中篇
言い訳2
この話は、殆どテロップ状態で手直しせずに載せました。
「ほぇぇぇ。これがチャーハンですか」
「そうだ。これがチャーハンだ。余った材料や残り物で手軽に作れて、色々な味が楽しめる家計に優しい料理だ」
反応を見る限り、どうやら転生者ではないのは間違いない。何かを思い出す様子もない。
祖母と自身に誓いを立てたあの日より、月日が流れて、まもなく私はゲームでいうところの本編にあたる学園生活が始まる。
「作り方は見ての通り簡単だ。味は………後で皆で食べようか」
「はい!」
そんな学園生活が始まる残りの期間に何をしていたのかというと………チャーハンを作っていた。
いや違う。『乙女ゲー』パートの女主人公が見つかった為、自身と同じ転生者かと疑い会いに行った。その結果、チャーハンを作っている。
………………これも違うな。やはり順を追って説明しよう。
祖母との話し合いと交流を終えた私は、父と話し合いをした。
当然、私の身を案じる父は、私の案に反対した。今の状態でも、私と妹の身の安全は保障されたのだ。わざわざ危険を冒す必要がないというのが父の言い分だ。
だが、このままでは父が国に罪を着せられて処刑される。それを帝国が戦争の口実に利用して、領民を危険に晒す事になる。
そう、領主として絶対に退いてはいけない部分を強調して、互いに色々な妥協案を提示しながら話し合いをまとめた。どうやら、私も父も頑固だったようだ。
「そうだ。お前が探していた娘が見つかった」
私が祖母のところへ行く前に、念のために父に『乙女ゲー』パートの女主人公。通称ヒロインを探してもらっていた。
「お前の言うとおりに事故にあっていた。両親は事故で亡くしたが、身寄りがない為に教会に預けられていた」
詳しく聞くと、どうやら私が毒で最初に倒れた日と同じ日に事故にあったのだという。これはもう偶然ではない。
「本当にお前のいうとおりの事が起こっていたのだな。お前は何を………いや、よそう」
お前は何を知っているのだ? 父が聞きたい言葉は分かっているが、最後まで聞かずに居てくれる父に感謝するしか出来ない。自身が転生者である事を他人に口にする訳にはいかない。何が起こるか分からないからだ。
「父上、ありがとうございます。その少女にお会いする事は出来ますか?」
「うむ。我が領内の教会へ移動して貰った。あと数日で到着する」
教会に寄付金をある程度積めば、これくらいは余裕で実行出来る。
「今はお伝えできませんが、全てが無事に済んだ際は必ずお話いたします」
父に聞こえない程度の声で、そう返事をしてヒロインと会う為の準備に向かった。
「記憶がハッキリとしていると聞いているが、怪我とかは大丈夫か?」
「は、はいっ! お貴族様! 私は元気です!!」
ヒロインにあって状況を確認しようとしたところ、とても大きな返事を返された。
これは、違うな。転生者じゃない。普通の平民の反応だ。
私の直感がそう告げているが、念のために確認をする必要がある。
『チャーハン。餃子。フカヒレスープ』
私の言葉に少女は首をかしげる。言葉の意味が分かっていないのは間違いないようだ。
『ミルフィーユ。チャイ。ペパーミント。ドリアン』
続けて、女性が好むような食べ物と知っていれば、反応しそうな物も混ぜて様子を確かめる。
単語ごとに区切ると、その少女の首が少しずつ角度をつけて曲がっていくのが楽しいが、遊んでいる時間はない。
「ご両親の事は残念だった」
「え? あ? あ、ありがとうございます」
訳の分からない単語から、分かる言葉に変わった事で、反応が遅れた。それにその回答からも、間違いなく白だろう。
「名前は知っているが、自身の口から聞かせてくれるか?」
「は、はいっ! スージィと言います!」
私の名前とヒロインの名前のスージィ………特に共通する事もないか………。
これでこの世界が『乙女ゲー』パートの世界でない事も分かった。主人公2人が共に死にかけた。敢えていうなら両方の世界なのだろう。
「では、スージィ。お前の両親は私の父が運営する商会の従業員だった。その子供を親が亡くなったからと行って放り出す訳にはいかない」
「あ、あの………私の両親とは………あっ! 申し訳ありません。お話を遮ってしまいました」
年相応の判断能力に、完全な馬鹿でもないか………。
「構わない。聞きたい事があるのだろう?」
「あ、ありがとうございます。お貴族様は私の両親とお会いした事があるのでしょうか?」
なるほど、確かに考えて見れば私は怪しく見えるのだろう。だから少しでも、安心できる話を聞きたいのだと分かる。中身は年相応の女の子で間違いない。
