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花が枯れても思いはそこに

 五月の半ば晴れがまだまだ多い時期なのに雨が降っていた頃。比較的若いメイドの先輩方が開いてくれる僕の歓迎会があるはずだった。

 しかし、歓迎会前に発案者である姉崎葵さんとの買い物の最中に僕はけがをした。

 葵さんの彼氏が僕をちゃんと男だと認識して、葵さんが二股していると勘違いした結果逆上し襲ってきた。僕が葵さんをかばい、守ろうとして蹴り飛ばされ、棚のフックか何かで腕を切った。

 葵さんの彼氏に負わされた傷は一週間ほどで完全にふさがり、二週間たった今では跡が残っているもののさほどわからなくなってきた。

 葵さんは歓迎会を食事会に変更したにもかかわらず、そっちには行かずに、その日のうちに彼氏と別れると面と向かって言うために彼氏のもとへ行ったそうだ。

 桜月様は僕の腕の傷を見てアネモネのようだと言った。キューピットがいるわけでも葵さんが僕に恋をしたわけでもない。だけど男が葵さんと一緒にいた僕の腕から血を出させた。神話であればその血を吸って花が咲くけど、僕のは腕に巻いた包帯に血が滲んで花のようにも見える程度のものだ。

 アネモネの花言葉に無実の犠牲というのがあるこの時の僕を表している気がする。

 そして、はかない恋。葵さんと男の恋ははかなく散った。

 花言葉に沿っていくなら残念ながらそれでも、君を愛すとはならなかった点だろうか。個人的な意見でいいのであれば僕は、今回の事がなく、そんな男と付き合い続けていたらいつか後ろから刺されるようなことになっていたかもしれない。だから僕は傷ついたけれども二人が別れるきっかけになってよかったと思う。

 ちなみに歓迎会の方は完全になくなったかというとそういうわけではない。僕の腕が治ったタイミングでもう一度開かれた。

 会はもともと予定していた名前は横文字で読めないビュッフェスタイルのお店で行われ、内容は概ね職場の愚痴、定番であろう恋の話はちらっとされたが宮前さんの彼氏ののろけが始まったところで、葵さんが彼氏と別れたことを多分僕以外知らなかったはずだが、なんとなくの空気を察してかすぐに収まり、森さんが僕への学校生活はどうなのかという質問がきっかけで僕への質問タイムが始まった。

 会も後半になってくると飲んでいたお酒が回ってきたのか森さんと葵さんは完全に酔ってきて、絡み方が酔っぱらいのそれになってきていた。宮前さんもいつものピシッとした感じではなくぽわわ~んという感じだ。これがアニメなら宮前さんの頭のあたりに小さなお花畑が見えるだろう。

 ビュッフェの時間が終わり、僕とまだ大丈夫な宮前さんで泥酔している森さんと葵さんを家まで送っていくことになった。タクシーを使えればよかったが、あいにくお財布に足りるだけのお金がないと思い電車を使うことにした。

「葵さん。大丈夫ですか?」

「まだまだこえからだぁ」

「家まで送るので家がどこか教えていただきたいんですけど。」

「ふぁい。」

 そう言うと葵さんは自分のバッグから免許証を僕に渡してきた。渡された免許証を見て住所をスマホの地図アプリに打ち込む。よかった三駅と少し歩くだけだ。

「葵さんこれから家に行きますよ。ちゃんと歩いてくださいね。」

「ふぁい。」

 あ、まずいなんかうとうとしてる。僕は葵さんに肩を貸し駅まで歩く。

 無事電車に乗ったはいいがそこで葵さんが力尽きてしまった。具体的に言えば体を僕に預けて眠っている。

 電車を降りるとき体をゆすったり、声をかけたりもしたが起きてくれずおんぶすることになってしまった。

 おんぶをすると背中に柔らかいものを感じたり、葵さんの体を支えるために足の付け根のあたりに手をまわしたりしているが、駅から葵さんの家までずっとおんぶなのだからこのぐらいの役得はあってもいいはずだ。

 体がずれ落ちそうになるたびに軽く葵さんの位置を直すのだが、そのたびに耳に甘い吐息がかかり僕はいろいろと困る。何がどう困るかは言えないけど困ってしまう。

 それでも葵さんの住む家にスマホの地図アプリのナビ機能を頼りに向かっていく。

 ナビが示した場所には5階建てほどのマンションがあった。

「葵さん、葵さん。」

「んー」

 声をかけても体をゆすっても起きる気配がない。

 マンションの入り口を入ると郵便受けを見つけた。最近では個人情報が同行と言って名前や名字を出していないところがほとんどらしいけど、ここは見てみると部屋番号の他にSTやKRといった感じでカードが郵便受けの扉にはめ込まれていることからたぶんイニシャルなのだと推測できる。

