない。

 幼馴染の存在が、その家族もろともそっくりそのまま消えていた。

 おまけに直前まで一緒にいたはずなのにその存在を自分も一時忘れかけていた。

 そんな馬鹿な事があるだろうか?

 それとも『須藤春希』という存在が自分が作り上げた妄想だとでも言うのだろうか?


「あんたほんとどうしたの? 顔真っ青よ」


 母が心配そうに顔を覗き込んでいる。

 言いしれない恐怖が、勇太を支配していた。


「えーっと、なんか頭痛いかな?」


「頭痛薬飲んで、今日はもう泊まって行きなさい」


「あー、うん。そうしようかな」


 勇太の母は頭が痛いと言った息子の言葉を信じているわけではなかったが、それ以上何も聞かなかった。

 勇太はかつて使っていた自室を見渡す。

 そこは自分の記憶と寸分違わぬ状態の部屋で見知った物で溢れていた。

 よくあるSF小説のように事故の拍子にパラレルワールドに来てしまったとでも言うのだろうか。

 それも『須藤春希』という人間だけがいない世界に?

 勇太は何か痕跡がないかと部屋の中を探した。

 アルバムをもう一度捲るがやはり春希はどこにも写っていない。

 小学校の時の文集にも春希の作文はない。

 春希から借りっぱなしにしていたCDはあったが、もしかしたら別の誰かから借りた事になっているかもしれない。

 これが春希から借りたものだと証明する術がない。

 昔使っていた2つ折りの携帯を取り出して電源を入れようとするが、当然電池が切れていた。

 充電器はどこにやっただろうかと探すと、机の一番下の引き出しにコードがぐちゃぐちゃに絡んだ状態で放り込まれていた。

 とりあえず充電ができればいいので絡んだ状態のままコンセントに挿し込んで充電する。

 充電切れになってだいぶ長い間そのままにしていたので少し時間を置いてから電源を入れた方がいいだろう。

 その間に何かできる事はないかと引き出しを漁ると、お守りが出てきた。

 『満願成就』と書かれたそのお守りは、勇太の記憶では春希の祖母から高校受験の時にもらったものだ。

 春希の祖母には勇太もすごく可愛がってもらった。

 自分を妖精だと言う不思議なおばあちゃんで、勇太も幼い頃は本気で信じていたが流石に小学校高学年ぐらいになると冗談だと分かっていたが、自称妖精からもらった『満願成就』のお守りはすごく効きそうな気がして大切にしまっておいたのだ。

 春希の祖母もいなくなってしまったのだろうか?

 じゃあこれは誰から貰った事になっているのだろう。

 お守りを弄っていると、お守りの上を閉じていた赤い紐がプチンと切れた。


「わ!」


 中から何かが飛び出してきて咄嗟に受け止める。

 勇太の手の中には形の少し歪な金貨が入っていた。

 どこの国の物だろうか?

 お守りの中身は見てはいけないと言うが大丈夫だろうか?


「ハルのおばあちゃんごめんなさい。でもどうかハルに合わせてください」


 勇太はなんの気無しに手を合わせて金貨にお願い事をした。

 特に信心深い人間でもないが、お守りの中身を見てしまったのでちょっと謝っておこう。

 ついでにお願い事もしておこうという、軽い気持ちだった。

 が、勇太がお願い事をした瞬間、金貨から眩い光があふれ出し、そのまま勇太を飲み込んだ。

〜次回プチ予告〜

シリアス回は長続きしない

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