「残念だが、私に面識はない。だが、父よりお前の両親が所属していた商会を引き継ぐ事になった。そこで事故の話を聞いて出向いてきた」
それっぽい話をして、少しでも落ち着かせる。
「私は領民も自身の下で働くものを無下にするつもりはない。働いてくれたお前の両親に報いる為にも、お前を保護するつもりだ」
少し話し方が難しかったのか、少し首をかしげながらも感謝をしていた。
「それと、これはお前の両親の遺品だ。お前が持つべきものだから返しておく」
事故にあった後に、商品を含めて、スージィの両親も身ぐるみを剥がされていた。スージィはたまたま物陰に倒れていたおかげで難を逃れていたと発見した者たちから報告を受けていた。
私はゲームの知識で、その中にヒロインを引き取る予定になる貴族に関わる物が入っている事を知り、網を張って盗みを働いた者を捕られた。
なぜ、ヒロインが貴族に引き取られる事になったのかは、持ち物で予想が付いた。
その貴族は腐った貴族で間違いないようだ。虫唾が走る。これはこの子が知る必要のない事だ。
そんな事を考えながら、私から貴族に関わる品だけを取り除いた両親の遺品を受け取り、泣いている少女がその泣き声が枯れるまで側にいた………。
その後、声が枯れたスージィに我が家の侍女見習いで雇用を提案した。
スージィの返事は2つ返事で貰い、そしてチャーハンを作る事になった。………………だから、これはまだ違うな。
侍女見習いとなったスージィは、父と相談して妹に付けた。理由は同い年だったから。
私としてはヒロインと悪役令嬢となる運命だった2人が、仲良くなってくれるなら、それが何よりだと思った。
その後は、私の予想したとおり、私の暗殺未遂を起こしたグレイヴィン夫人は、本来であれば処刑されるほどの罪を実家の領地での蟄居で許された。
当然、我が家からは離縁。その息子も廃嫡となったが、自身の母の実家に身を寄せていると言う。
我が家からは対応を不服として、妹と王家との婚姻を拒絶した。こちらも予想通り、王家は認めずに話し合いを終えた。
これで王家と公爵家の狙いが我が家の資産である事は確定した。
確証を得た父は、王宮で就いていた役職を捨て、領地の経営に専念するとして領地に戻ってきた。
ここからは母の仇討ちと共に、家族と領民が安心して暮らせる世界を作る事に奔走する事になる………。
私と妹は、侍女見習いになったスージィと元私付きの侍女だったリリーとその夫のバートンを連れて、祖母の元へ身を寄せた。人数が少ないのは、帝国側から監視を兼ねて人を借りる為だ。要らぬ疑いをかけられたくないからね。
また、祖母は自身の面影が強く残る妹に、心を射抜かれて甘やかし始めてしまった。
私の事があった為に、妹も子供ながら必死に色々と考えるようになったらしく、どんなに甘やかされても我侭になる事はなかった。
そして、そんな孫を見てさらに甘やかす祖母が出来上がった。
「皇帝陛下から、あなた宛の手紙が届きました」
妹が新しい環境に馴染むまで、祖母の元で共に暮らしていると、祖母から思いも寄らない発言が聞こえた。
「あなたの案を甥に伝えておきました。おそらくその件でしょう」
私が領地に戻っている間に、祖母も手を尽くしてくれていた事が分かる。………がいきなり皇帝陛下からの手紙を貰うとは思っていなかった。
「私は手紙の中身を知りません。ですからしっかりとお返事を書くのですよ」
いきなり皇帝陛下からの手紙………。無理難題とは言わないだろうが、何が書いてあるのか不安でしかない。
陛下の返事は待つ事はあっても、待たせる事は出来ない。今はそんな雲の上の相手だ。
『帝国内の直轄地の領地開発ならびに街道整備、隣国グレイヴィン領までの交易路の確保を許可する。だから、お前の祖母の孫自慢を慎むように対処せよ。作業の為の工兵500を派遣するものとする。確実に対処せよ』
これは私にシナリオ以外の事を理解する能力がないという事だろうか? 書いてあることの意味がまったく分からない。
1年掛けて信頼と実績を積んでから、少しずつ許可を申請する予定だった内容が全て許可すると書いてある。しかも工兵500を付けるって………幻まで見える気がする。
「バートンすまない。ちょっと疲れてしまっているようだ。変わりに手紙を読んでくれないか?」
帝国に来て、私の専属の侍従として仕事をしてくれている優秀な執事バートンに手紙の翻訳を頼む。きっと暗号で書かれているのだろう。
陛下の手紙をバートンに託すと………バートンも戸惑いながら手紙を読み上げた。先ほど読んだ、変わらない内容を一言一句違えずに。
「どうやら、私は目だけでなく、耳まで疲れているようだ。最近は政務の勉強をしすぎたようだ。夜まで休む」