 幸い全員分用意されているようで僕はそこからあねざきあおいでAAを探す。

 あった、401号室だ。

 僕は葵さんをおんぶしたままエレベーターに乗り込んだ。やっぱり起きてくれる気配がない。気持ちよさそうな寝息を耳元で感じているととても危うい感じを覚えてしまう。

 僕が女と認識しているからこんなにも無防備なのか、普段から飲むと潰れてしまうのかは知らないけど、こういう普段しっかりしている人のちょっと抜けたところを見ると可愛く感じてしまうから不思議だ。今まではかっこいいと思ったことはあるけど、可愛いなんて思ったことは失礼だけど微塵も思ったことはなかった。

 このままではおかしな思考になってしまう。頭を振って邪念を払っているとエレベーターが4階に到着した。

 自分のマンションについたとやっと気がついたのか葵さんが半覚醒状態でふらふらと401号室に向かっていき鍵を開けた。

 人には短期記憶と長期記憶があると聞く、長期記憶の中には日常的に行う行動が体にも覚えることで今の葵さんのように、家の鍵を開けるといった日常的に行っている動作ができる。記憶が飛ぶほどお酒を飲んだ次の日よくわからないけど家にいたというのはそういうことらしい。そのときは大体玄関で潰れてるとも聞くけど。

 葵さんも同じようで玄関で靴を履いたまま再び眠りにつこうとしていた。このまま完全に寝てしまうと体に悪い、僕は肩をゆすって声をかける。

「葵さん、葵さん。起きてください。気温が高くなってきたからといって、こんなところで寝ると風邪ひいちゃいますよ。」

「ん、んー後5、」

 目は閉じているがまだ完全に寝たわけではないみたいだ。

「5分あったら完全に寝ちゃうじゃないですか。」

「時間」

「朝になりますよ!」

 僕は心の中で勝手に覗いてごめんなさい、と葵さんの寝室を探すために部屋扉をいくつかあけた。ベッドの置いてある部屋を見つけて、今度はお姫様抱っこをして葵さんを運ぶ。

 ベッドに静かに降ろしているとだらんと垂れていた腕が僕の首にまわされ、葵さんの顔が僕の顔に近づいてきて

「んっ」

そして、唇に唇が触れて僕は完全に思考停止した。

「ふふっ、守ってくれたお礼だよ。騎士(ナイト)さん。あなたがちゃんと男だったら惚れたね。」

 耳元でそう囁くと葵さんはそのまま寝てしまった。

 

 陽の光の暖かさがカーテン越しに伝わってくる。小鳥の鳴く声が聞こえる。

 朝が来たみたいだ僕は一睡もできなかった。

 キス直後に葵さんが僕を思いのほかがっちりとホールドしたまま眠ってしまったため、僕も同じベッドで横になることになった。

 葵さんの顔を直視できないしドキドキして眠れないしいろいろ考えちゃうしとても長い夜だった。

 まずいそろそろトイレに行きたくなってきた。このホールドされた状態だと無理に引きはがさないと、あれ?弱くなってる。

 葵さんの腕は昨日の夜が嘘のように力が抜けていた。

 僕はそーっとベッドを抜け出し、部屋を抜け出しお手洗いをかりた。途中リビングの時計で時間を確認すると午前4時をまわったところだった。

 スマホで電車の時間とかを調べたかったけど、残念なことに電源ボタンを押しても画面は暗いままだ。

どうやって帰ろうか?

 便座に座って悩んでいるとお手洗いのドアが開いた。そこには片手で頭をぼさぼさっと掻いている葵さんの姿があった。

「あ」

どうやら鍵をかけ忘れてしまったらしい。うん、そうじゃない冷静に忘れたことを分析するより、僕は慌てて足を閉じた。

 葵さんは固まっている。

 僕も固まっている。

 たっぷりと十秒ほど世界が動きを止めたところで先に口を開いたのは葵さんだった。

「えーっと、おはよう?」

「あ、はいおはようございます。」

 反射的に返事をすると僕の時間も世界とはワンテンポ遅れて動き始めた。

「なんでうちにいるんだい?」

「え?」

 思わず素で言ってしまった。

「覚えてないんですか?」

「あー全く。頭痛いなー、あ、もしかしてあたしベロンベロンに酔っちゃった?」

「はい。昨日森さんと葵さんがだいぶ酔っていたようなのでぼ、私と宮前さんでそれぞれ自宅に送ることになりました。」

「よし、それから先の事は話さなくていい。鬼灯がうちにいるってことはあたしがなんかやらかして、終電のがしたって事だろ?あと、悪い、邪魔したね。」

 葵さんが扉を閉める。

「ふう。」

 思わず息を大きく吐いてしまう。

 ところで僕ってもうアウトかな、アウトだよね、見られたよねこれ。

 僕、朝霧秋梅(あさぎりしゅうめい)はわけあって十六夜桜月(いざよいおうき)様のもとで女装メイド(周りに女装だといっていない)としてこの春から働いている。期間は桜月様が女子高を卒業するまでの三年間、主な内容は学校での桜月様のサポートで屋敷でもメイドとしても働いている。桜月様はゲームだと言ったが条件がありその期間中女装をし続け、なおかつ他の人に自分が男だとばれてはいけないというものだ。

