古本屋
「いらっしゃい」
店の中にはたくさんの本があり、奥のカウンターには優しそうなおじいさんが座っていて、あいさつをしてきた。
「こんにちは。すごいですね、こんなにたくさんの本があるなんて。」
「ホホホ、まあ、本屋じゃからの。好きなだけ見ていきなさい。」
「はい、ありがとうございます。」
この本屋、すごいな、外から見た感じは、そんなに広そうには見えなかったんだが、入って少し歩くと、本棚の間を走る通路の分かれ道が見えてくる。この本屋はどうやら横に長いらしい。扉をくぐってすぐは、上手く配置された本棚で扉からカウンターまでの通路しか見えないし、そのカウンターも扉から10メートルぐらいしか離れてない。奥に踏み込んで初めて全貌が明らかになる。
何となく、わくわくする造りだな。
それと、あのじいさんも気になるな、というかあのじいさんのほうが気になる。とりあえず、話してみるか?
「あの~。おじいさん。」
「なにかの?ああ、あと、口調は崩して構わんよ。というより、そのほうがわしも話し安い。」
「そうか?なら遠慮なく。なーじいさん。おすすめの本てあるか?」
「おすすめ?ないの。」
「え、ないの?じゃあ、なんかこう、珍しい本とか、用途不明の本とか。そういうは?。」
「すまんがそんな物はないの。」
「そっかー。」
ちょっと残念だけど、そこまで都合よくはないか。
「それじゃあ、売れ残ってて、処分する予定の本てない?」
これならどうだ?
「売れ残るもなにもここの本はほぼ全て売れ残りじゃし、全てタダ同然じゃよ。」
「えっまじ?!」
マジでここ当たりじゃね?
「そうじゃよ。なんせその対価はときどきここに来てわしの話し相手になることじゃからな。」
「そんなんで、いいのかよ?。」
「ホホホ、そもそもそれなりの蓄えもあるでの、稼ごうとは考えとらんよ。」
「じゃあ、ここの本て好きなだけ読んでいいの?」
「ホホホ、お前さんなら構わんよ。」
「俺なら?」
「そうじゃよ。お前さんは悪いやつでもなさそうじゃし、話して楽しそうじゃからの。」
「そんなのこの短時間でわかるのかよ。」
「これでも人を見る目には自信があるでの。」
「へー。」
つまり、じいさんはタダ同然で本を売ってくれるけど、気に入った相手だけにしか売らないってことか?まあ、気に入らない相手に話し相手になって欲しいなんて思わんか。