「ダメです! ブラッドリー様!! 陛下の手紙の返事を書くのが先でございます!!」
私の体調を心配してくれない薄情なバートンの声が聞こえる。
「あら? 大きな声が聞こえたと思ったのだけど、どうしたのかしら?」
そう言いつつ、祖母が私に与えられた部屋へ入室してくる。間違いなく、タイミングを見計らっての事だろう。
「お祖母様。部屋に入る時はノックをして下さい」
さらに嫌な事が起こる予感しかしないので、まずは気持ちを落ち着ける。
「先ほど伝え忘れてしまった事があったのよ。なんでも500もの兵が1週間後に到着する予定だと聞いているのだけど、何か知らないかしら?」
私の方が知りたい。祖母が陛下に何をしたのかを。
「皇帝陛下のお手紙に領地および街道整備の許可と工兵500を預ける旨が記されておりました。おそらく、その件かと思われます」
私の変わりにバートンが、私の責任に関わる部分を除いて説明してくれる。どうせなら、何をしたのかまで聞いて欲しかった。
「さすがわ。我が甥ですね。迅速で何よりだわ」
疑ってはいなかったが、やはり主犯は祖母のようだ。
「お祖母様。陛下のお手紙に、孫自慢をされたと書かれておりましたが、陛下にお会いにいかれたのですか?」
「えぇ。そうよ。いつも末娘の自慢話ばかり聞かされていたのだから、たまには仕返しに私の可愛い孫たちの自慢をしておいたわ」
孫たちという事は、私も含まれている訳か。皇帝陛下にお会いする機会があったら、土下座しかないだろう。
現実逃避の時間すら許して貰えない状況で、打てる手は限られている。
「それならば如何でしょうか? 妹と陛下の末姫殿下をお会いさせて見てはどうでしょうか? 聞くところによりますと同年代と伺っております」
「そうね。あの子の1つ上になります。あの甥の過保護のせいで友人も少ないと聞きます。友人が出来れば、甥との時間も減って自慢話も出来なくなるでしょう」
私が陛下に頼まれたのは、あくまで祖母の孫自慢の防止だ。陛下の楽しみが減る事になるのは含まれていない。だから大丈夫だ。
陛下の末娘自慢が減れば、必然と祖母の孫自慢も減る………はずだ。
「私は陛下より預かった兵を指揮して領地の開拓を行なわなければなりません。それに妹に同席して、陛下の要らぬ疑いを向けられたくはございません」
祖母に妹の保護と陛下の末娘を預ける事で、陛下に私が末姫に近づこうとする男ではないと分かって貰えるはずだ。
そう色々な本能が、末姫に近づく事が危険だと伝えている気がする。工兵を送ってくれたのも、今なら何となく警告のような気がする。近づくんじゃねぇ。お前は仕事をしろと………。
「そうですね。兵を預かってしまっては仕方がないですね」
あの短い手紙は、きっと踏み絵だ。選択を間違えずに済んで良かった事に安堵する。
「分かりました。あなたの妹と、侍女はリリーを連れてゆきます。あなたはバートンと見習いのスージィを連れて、あなたの為すべき事をなさい」
陛下の期待されている思惑と違うと思うが、私も祖母には逆らえない。
中間管理職? 嫁と姑に挟まれた旦那? そんな危うい立場にいるのだ。この辺で妥協して貰いたい気持ちを精一杯したためた手紙を陛下へのお返事として早馬で送ってもらう。
後日「悪い虫が付かない交友関係なら歓迎だ。これからも頼む」とお返事を頂いたので、無事に命を繋いだと言えよう。
なんだこれ………本当にゲームよりずっと綱渡りの人生だ。
その後は手早く支度を整え終えて、私は工兵と共に叔父が待つ皇家の直轄地へと赴いた。
帝都に向かった妹からは3日に1回手紙が届いている。どうやら無事に末姫と仲良くやっているようだ。祖母の手紙には末姫が妹に夢中で、陛下が悔しい思いをしていると書かれていた。
妹はゲームの物語では悪役令嬢になる運命だったが、元の性格は悪くない。むしろ領民を思う優しい子だ。
兄である私が家督争いで殺され、自身は王家に利用されるだけの立場になって病んでいったのだろう。
妹からの手紙にはその兆候が見られない。このままなら、きっと幸せに暮らしていけるはずだ。
なおさら、父を死なせる訳にはいかない。私は、新たな暮らしの中でそう誓ってチャーハンを作った。
「ブラッドリー様! このチャーハン美味しいです!!」
工兵と共に野営をしている場所で、私は工兵とスージィに料理を振舞っていた。分かりやすく言えば、餌付けだ。
工兵も500人もいる為、1人で全て賄う事は出来ないが、今では工兵の中で料理ができるものが率先して手伝ってくれている。
「このように米は、長期保存だけではなく、旅先でも工夫1つで手軽に食事を楽しめるものにしてくれる」