 なぜそんなことになったかというと、一言でいえば僕の不注意が招いたことで借金を負ってしまったことだが説明するのに時間がかかりそうなため語るのはまた、機会があれば。

 お手洗いを出ると扉の前で葵さんが内またで軽くくねくねして待っていた。そういえば昨日は飲み放題だからって三人で少なくともお酒だけ僕のソフトドリンクよりも飲んでいた気がする。そう考えると宮森さんってかなりお酒に強いのがわかる。二人がつぶれるほどの量と同じだけ飲んで家まで送れるほど酔っていなかったんだから。

「ちょっと、早くどいてもらえるかい。」

 もう限界がきているとわかるようなその言い方に僕は素早くよける。

 本当にやばかったようで目の前に僕がいたにもかかわらずドアに鍵をかけずにお手洗いに入った。洗面台のコップに歯ブラシが一本と未開封の歯ブラシが二本ほど、昨日は気がつかなかったけどスリッパが一足だけデザインの違うものがあったみたいで今葵さんが履いていたことから、一人暮らしだろうからそういう習慣ということも考えられるけど。

 できれば早く屋敷に戻りたいけど、なんとなくそのまま出ていくのも悪いのでリビングの椅子に座って他のマンションや少し先の大型ショッピング施設をぼーっと見ている。

 普通太陽光を浴びると目が覚めると聞くけど、寝ていないせいか、暖かな光を浴びて夢心地になってきた。

 どこかから水の音が聞こえる。葵さんかな、僕の脳内で滝の映像が流れ始めた。

 あ、水の音がやんだ。

 今度は脳内で小川の周りをちょうちょがひらひらと飛んでいる風景が流れてくる。

「そんな猫や犬じゃあるまいし、別にテレビつけてたっていいのに。」

 葵さんが後ろからそう言うとテレビを付けた。

 後ろを振り向くとそんな風景が消えていった。葵さんが髪を濡らし、ホットパンツにTシャツ一枚とラフすぎる恰好でいたからだ。それも体が水気を帯びているのかTシャツがところどころ体にピタッと張り付いている。きっと本人にその意思はないのだろうと思っても煽情的に感じられた。

 そんな僕の心を落ち着かせてくれたのは、テレビの画面に映ったのはあの形容しがたい大きさの違ういろいろな色の長方形画面に映し出されるだけのものだった。放送局と時間の関係で番組が放送されていないみたいで番組表を表示して横にスライドさせていってもやっぱり今の時間放送しているところはやっぱりほとんどなかった。

「なんだ、面白くないねぇ。」

 葵さんはテレビを消すとダイニングの方へ向かって行った。

「コーヒーでも飲むかい?」

「あ、はい。」

 葵さんは卓上の電気ケトルに水を入れて沸かすためにテーブルの上の台にカチッとのせると持ち手の上のところに赤いランプがついた。ランプがついたのを確認してから沸くまでの間にコーヒーカップとインスタントコーヒーのビンをテーブルの上に乗せる。

「あぁ、そこに座りな。あと、インスタントしかないから本格的なのが飲みたいなら我慢しな。」

 日向ぼっこを継続しているとテーブルの席に座るように促される。ずっと日光を全身に浴びていたからか日陰に入ると少しひんやりと感じた。

「本格的なコーヒーはほとんど飲んだことないのでインスタントも挽きたても分からないですよ。」

「うちらのお嬢様は完全に紅茶派だからねぇ、砂糖とミルクは入れるかい?」

「あ、大丈夫です。」

「そりゃよかった。あたしものぐさでね、そういうの入れて混ぜるのもまどろっこしいってんで使わないんだよ。ちなみにスティックのコーヒーシュガーもあのちっこいゼリーの容器みたいなのに入っているミルクもマドラーもないよ。」

「じゃ、なんで聞いたんですか?」

 ちょっと笑いながら聞き返した。その時に葵さんの顔をが見えて昨日の事が思い出されて慌てて視線を外す。

「ちょっと聞いてみただけだよ。ブラックがだめならカフェオレのスティックとかあるからね。って急に顔赤くしてどうしたんだい?風邪なら薬やろうか?あたし飲んでるのが大丈夫ならだけど。」

