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秘密の思いは花にたくして 前

 「と、いうわけで入部することにしました!」

 先日の三葉先輩の件が終わってから。なぜか朝香さんは入部を決めていた。桜月様は説明だけして初雪様、朝香さん、三葉先輩を部室に残して早々と帰った。勿論付き人である僕は桜月様の後をついて行った。桜月様曰く「初雪に任せたほうがうまく治まる。私がそうだった。」だそうだ。桜月様はいったい何をして何をされたのだろうか。

 初雪様が何を朝香さんに言ったのかはわからないけど、普通自分が動物の死に関与していると一方的に言われれば気持ちよくならないだろう。それもそのことを言い放った本人が所属している部活動に入る物だろうか。

「いえ、すいません。どういうわけかわからないのですが。」

「私はただ、落ち込んでる音姫ちゃんにあなたは知らなかったのだから悪くないよ。次から気を付けようねって言っただけよ。」

「あっちが今度から猫をあまり家から出さないようにするって事で話自体は落ち着いたよ。こっちも自分家で育てる植物がどういう動物の毒になるのかある程度調べることにしたよ。それでこの部活に入ったってわけ。」

「なるほど。自分の家で育てた植物で伊藤家の猫が死んでしまったから同じことを繰り返さないために園芸部に入ることで私たちに聞くつもりか。悪いことは言わないやめておけ、君が部に所属しようがしまいが私は好んで話すつもりはないぞ。」

「まあ、そういうことというかそうなんだけどさ、それだけじゃないんだよねぇ。というかむしろじゃない方がメイン。」

「ではそのメインというのをお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ああ鬼灯さんやめてよ。」

「聞いてはいけないものでしたか?」

「んーと、その敬語?みたいな話し方をやめて欲しいんだよね。同じ学年だしかゆくなる。」

「制服を着ていても私はあくまで桜月様に仕えるメイドですので桜月様のご学友ということになりますので、丁寧語、ですますぐらいは我慢してもらいたいです。」

 なんていうか女の子口調だとこっちがかゆくなってくるから使いたくないし砕けた話し方をするとぼろがでそうになる。今でもとっさに男の反応をしてしまう。ちなみに素で女子っぽい声を出せないから学校でもお屋敷でも声を作っている。もしかしたら僕には声優や俳優の才能があるのではないかと思えてくる。

「そのぐらいならいいかな。丁寧な口調ならそういう人も普通にいるしね。」

「ああ、そうそう、私がこの園芸部に入部を決めたメインの理由ね。簡単に言えば面白そうだから。今回はさ私当事者だったし何ならドラマとかでいう犯人みたいなものだったから全く楽しくもなかったけど、こういう事件みたいなのがさ入学してから2か月ぐらいしかたってないのに二つも起きているわけじゃん。こんな面白そうなものが舞い込んでくる部活に所属しなきゃ損かなって思ったわけ。」

「こっちは迷惑だから頼まれても断りたいんだがな。しかも知らない間にさも私が解決してやるといったような内容の噂まで流れているし全く困ったものだよ。」

 入学して間もない頃桜月様は部活動に所属する気はなかった。それがなぜもともと相談をしに行くようなところではない園芸部が相談受け付けますみたいなことになっているのか。もちろん同級生にもお姉さんのように慕われている初雪様の人気もあるのだろうが。今年からそのような活動が始まったのは入学当初の一件の後初雪様が部活動の時間にも相談を受け始めたからだ。実際この前の猫の相談以外の友人関係だとかそういったものは初雪先輩が相談を受けている。あれ?初雪様ばっかじゃん。

「どうしてでしょうね。」

「大方初雪の事件をこいつのようにどこかから聞いて尾ひれやらついて広まっていったのだろう。」

「え、初雪先輩の事件?桜月さんが解決したって聞いたけど。」

 桜月様は朝香さんの方を軽く見る。桜月様は入学して間もない頃に起きた事件を初雪の事件と言った。この事件は桜月様が解決したのだがその時の依頼人であり被害者とも言うべきな人が初雪様だ。