食事をしながら工兵には、今行なっている米畑の為の作業が如何に有用かを説得している。
「今更、固いパンが食いたいか!」
「暖かい飯が食いたくないか!!」
無心でチャーハンを食べながら頷く工兵たちを見て、満足する。こうして人心を掌握し、学園へ行っている間も工兵たちが率先して仕事に従事できる環境を整えた。
別に記憶にある故郷の味に興味はなかったが、食べて見るとやっぱり美味しいよね。お米。
「うむ。よくやっているようだな」
「はっ! ありがたきお言葉」
学園に入学する直前まで皇家の直轄地で活動をしていたが、学園に入学する為の時期がやってきた為、急ぎ帝都へ足を運ぶ事となった。
当然、帝都に着いたその足で祖母に連れられて城を訪れて、強制的に陛下と謁見をさせられていた。
「さすがに叔母が自慢するだけはある。何より米の有用性は素晴らしい。長期行軍に適した食料と言えよう」
私の活動報告は、私からだけではなく、叔父に私を監視している文官や兵たちの手によって全て報告されている。
「それに、我々の最低限の支援だけで、来年には成果をあげそうだと報告を受けておる。実に良くやった」
「勿体無いお言葉です。これも最初に陛下より兵を預かったゆえの成果でございます」
こう会話する我々は、初対面だ。陛下は厳つい威厳のある人物を想定していたが、会ってみると意外に普通のおっさんだった。
「うむ。来年の結果次第で、そちの案を受け入れよう。そして開発の人員も融通しよう。さらに精進せよ」
自身が思い描いていた計画をさらに前倒しするかのような回答を得られただけでも、謁見をした甲斐があった。無理やり連れてきてくれた祖母に感謝だ。
この陛下は、先ほどはおっさんと評したが、話をする時はやはり上に立つものの威厳がある。人は見かけによらないの見本のような人物のようだ。今後とも気を抜けない事だけは心に留めておこう。
「堅苦しい話はここまでじゃ。ここからは親戚として気軽に話そうではないか?」
いや、やっぱりただのおっさんだった。威厳が完全にどこかへお出かけになったようで、態度だけじゃなくだらけた姿勢で完全に別人のようになった。
周りの衛兵たちを見ても、日常茶飯事らしく、誰も慌てた様子はない。ここって確か謁見の間だよね?
「末娘が、お主に会ってみたいと言っておるが、どうじゃ?」
軽い会話のように聞こえるが、これはゲームでいうなら選択肢だ。選択を誤れば、即、死を迎える。
よく考えて答えろよ!私!! 謁見時よりも緊張するってどこが気軽に話そうだ!! さっそく油断ならねぇよ!!
「王女殿下のご期待に応えられそうにございません。私はこれから学園の入寮手続きを済まさなくては、間に合わなくなってしまいます」
陛下との手紙をやりとりする機会は何度かあって、そこからありとあらゆる対策を立てていた。
この回答なら生き残れる!!………はず。
「そうか。確かに手続きは今日までだったな。皇家に関わるものが些細な事に権力を使うのは感心する事ではない。学園の入寮手続きを優先せよ。末娘には私から伝えておく」
「お手を煩わせて申し訳ありませんでした」
今日も無事に生き残ったようだ。こんな選択を多く迫られるなんて、普通のゲームの方が何万倍も楽だ!
「よい。お主が忙しかったのは理解しておる。今後とも仲良くやっていきたいものだ」
はい。今後とも末姫には決して近づきません。そう心の中で新たな誓いを胸に、なんとか謁見を乗り切った。
自分が転生者と気づき、己の死亡フラグを回避してようやく学園ゲームの本編とも言える入学の時を迎えた。
だが、私が知っている知識はもう役に立たない。
本来入学する学園すら違っているのだから………。
私は王都ではなく帝都にある学園に入学した。
ここからが本番だ! 領地経営についてはある程度の力を示す事が出来たが、来年の収穫時期まで気を抜けない。そして、学園内でも上位の成績を収める必要がある!!
ギャルゲーのように攻略者っぽいご令嬢たちを攻略している時間などない!
私には、DEAD or ALIVEの選択肢しか与えられていないのだから、余計な選択肢など要らない!!
あ、チャーハンを学食のメニューに加えたら儲けられるかな?
-後書き-
『その悪役令嬢、要らないなら貰うよ。見返りはざまぁで。』という作品の、
話の構成作業が終わっていないのに、まったく何をやっているんだと思っています。
お待ちになっている読者の方には申し訳なく思っております。
でも、ちゃんとコツコツ書いているよ!
この作品は禁断症状を晴らす為に投稿しただけだよ!! ◝( •௰• )◜