 葵さんは僕の額と自分の額に手を当てて、それから自分の額を僕の額に当てようとしたため思わず引いてしまう。

「おっと、逃げるんじゃないよ。ほら、また顔赤くなった。」

 あなたのせいなんですけどねぇ。ほら、胸の方に下着を着用していないようですし、何がとは言いませんけど見えちゃいますよ。今度はくるとわかっているから、逃げはしなかったけど、葵さんの顔やらを直視できないから目を瞑っていた。

「うーん、熱はないみたいだね。あと、ひげ生えてきているよ、最近じゃ油断してると女子でも産毛程度じゃ済まないらしいからね。しっかりケアするんだよ。」

 うわ、女子でもひげ生えるんだ。知らなくても、知りたくもないようなことを知ってしまった。急に気持ちが冷めた。なんか、ありがとう?非常な現実。

「そう、露骨に落ち込むなって、女性の社会進出とともに、会社でのストレスだとか男性ホルモンが増えたりだとかで生えてきちゃうんだってさ。そりゃあ鬼灯あんた、女子高生でメイドなんだからストレスがない方がおかしいってものだよ。ちゃんとケアすればそうそうわかんないしさ。」

 本当は落ち込んだ理由は違うけど葵さんがフォローをしてくれらから心が軽くなる、ということにならない。だって僕、男なのでひげは仕方ない。本当は入浴の時に怪しい部位の毛は毎日処理しているけど、今回はできなかっただけなので、あと、ストレスに関してはメイド、女子高生、女装ばれの恐怖でいつ胃に穴が開いてもおかしくないと自分では思っているほどなので、それがひげとかに直結したら学校の昼休みにも剃らないと怪しいかもしれないかな。ならいっそ脱毛してしまえば楽になるか。

「そうですね。ストレスため込むとろくなことないですからね。」

 ストレスとは違うけど思いを積もらせ暴走した人を知っている。人の心はダムのようなもので適度に開門してそこに溜まったものを外に出さないと決壊して取り返しのつかないようなことをしてしまう。

 逆にストレスフリーというのは一見していいことのように感じてしまうけど、大概の事柄は少しのストレスがないと質が低下してしまう。だからこそトップアスリートは観衆がいる環境の方がいい動きをする。

 僕はストレスとうまく付き合えているだろうか。

 今でも常に緊張状態にあるのは、いつ何がきっかけでばれるかわからない女装という制約のせいだ。おかげで心の休まる時間が鍵をかけた状態で自分の部屋で読書をしているときだけだ。その時間だけは今の現実を忘れられて物語の傍観者になることが出来る。

 現在自分が物語の登場人物にでもなったかのような状況に置かれて、やっぱり物語は演じるよりも見ていたいと思う方の人間だと思った。ところで、女装して女子高に潜入とかいう題材のマンガなら二、三か月もたった頃なら適当に見た目いい女子にばれて協力関係になってそのままお互い意識し始めてもいいですよね?

 ええ、そうですね。僕に男性的魅力がないからそういう類のイベントがないんですよね。いいですよ、安全ですし。

 僕の悪い方に落ちていく思考を遮るようにしてケトルから白い湯気が勢いよく出てきた。

 僕はインスタントコーヒーのビンを開け二つのカップに小さなスプーンで粉をすくって入れてケトルのランプが消えるのを待つ。

「律儀だねぇ、いいんだよ大体で。インスタントコーヒーをカップに入れるときは目分量だったんだからさ」

 葵さんがまだランプがついたままのケトルを持ち上げてカップに熱湯を注ぐ。

「ありがとうございます。」

「ところで何で帰るつもりだい?」

「それは来た時と同じようにバスで帰ろうかと。」

「時間知ってんのかい?屋敷の方に行くバスってかなり本数少ないけど。それと運賃」

「時間はわかりませんが一度バス停に行けば時間はわかりますし。お金も大丈夫です。」

「あたしの記憶だとバス午前中は一本もないよ。ありゃ完全に午前中は屋敷の方の人がこっち来るのに何本かだして、帰りの時間夕方ぐらいに何本かだしときゃ充分だと思ってるよ。」