「深く関わる必要はないさこれは君の話よりももっと気持ちの良くなるような話じゃない。」

「そうなの?私が聞いたのは花壇に無断だけど花に好きな人に愛のメッセージを込めて植えてあって、そのメッセージを桜月さんが気づいて伝えてあげるっていう素敵な話を聞いたたけど。」

「はい、だいたいその通りです。」

 実は概ね朝香さんの言っていることで内容はあっている。でもそんなに綺麗な話じゃない。そもそもメッセージなら相手に伝わらなければ意味がない。その話の最後には初雪様が傷つくような結果を生んだ。心に傷を負ってもおかしくないようなことだと思う、けど初雪様はそれでも気丈にむしろだからこそ優しく振舞っているのかもしれない。そう、これは興味本位であまり聞いていいようなことじゃない。

「じゃあどうして気持ちいい話じゃないの?その人の気持ちが伝わったかは知らないけど素敵な話じゃない。そういえば、桜月さんと鬼灯さん以外の人の名前は聞いてなかったかも。」

 残念なことに桜月様がイライラし始めた。この辺りで話を切らないと屋敷に帰ってから僕がとばっちりを受けることになると僕の第六感またの名を直感が言っている。

「告白が失敗したときは往々にしてした方もされた方もそのこと自体を隠すものです。桜月様が噂になったのはおそらくその華やかな見た目と入学したての一年生が関わったという点だと思われます。それにほらここは女子高ですし。」

「あぁ、告白失敗ね。うんわかるよ。中学の時クラスの男子に告白したい女子がいるから手伝ってくれって言われたことある。それでそいつ振られてさ次の日には広まってんの。でも告白のこと知ってるの私と告白したそいつと告白された子だけ。そいつ私のこと攻めたもんお前が言いふらしたんだろって。そんなことわざわざ言うかってので、結局そもそも告白のこと知ってた女子がいてその人が告白された人にどうだったのか聞いてそれを聞いた子がまた言いまわってっていう連鎖だったの。特に恋の話だもの年頃の私たちには黙っていることが出来なかったんだと思う。」

「で、君は何が言いたいんだ。」

「要はよく当の本人たち以外にそのことが広まらなかったなっていうこと。内容は噂になっている。噂の花壇なら私も見た。じゃあなんで当事者の話はまわらないのかなって思っているだけ。」

「それで?私たちが喋るとでも?」

「ううん。なんとなくだけど喋ってもらえないと思ってる。でもね初雪先輩があなたたち以外に関わっているってわかった。それもただ関わっているってことじゃないって感じだね。私さ、引っ越してきたのは去年だけどさこれでも結構顔広いんだよね。」

「あなた本当にその話を聞かなければならないの?」

 これまで黙っていた初雪先輩が口を開いた。なかなか引き下がらない朝香さんを見て当事者としてこの話を終わらせたいのだろう。初雪先輩がいつもと違って少し鋭いように感じられた。

「それはその、そこまでじゃないですが、ただなんかその話を聞かないと本当の意味でこの部活の仲間になれない気がするんです。」

「そう、音姫ちゃんは私たちの仲間になりたいのね。部員でも友達でもなくて。そうねぇ、どうしようかしら。私としても気分のいい話じゃないのよね。」

「話していい悪いは初雪が決めることだ。」

 数秒の間があって初雪先輩が動いた。

「じゃあ、今日の部活はおしまいね。私は帰るわ。お疲れ様でした。」

 そう言って初雪先輩は部室を出ていった。

「だ、そうだ。どうする?お前も帰るか?私は帰るぞ。」

「はい、準備いたします。」

 今日は特に何もしていないから準備も何もなかったけど予定よりも早く部活が終わりそうなのでお屋敷のメイド長であるベロニカさんに連絡を入れるためスマホを取り出す。

「ちょっと待って。その事件の話聞かせてよ。」

「ですが、初雪様は話してよいとおっしゃられておりませんので。話すのはどうかと思います。」

「わかった話してやろうじゃないか。」

「ですが桜月様それでは初雪様が。」

「鬼灯、初雪がこの部室を最後に出ないことはない。少なくとも私がこの部に入ってからな。その初雪が私たちを残して部室を出ていったこれが何を意味するのか。私たちがここでなにを話していようと初雪は認知ないということだ。自分から話していいとは言えない代わりに少し遠回しに話してもいいよと言ったんだよ。話してやれ。私は私の事をする」

