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プロローグ


「うっっ…」


 腰を起点にして全身が痛いし、すごく冷たい。

 この感覚には覚えがある。

 新入社員歓迎会で飲みすぎてベロンベロンに酔っ払い記憶をなくし、気付いたらマンションの部屋のドア前で寝ていた時の感覚に似ている。


「イタタタタタ」


 あともう少し頑張れば部屋の中に入れただろうに、惜しかったな。


 と、幼馴染に言われた事を思い出しながら固まった身体を無理やりゆっくりと起して目を開けると、そこはドーム状の高い天井を円状に並んだ何本もの柱が支えている石造りの建物だった。

 窓が無いので薄暗く、あまり換気が良くないのか湿った様な臭いがする。

 円と三角形を幾つも重ねた様な図案の中央に自分は寝かされていたらしい。

 おまけに長いローブを着た人達が自分を取り囲んでいた。


「え???」


 自分が最後に覚えている状況とはあまりにもかけ離れた環境だった。

 たしか自分はトラックに引かれたはずだ。

 道路の上とか病院のベッドの上とかならいざ知らず、こんなところにいる理由が分からない。


 ああ、そうか。死んだのか。


 生きていれば病院のベッドの上で白い天井を見ながら目を覚ますはずである。

 ここが死後の世界という物だとしたら納得だ。

 25年というあまり長くない人生だったが死んでしまったのなら仕方がない。

 それにしたって死後の世界でも痛いとか冷たい臭いとか感じるものなんだな、と考えていたら


「おお! 目覚められましたか勇者様! どうかこの国を、いえ、この世界をお救いください!」


 目の前にいた紅いローブの男が聞き捨てならない台詞を叫んだ。

 まるでありきたりな異世界トリップ小説の冒頭の様だ。


 勇者様とか叫んでいるが全くピンとこない。

 小さい頃から目つきが悪く謂れもなく恐れらてきた自分にはむしろ魔王の方がお似合いだろう。


 なんだ夢か。

 じゃあまだ死んでないのか。

 よかった。


 石造りの床に寝転び目を閉じ、ツタンカーメンの様に腕を胸の上で交差させた。

 次に目が覚めた時は恐らく病院のベッドの上とかだろうと、寝る体制を整えたところで紅いローブの男から静止が入った。


「勇者様!? 眠らないで話を聞いてください!!」


「いや、でもですね。勇者とか突然言われましても…」


『おかしいな、自分が勇者である事が分からないのか』

『召喚の副作用か?』

『容姿は伝承の通りだが…』


 周りにいたローブの男達がガヤガヤと騒ぎ始めた。


「…見て頂いた方が実感が湧くかもしれませんね。こちらをどうぞ」


 紅いローブの男が、A4サイズくらいの石版を差し出して来た。


「これは?」


「ステータスを確認する為の魔術具です。手をあてて『ステータス開示』と命令して下さい」


「ステータス開示」


 上半身だけ起して石版を受取り、言われた通りにすると石版にすうっと文字が浮かび上がった。



須藤すどう 春希はるき Lv.1

HP:809/810

MP:999/999


適性:魔人


【スキル】

自己治癒:C+

鑑定:D

威圧:E+

魅了:E



「見て頂ければお分かりになると思うのですが、こちらが」


 紅いローブの男が石版を覗き込み固まった。


「どうかしました?」


「あ、いえ、文字化けしてるようですね? 故障でしょうか???」


 紅いローブの男は石版を春希から取り上げバンバンと石版の角を叩く。


「あの、普通に読めますよ?」


 というかそんな昭和な直し方するの?


「読める??? あ、もしかしてあちらで使ってる文字ですか?」


「まぁ、見慣れた文字ではありますね」


「なるほど、どうやらこちらの世界の文字ではなく勇者様にあわせてあちらの世界の文字で表示されるようですね。まぁでも数字は共通のようですし、表示順は同じな筈なので問題無いですね。HPもMPもLv1でこんなに高いなんて、さすが勇者様です。」


「はぁ、そうなんですか?」


 見たら分かると言われたのに石版を取り上げられた為結局一瞬しか見れてない。

 なんか気になる記述があった気がしたので早く返して欲しいところである。


「容姿も伝承の通りですし、さすが勇者様です」


「その、伝承って何ですか?」


「魔王を討伐し世界を救う勇者様の伝承ですよ。涼し気な切れ長の黒い瞳、煌めく栗色の髪の男性であると。さすが勇者様です。伝承の通りですし、なにやらただならぬオーラを感じます。さすが勇者様です。適性を見れれば一目瞭然なのですが、あいにく私共には読めないようなのでお確かめ下さい。勇者様であれば適性が【勇者】となっているはずですから」


 先程からの『さすが勇者様』の大安売りが気になりつつ、紅いローブの男から再び差し出された石版を受取り、嫌な予感を感じながら石版に目を落として適性を確認した春希は天を仰いだ。



 うん、これたぶん人違いだ。




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