「午後にならないと、ですか。」

 思わずため息がでそうになった。時計を見ると今がだいたい5時だから・・・あと7時間も。

「どうする?バスの時間まであたしんちで時間潰すかい。鬼灯うっすらクマできてるしベッドで寝るでもいいし、なんならあたしが送ってやろうか。」

「そんな悪いですよ。」

「まあまあ、あたしからのお礼だと思って、親切を受け入れなって。」

「お礼というのであれば。断れませんね。」

「そういえば、お風呂かシャワー浴びたかい?昨日と同じ格好だろ?下着ぐらい替えたらどうだい?あたしのやるからさ。」

「いえ、大丈夫です。屋敷に戻ったらすぐに着替えるので。」

「そうかい。まだ早いし一度眠っておきな。もうコーヒー飲んじゃってるけど少しぐらい眠れるだろ。適当な時間になったら起こすからさ。」

 熱いコーヒーで目が覚えたかと思ったけどそんなことはなく眠気が飛んだのは少しの間だけだった。お言葉に甘えてリビングのソファーで横にならせてもらう。

「そんなとこで寝たら起きた時体が所々痛いってことになるよ。ちゃんとベッドで寝なあたしが使ってるやつしかないから、それしかないけど。」

「いえ、ここで大丈夫です。陽の光が心地いいので。」

「そりゃよかったね。」

 実際は葵さんのベッドを使うと逆に眠ることが出来なくなると思いますが。だって、まだ顔も見ることが出来ないんですよ。葵さんの匂いのするベッドなんてもっとだめに決まっているじゃないですか。

 ああ、本当に陽の光がポカポカと気持ちいい。

 カフェインが覚醒を促しているはずなのに、ゆっくりと体が宙に溶けていくような感覚と一緒に僕の意識が体から離れていき再び夢と現実のはざまに誘われた。

どのくらい眠っていたのかいまいちわからないけどポカポカと感じていたはずの陽の光が目覚めた時には眩しいくらいに強くなっていた。

 時計を確認すると九時ごろになっていた。ということは眠っていたのは大体三、四時間といったところなのに普段屋敷の自分の部屋で寝る時よりも疲れが取れたような気がした。体は固まったけど。

 伸びをして体のいたるところからポキポキと音を鳴らしているといつの間にか、また着替えた葵さんが

「女の子らしくないね。」

と言ってきた。僕は体がポキポキとなりやすいみたいなんだけど、確かポキポキの原因って関節の間に気泡ができてそれが破裂する音だって聞いたことがある。男性女性で違うかはわからないけど、だれでも気泡が破裂するような負荷をかければポキポキなるはずだ。まあ、それでもよくポキポキさせるイメージとしては圧倒的に喧嘩前のヤンキーと海外ドラマの刑事や軍人それも30過ぎの男性ですけどね。

「そういう体質みたいなんですよ。それが関係してるかはわかりませんがいろいろな関節が人よりも柔らかいみたいなんですよ。」

 僕は左手の人差し指から薬指までの四本の第二関節、第三関節のあたりまでを手のひらにつけて見せる。

 葵さんも真似してみるがグーのような形のままだった。

「鬼灯これどうやったらなるんだい?気持ち悪いよ。」

「これ見せるときだいたい皆さん同じ反応されますよ。キモイって言いながら真似しようとする人はあんまりいませんでしたけど。」

「関節が柔らかいとやっぱり怪我とか少なくなるもんなのかい?」

「体が柔らかいのは別ですから、体が柔らかい人は関節技が決まったら痛くて動けないかもしれませんけど、僕は普通の人が関節決まってるような状態でも痛くないんですよ。それで怪我がしにくいというか受け身は体が柔らかい人の方がうまいですよ。」

「大して便利でもないみたいかね。」

「利点という利点は特に思いつかないですね。」

「使えないね。」

「残念ながら。」

「そういえば、朝ごはんまだだったね。」

「そうですね。さっきはコーヒーを頂いただけだったので。」

「この時間じゃ屋敷いっても朝食にはありつけそうにないからね。」

 僕の仕えている十六夜家の決まりというか習慣として基本的に食事は主もメイドもいっしょに食べる。食事の時間は決まっていて主の都合などの理由以外では基本的に変更されない。そして、住み込みの者で病気などを除いて、前日に理由を言わず朝食の席を欠席するとその日の食事は外で食べてくると認識される。

 実際はこの前みたいに朝は食べてお昼からは外で食べてくるのでいりませんといったことの方が多い。

 さて、この場合は昼食、夕食を頂けるのか微妙なところだ。なんせ無断外泊。

「もしかしたらその後も怪しいですけどね。」

「そん時はまた、食べに行こうか。」

「それはそれでよくないんじゃ・・・」

「仕方ないねぇ。あたしも事情説明ってのをしてやるさ。まずは朝ごはんを食べようじゃないか。パン派?ごはん派?」

「ごはん派です。」

「あいよ。」

 葵さんは佐藤さんのごはん的なあれを電子レンジに入れて自分ようだと思われるパンをトースターにセットし電気ケトルでお湯を沸かし始めた。

「あたしもさっき起きたばかりだし、おかずはないよ。」

 白飯のまま食べろと?