「はい、かしこまりました。僭越ながら私が話させていただきます。」


まず始めに事件の少し前の話から。桜月様と初雪様の家、十六夜家と草間家は古くからの付き合いで二人は幼少のころから仲が良かったらしい。ということもあり、桜月様の入学式後十六夜家に初雪様が来て簡単なお祝いをした。簡単といっても庶民の僕が体験したことがないような豪勢さでお祝いをしていた。

 僕はその時にはもうメイドとして働いていたから直接お祝いしていた部屋にいたわけじゃない。お茶を運んだり僕自身がこれから桜月様の付き人として一緒に学校に通うということを紹介されたりする時に入室した。

 そこで初雪様は桜月様にある相談をしたそうだ。学校のシステム上在校生は入学式より前に始業式があり入学式の会場設営や授業が始まる。初雪先輩の話ではその一週間に園芸部が管理している花壇に初雪様が知らない間に花が植えられていたそうだ。ちなみにその花壇については僕も桜月様も見ている。普通、学校の花壇にはパンジーやマリーゴールドなんかの花を数種類並べて植えるものだと思うが、僕たちが見たものは赤い花が数輪ずつある程度まとまってまばらに咲いていた。桜月様は綺麗じゃないと評価を下していた。

「あ、それなら私も見たなぁなんか不揃いで気持ち悪い花壇だったね。」

「はい、植える作業の途中だったみたいですからね。」

 僕は再びその時のことを思い出す。

 僕が初雪様に紹介されたときには相談した後のようで

「こいつは私の付き人で一緒に学校へ通うことになる浅利鬼灯だ。」

「花壇の事はどうせいたずらだろう。まあ、なぜわざわざ花壇に花を植えるのかはわからないが。とりあえず鬼灯、しばらく授業に間に合う程度でいいから朝、業間に花壇を見張っていろ。」

「あの、桜月様せめてなぜそのようなことを命令されなければならないのかお教え願えますか。」

「お前も学校の花壇見ただろ。本来なら初雪が入っている園芸部で管理する物らしいんだが、勝手に花が植えられていたそうだ。もし続くようならやめて欲しいんだと。」

「入学早々大変かもしれないけどごめんね。」

「はい、かしこまりました。」

 それから僕は桜月様が登校してから下校するまで授業時間以外を花壇を見張っていた。そこで分かったことがある。勝手に花を植えた犯人はおそらく授業中に植えられているということだ。帰りの車の中でそのことを桜月様に伝える。

「そうか、何時間目に増えたんだ?」

「申し訳ありません。花壇に近づく人を注意して見ていたので、どの時間に増えたかはわかりません。」

「では明日は花壇を見張る必要はないから毎時間花壇の写真を撮ってこい。」

「見張る必要はないんですか?」

「授業中であるなら見張ったところで現場を押さえられないだろ。なら何時から何時の間に植えられたかで誰が植えたのかがだいたい絞れてくるはずだ。それも複数回ならばその時実行可能だった人間なんかでほぼ特定できるだろう。それに君も入学して早々、毎時間どこかに行っているおかしな人と思われたくないだろ?」

「その点に関して既に私の現状を考えれば十分におかしな人だと思うのですが。」

 今の僕のステータス借金持ち、女装メイド、女子高通い、二度目の高校一年生ということを考えればおかしな人どころか危ない人と思われかねない。残念なことに桜月様というか十六夜家に借金をしてしまったのは事実で僕は仕えるという選択肢しか持ち合わせていない。たぶん借金取りに追われる生活を送るよりもましなはずだと信じている。

 ちなみになぜ女装メイドで女子高生かというと桜月様の学校での補助という建前のもとその実桜月様が面白そうだからという理由で僕に女装をさせて女子高に通わせている。それでもというかむしろ生活という面でいえば仕える前よりも充実した毎日を送れている。屋敷に住み込みで働いているから住まいはもちろん、三食質の高い食事、無理のない仕事内容(ただし労働時間はブラック)何か不満があるなら自分の時間がほとんどないことぐらいだ。