 そんなことを思っているとチンと音が鳴った。電子レンジからパックのごはんと割りばしを出して僕の前に置く。

 テーブルにそれだけ置かれて思わず、え?やっぱりこれだけなんですか?と葵さんを見上げると目が合った。

「やっと人の顔見たね、さっきから露骨に視線避けて、そんなことされると気になるったらありゃしないよ。理由あるならはっきり言いな。あたしが嫌ならいやって言やあいいんだよ。別に言ったからってどうこうしないよ。ただ、わからないと解決しようがないしすっきりしないってだけ。」

目をそらそうとしたけど葵さんの言葉で視線を外す行動を制限された気がした。

「それがですね・・・」

 僕は昨晩の事を一部省いて葵さんに伝えた。

「あぁ、なんていうか悪いね。昨日は完全に酔っちまったからね、店にいるときまでの記憶しかないんだよ。」

 ちなみに省いたところは朝までホールドされたこととその間の僕の葛藤だ。あなたに朝まで抱き着かれていたので眠れませんでしたとは言えない。

「でもさ、女の子同士なんだから、そう気にするなって。それとも何かい?その年だキスの一つや二つぐらいあるだろ?」

「・・・」

「え、まさかファーストってやつかい?」

「まことに恥ずかしながら。初めてでした。」

 正真正銘のファーストキスです。(もちろん親、親戚からのものを除く)

「そんなのノーカンだよノーカン。残念だけどあたしは覚えてないんだ。鬼灯が記憶から消せばなかったことにできるだろ。」

「そ、そうですよね。ノーカンですよねノーカンですよねー。あと、残念だけど覚えてないってなんですか。」

「ん?そりゃあ、うろたえる姿が可愛かったろうなって思っただけ。真っ赤になって固まって、口パクパクさせてさ。」

「そこまではなってないですよ。」

 葵さん実は覚えてるんじゃないのか?いや、口をパクパクさせてないけどね。朝まで(ホールドによって)固まって心臓はバクバクだったけれど。

「本当かい?今だって顔赤くなってるのにねぇ。」

 あ、小動物を意地悪して楽しんでるような眼だきっと。気がつけばトースターにセットされた食パンがこんがりと焼き目を付けて上に上がっていた。

「そ、そんなことよりトーストできてますよ。冷めてしまう前に食べましょうよ。ところで葵さん、白いごはんをおかず無しで食べますか?」

「あぁ、そうだね、食事は温かいうちにね、ごはんに関しては意地悪して悪かったね。さっきも言ったけど露骨に避けられるのにイラっときてさ、はい、お茶漬け。」

 どこから出したのか、手品のように何も持っていなかった右手を横に一回振ってお茶漬けの袋を出した。

「葵さんすごいですね。手品ですか。」

「まあね、面白いかなって思って昔かじってたんだよ。」

 僕がいきなり披露された手品に驚いた顔をしていたのか葵さんが少しどや顔気味に言った。ごはんが出されてからはテーブル越しに僕の前に立っていて、お茶漬けを仕込むような事はしていなかったと思う。

 だとすればごはんがチンできたときに仕込んでいたのか。もともとどういうつもりで手品のようなことをしたのかわからないけど、おかげでさっきよりも素直に、顔を見ることが出来るようになった。気がする。

「ま、簡単なことだけだけどね。」

 その後に、葵さんはお茶碗を出してトーストにマーガリンを塗って食べた。その間に手品のような変わった行動はなかった。お茶漬けを出しただけで簡単な手品は終わりらしい。

「これ食べたらお屋敷の方に行くかい?それとも、もう少しゆっくりしてから行くかい?」

「朝食の片づけが終わってからでお願いします。」

「あいよ。」

 葵さんはトーストをトースターから出たまま皿なんかに置かずに手に持ったまま食べている。だから食器類の洗い物はお茶漬けを食べている僕の方だけになる。

 僕の方が先に食べ終えたため、割りばしとごはんのパックを捨てて、お茶碗を洗う。これまで一方的に気まずさを感じていて言われるがままみたいなところがあったので、当たり前かもしれないけれどこれぐらいはしておきたい。

「別に置きっぱなしでもいいのに。」

「そういうわけにもいかないですよ。朝食をごちそうになりましたし、ここに泊めていただいたので。」

「そんな気にすることでもないし、後半はあたしのせいで鬼灯が泊まる羽目になったようなもんだろ?」

「一宿一飯の恩は必ず何かの形で返せと私のおばあちゃんが言っていましたから。」

「なんていうかその言葉を選ぶって珍しいね、おばあちゃんは何かい?旅でもしてたのかい?」

「そのあたり私にもよくわからないんですよね、はぐらかされているような感じで。あまり自分の昔話を語りたがらないので。」

 なんていうか僕はおばあちゃんっこだ。僕の名前秋梅の梅の部分はおばあちゃんからもらってつけられたものだ。ちなみに両親の名前に秋の字はない。

 三世帯同居で暮らしていて両親共働きということもあって、幼い頃はよくおばあちゃんと遊んでいた。

 おばあちゃんの趣味は花を見ることで、よく一緒にお散歩に行った時なんかは僕があれは何て名前なの?と聞くと花や木の名前を答えてもらっていた。

 特に僕とおばあちゃんが好きな花は名前にもある梅で、家の庭にある梅から実を拾って梅干を一緒に作っていたものだ。あぁ、久しぶりにおばあちゃんの梅干食べたくなってきたなぁ。

 そんな僕とおばあちゃんだけど、僕が小学校の宿題でおじいちゃんおばあちゃんの昔を知ろうみたいな授業の宿題で話を聞こうとしても、昔の事は昔の事だから忘れちまったよと、はぐらかされてしまった。

 もちろんそこまでプライベートことを聞くようなものではなかったし、幼いながらにも僕はきっと聞いちゃいけないんだろうと感じとっておじいちゃんの話だけを提出した記憶がある。

「黙っちゃって、どうしたんだい?」

 危うく回想シーンに突入するところ葵さんに意識を思い出から現実に引っ張られた。

「ちょっと、久しぶりにおばあちゃんの漬けた梅干が食べたくなりまして。」

「今の話からつながりが見えないんだけど。気持ちはわかるよ、あたしも一人暮らし始めてしばらく経ってから無性におふくろの味っていうの?母親の手料理食べたくなったからね。」

「さて、そろそろ屋敷に送っていこうか。」

「はい、お願いします。」

「そういえば、車ってここの駐車場なんですか?駐車場そのものがあるようには見えなかったですけど。」

 マンションを出たところでふと、昨日の夜ほとんどスマホの画面を見ながらこのマンションまで来たとはいえ、ある程度マンションの周りに駐車場のようなスペースがないことを思い出した。駐輪場はあったと思うからバイクや自転車の人はここに停めているだろうけど、車を何台もおくスペースはやっぱりなかったと思う。 

 地下駐車場でもあるのかと思ったがエレベーターに乗った時地下を指す階のボタンもなかったし昨日は入ったところから出てきた。

「ああ、それなら近くに立体駐車場があってそこかりてるんだよ。ここ駅までそんなにかからないからたいていの人は車持ってないんだけどね、やっぱりあたしみたいに駅とかじゃ通えないようなところに職場あると車って必須になるんだよ。で、なんかそういう話が前々からあったみたいで、詳しくはわからないけど何年か前にここら辺のマンションだとかを経営してる人たちが、どうせだからって共有で立体駐車場なんか建てちまおうってなったらしいよ。」

「そうなんですか。じゃあ割と利用料金はかからないんですね。」

「その他んところと比べればそうなんだろうけど、なんせ一ヶ月毎に契約だからちょっとわかんないね。ここだよ。」

 立体駐車場まではだいたい葵さんのマンションから5分で着いた。一見すると他のマンションと窓やベランダがないということ以外は同じに見える。

 入口の大きい取っ手のない扉のとこにある機械に葵さんはカードキーを差し込み、暗証番号と思われる数字を入力した。しばらくして機械の動く音と共に扉が開いて葵さんの車が台のようなものに乗って出てきた。

 葵さんは台の上に車が乗っているのにそのまま車に乗り込んだ。僕も同じように車に乗り込む。

 車が発進してガタンガタンと台を降りる。僕はこのまま行っていいのかなと思って後ろを見ていると台が扉の中に引っ込んでいった。初めて見たからか僕は目を離せなかった。

 台がちゃんと扉の中に入って扉が閉まるのまで確認して、前を向くと葵さんが僕を見ていたのに気がついた。自分の行動が子供っぽいという自覚があったから、その視線が休日にお出かけで遊園地なんかの観覧車を見ている子供を見て微笑む母親のように感じられた。

「なんていうか、こういう感じなんですね。私こういうものを見るのは初めてなので、想像と違って少し驚きました。思ったよりも自動で動くんですね。」

 そんな視線を受けて、恥ずかしいと感じてしまったから、さも平然であるかのような感じで言った。これも子供のように言い訳をしているのだとわかっていてもだ。

「鬼灯って普段はどちらかというとおしとやかで女の子らしいけど、この前みたいにあたし守ろうと戦ったり今みたいに機械に興味津々だったりさ、男の子みたいなところもあるんだね。」

「どうでしょうか。この前は私のおじいちゃんに空手を教えられていまして、それで体が勝手に動いたと言いますか葵さんよりも私が相手した方が被害が少なくなると思ったと言いますか。」

「まったく、生意気だよ。」

 葵さんが前を見たまま左手で僕の頭を小突いてきた。

「いくら空手を習っていたからって、それでも相手は大人の男。あんたは子供じゃないかもしれないけどね、まだ大人でもないんだよ。あんたは今どういう大人になるかって分かれ道に立っているのさ。これから何年かかけて分かれ道を見ていって道を決めるんだよ。」

 前を見ていると思っていた葵さんとミラー越しに目が合った。さっきまでの砕けた態度とは違い真面目な目をしていた。僕はただ、その眼を見つめていた。まだ、葵さんの真剣な言葉は終わっていない。