「いや、君はまだおかしい人ではないさ借金のために十六夜家に仕え学校で私の付添人をする勤労少女じゃないか。そこにどんな秘密を抱えていようとね。いや、メイドが主とともに学校へ通うというのは少々異常かな?」

「どのみち私には選択肢など選ぶことが出来る道など他に存在しえないので3年間異常だろうがおかしかろうがあなたに仕えますよ。」

「ま、まあ君には私を楽しませてくれると期待しているからな。そのぐらいの心持でなければ困るさ。決して偽りだとばれるなよ鬼灯。」

 あなたがつけたこの名前が十分僕の偽りを疑うのに十分だと思うんですが。いるんですかね女子に鬼灯の名前を付けるような人。音は「ほずき」であるとは思いますが漢字にすると鬼の字入ってますよ。


 張り込み2日目、正確には今日から花壇の写真を撮って教室に戻る作業になる。ちなみに僕は完全に新しい友達づくりの波に乗り遅れることになった。おまけに毎時間どっか行ってる人という認識までされた。

 唯一の救いというかその原因というか桜月様の付き人として学校に通うということは学校からは認められているということだ。偽名で性別を偽るという僕だが学校へはなぜか普通に通えている。というのは僕がこれから新たに通っていく学校、才華女学校は昔はお嬢様校として立ち振る舞いなんかを良家のお嬢様に女性らしさを教える学校だった。が、時代が進むにつれそういった学校は受け入れなくなっていき今でいう女子高の形になったらしい。その時の名残で基本的に付き人は申請すれば同行できることになっていたりクラスの分け方が少し特殊になっていたりする。

 僕と桜月様はSクラスで主に成績上位者や良家の人で構成される、進学を目的とした特進クラスのようになっている。残念なことにSクラスにいるためには全校400人の上位60人の中に入り続けなければならず付き人の僕もその例外ではないようだ。一応メイドにされた時期が高校2年生から3年生になる春休みだったからかろうじて3年生までは大丈夫だろう。

「で、何か変化はあったか?」

 2日目の昼休み僕は桜月様と昼食を食べていた。

「はい、どうやら4時間目に植えられた花が増えたようです。」

「少し見せてみろ。」

 桜月様が僕の持っているスマホに手を伸ばしてくる。だけど、スマホを渡す際に手が滑ってしまいスマホを落としてしまった。

「あっ。」

 手から落ちたスマホは机に落ちそこから床へバウンドし他の昼食をとっているクラスメイトの机の方へ滑って行った。

「はいこれ。画面に傷とかないみたいでよかったね。」

「あ、はい。ありがとうございます。」

「あと、この写真。」

「写真ですか?」

「私もこれ気になったんだよね。なんかお花で文字みたいなの作ろうしてて楽しそうだなって。」

「文字ですか?」

「うん、文字昨日写真撮ったからちょっと待ってね。えーとはいこれ。」

 ボブヘアのクラスメイトの少女はスマホを横にしてこちらに画面を見せてきたが、暗くて画面が見えない。

「ね。カタカナでリミみたいに見えるでしょ?」

 そういってスマホを自分のところへ戻すと

「あ、ごめんね。これじゃ画面暗くて見えなかったよね。はい。これで見える?」

 今度はちゃんと画像が見える。花が夕日で少し長い影を作りそれらがなんだかLのような形と直線が1本それと漢数字の三のように横に直線を三本引いたように影が出来ている。花壇の残りのスペースと中途半端に花が植えてある箇所からいってあと、3,4文字は作れるだろう。