「鬼灯あんたはきっと綺麗な道を進んでいくだろう、さっきは被害が少なくなるとか言ったけどあれは嘘じゃないけど後付けだろ?とっさにそんなことを考えられるとはあまり思わないよ、その前にもっと直感的に思ったことがあるはずさ。自分にがっかりするけど、あたしを守らなきゃ、そう思ったんじゃないかい?」

 葵さんが一瞬目をそらした。その時に僕の意識も一瞬窓の外に向いた。気がつくと駅から少し離れた所の交差点の信号がちょうど赤になったところだった。ここの交差点は駅に向かう道とそれを横切る道で交通量がだいぶ違う。そのせいもあって信号の長さもだいぶ違う設定になっている。今止まっているのは長い方の赤信号だ。

「それは、その、はい、葵さんを守りたいと思いました。」

 あの時、葵さんの手を引いて男と葵さんの間にいたのは間違いなくそういう類の感情だった。

「まったく、それで怪我してたんじゃ世話ないよ。少しは自分の気持ち偽って危険なことから逃げるってことを覚えた方がいいよ。何かがあってからじゃ遅いんだ今回だって傷跡のこっちまうんだ。体の傷なら時間があれば治るかもしれない。心の傷は治るかい、こっちは体と違って時間がかかる上に完治しないことの方が多い。」

「あの時、葵さんが我慢の限界だって、向かって行こうとしたじゃないですか。」

「そいつを言われると弱っちまうね。でも、本当はそれこそあんたをかばおうと思っていたのさ、あんたに引っ張られてる自分に我慢ができなくなったんだよ。結局あたしはとっさに動けなかったわけだけど。」

 ああいう時にとっさに動ける女性は本当に少ないだろう、それこそ格闘技をや武道を経験したことがあるような人でも急に襲われるようなことがあればすぐには動けない。

「私の場合は本当に体が勝手に動いただけですから。」

「人を守るためにとっさに体が動く、すごいことじゃないか、おかげでそっちの気はないはずなのに鬼灯に惚れちまったよ。一応女の子のはずなのにね。あたしってこんなに惚れっぽかったのかね。」

 葵さんが照れ笑いをしながら僕をじっと見てきた。今度はミラー越しとかではなくて直接こちらを見ている。

 それって僕のことが好きということだろ?僕の動悸が激しくなってきた。昨晩からドキドキさせられっぱなしだったけど今一番の心拍数を記録していると思う。

「そ、それってどういうことでしょうか?」

「こういうことだよ。」

 葵さんが自分の唇に指を当てて、その指を僕の唇に当てる。

 その行為の恥ずかしさに葵さんは顔を耳まで真っ赤に染め顔をそらした。

 不覚にも記録を更新した。可愛いと思ってしまったじゃないか。

「ああ、返事の方は大丈夫、しなくてもいい、あたしってほらこんな性分だからさ、言わなきゃ気が済まないんだわ。だから、ほら明日とか何なら送ってから前と同じように接してくれて構わない。あたしも何馬鹿やってんだって自分にあきれてるぐらいにね。あんたが望むならあたしはどっちにも振舞うよ。」

「え、えーと、あまりにも唐突でしたので、しばらくは普段通りでお願いできますか。」

「しばらくってことはっ!!」

 と、急に後ろの車からクラクションを鳴らされた。二人してビクッと体を跳ねさせた。

 いつの間にか信号が青に変わっていた。後ろの車が青になったのに発進しない前の葵さんの車にイラついたんだろう。ただでさえこの信号は青が短く赤が長い。

 僕は臆病者だ。受け入れるでも拒絶するでもなく、保留にしてしまった。本来僕が男で性別を偽って生活をしているのだから、この告白を受け入れることはできない。受け入れた後にはきっと幸福など待っていないのだから。とはいえ異性としてではなく人として、先輩として好きな先輩の言葉を拒否する勇気もない。生殺しが拒絶よりも期待させる分苦しくなるとわかっていてもだ。

 いっそのこと桜月様に判断してもらうか、いやそんなことしたらそれこそ葵さんに悪い受け入れるも拒否するも他人に決められることになってしまうから。

 大丈夫だと思っていても絵梨香先輩のようにならないわけではない。だから僕と葵さん以外の人に言うのははばかられる。どうしたらうまく断れるのかな。

 屋敷につくまで、無言のまま気まずい空気がエアコンのついているはずの車内に充満していた。

 その間僕は、左腕を無意識にさすっていた。それは痛いとかそういう理由じゃない。決していい記憶ではない出来事によって咲いたアネモネの花が、二週間たって枯れた今でもそこにあることを確認したかったのだろう。

 だって、その花言葉が僕に向けられるものだとは思っていなかったから。

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