「あ、本当だ。影でなんか作ろうとしてるね。」

「でしょ。あ、お昼ご飯の途中だった。じゃね。」

「あ、はい。」

 進学クラスにもああいう人っているんだなぁと思いつつ自分の席に戻る。桜月様は僕がスマホを拾っている間に昼食をすませたらしく早く画像を見せろと目で語っている。

「ずいぶん楽しそうに話しているように見えたな。さ、画像を見せろ。」

「桜月様、それよりも面白い話を先ほど聞いてきました。」

「ほう、それは花壇が関係あるのか?」

「はい、関係あります。そしていたずらではなくもっと意味のある行為であると推測できる内容です。」

「花壇の花で正確には花の影でアルファベットを表していたようです。」

「何て書かれてる?」

「まだ途中のようで。リミのように見えると言っておりましたが実際に見てもらえた方がいいかと思います。」

「なぜお前には気づけなかった?」

「時間帯だと思います。夕方まで残ってはいなかったので。」

見せられた花壇の画像のように影で文字を作るというのはたぶん時間帯での影の伸びを計算していないと上手くいかないと思う。陽が傾いた方が影が伸びる。それだけ花1本で長い線を表すことができる。きっと今のところは影の伸びなんかをみて調整しているといったところだったからそれほど植えられていなかったのだと思う。

「なら、今日は少し待つか。初雪に部活に来てみろと言われているしな。」

「ベロニカさんには後で伝えておきます。」

残りの授業の間も写真を撮りに花壇へ行ったけど、花が植えられるということはなかった。

そして放課後、昼に桜月様の言っていた通りに初雪様の所属している部活園芸部の見学に行くことになった。園芸部の部室は外にあるから帰るときわざわざ階段の昇り降りがない分少し楽らしい。

「おい、初雪来てやったぞ。」

桜月様が園芸部の扉をノックする。すると中からはぁいと声がしたあとあいてるぞーと別の声がした。

「失礼します。」

 部室は真ん中に長机があり奥の角の方に教室で使われるような机が2つ、その反対側に棚のようなものがあり中にからの鉢やじょうろ、バケツにスコップがある。10人も入れば狭く感じる程度の広さだ。

「鬼灯ちゃんそんなに畏まらなくていいのよ。もっと気軽にこんにちわ~って。はい。」

「えと、こ、こんにちわっ。」

「はい。いらっしゃい。」

「なんだこの茶番は。それでそこにいるのが草間が部に入れたいと言っていたのか?」

 僕が初雪様に和やかな応対をされていると部室の中にいた面識のないもう1人がそう言った。部として成り立っているから部室の大きさから考えて部員は5人ほどでおそらくこのショートカットの人は部員なのだろう。

「私が言ってた桜月ちゃんはそっちの金髪のかわいい方だよ。こっちは桜月ちゃんの付き人で鬼灯ちゃん。」

「そうだったか。それは失礼。たった2人の園芸部へようこそ。草間の仲のいい知り合いというなら歓迎するさ。」

「2人しかいないんですか?それで部が成り立つのでしょうか?」

「もっともな質問だね。この園芸部が創立したときはもう少し部員がいたらしい。だがね、とりあえず何かしらの部活に入っておこうというような人が主だったようでね。草間が入学したころには3人程だったそうだ。もともと部にいた2人の先輩が抜けるととうとう草間1人になった。そこに私が草間と同じクラスに転校してきて部の存続のためにと誘われたんだ。おっと少しずれたね。この学校の部活動は作るときはいろいろ面倒だが存続は人が2人以上いればいい。」

「そうなんですか。」

「私たち3年生だからちょっと心配だったのよ。この部がなくなるとせっかくの花壇が雑草だらけになりそうじゃない。でもこれで安心ね、桜月ちゃんと鬼灯ちゃんで2人だし。」

「おいおい初雪、私はまだ入部すると決めたわけじゃないぞ。」

「桜月君だったかな。君と草間がどういう関係か知らないけども年上の先輩に対して呼び捨てはないんじゃないのか。」

「まあまあ、いいじゃない。そのくらい。エリちゃん私は気にしないわよ。」

「それでも後輩先輩としてのけじめはちゃんとしておいた方がいい。最低限口調は友達感覚でも呼び方は先輩やさんとつけるべきだ。」

 なんとなくだけど僕も桜月様の言葉遣いには少し気になるものがあった。使用人に対してはそれでもいいのだろうが、初雪様や他の教師に対しても同じような口調だった。高校生が若い教師に対して友達感覚で話すことはままあることだが、初雪様はそれと違い今のところすべての教師に対して同じ態度だ。そしてそれをとがめる教師もいない。十六夜家というものを僕はよく知らない。そこに理由があるのだろうか。

「そうかでは呼び方ぐらいは考えておこう。それであなたの事をなんと呼べばいい?」

「自己紹介がまだだったか。私は3年Sクラスの鏡絵梨香(かがみえりか)だ。」

「こちらも自己紹介がまだだったな。私は十六夜桜月だ。」

「申し遅れました。桜月様のメイドをしております。私は浅利鬼灯と申します。」

「まあまあ立ち話もなんだしそこに座って座って。」

僕たちは初雪様に促されるままに長机の席に腰を下ろした。僕が付き人ということもあり桜月様を上座に座らせる形となった。それも桜月様と鏡先輩が向かいに座る形で。鏡先輩は礼儀に厳しいようで、先程の桜月様の態度があってか少し機嫌が悪く見える。そんな空気を感じてか初雪様が少し明るめの声で

「えーと、せっかく来てもらったんだし園芸部の活動しましょうか。まずは花壇の花のことなんだけど。とりあえずは植えた人を探したいと思うの。」

「探してどうするつもりだ?」

「きっと植えた人には理由があるのよ。その理由を聞いてみないとね。」

「ただのイタズラとかじゃないのか?」

鏡先輩も相談を受け始めた時の僕らと同じくイタズラの類だと思っているらしい。でも、蓋を開けてみるとそれだけではないように思える。

「その植えられた花なんだがな、夕方になると影で文字を作るように植えられているようだ。」

桜月様が鏡先輩に言った。

「それって花壇を使ったメッセージって事?素敵ねせっかくだから見ましょうよ。」

 そう言って初雪先輩は席を立ち部室の入り口に向かっていった。その姿を見て鏡先輩それに続いてやれやれといった感じで桜月様が続いたちなみに僕はなぜか初雪様に手を取られている。

 園芸部部室から出てすぐ花壇には着く。たぶん目がいい人なら部室の窓からでも十分に見ることが出来るだろう。夕日の当たる花壇を見るとお昼のクラスメイト(ごめんなさい。ホームルームでクラス全員自己紹介があったのに名前覚えてません。)に見せてもらった画像と比べると三のようなものの左側を繋ぐような線ができていた。リミというよりもLIE、ライと読める。

 ドキッとした。日本語で意味は嘘をつく、欺くそれは女装をしてここに通っている。僕を指しているんじゃないのかと思った。そのことを桜月様も感じたのか目が合った。

「花壇のスペースとこの位置から考えてまだ半分程度といったところか。」

「LIEから始まる単語か。」

「そのままリエラとかの人の名前かもしれないわね。それにしてもなんのためにこんなことしたのかしらね。人に何かを伝えたいなら直接言えばいいのに。」

「みんなが草間のように素直にものを伝えることが出来ないんだよ。素直になりたいのになれない、気持ちを伝えたいのに伝えられないそんな感情を抱えているものだ。だからこそ物に想いをのせて相手に届けるんだよ。」

「まあ、そこが草間のいいところなんだけど。」

 どちらかというと遠回しな言い方とかをしていなかった。鏡先輩がそんな風に思うところがあるように言うと思っていなかった。ふと、かっこいい女性の方が乙女な一面があると漫画とかでありがちだなと思った。いえ、他意はありません。

「まあ、なんだ、そもそも人に意味を分かってもらう必要はないというタイプとターゲットがいてその人に意味を伝えるのが目的のタイプが考えられる。これは花壇に花を植えて単語を作っていると思われるからおそらく後者だろう。そしてターゲットへ仕掛ける側だが、相手と自分にしかわからないものを使って暗号のようにターゲットに気づかせる、相手の弱みを知っている人間がいると暗示させ自分に直接つながるヒントを残さない一方的なやり方。今の段階ではこの花ベゴニアに意味があるのか、嘘をついた何者かへの糾弾のどっちと判断できないが。」

 嘘をついた何者。やはり僕に対する警告なのだろうか。お前が男なのは知っているぞと。早かったなぁ僕の(女子)高校生活。これからずっとメイドなのかなぁ。ああ、その前に警察に突き出されるのかな。

「うーん。どうしようかしら。」

「これをやっている人の真意がみえるまではこのままの方が安全だとは思うが、さすがにそろそろ活動しなければならないというのもあるな。」

「じゃあ、来週まで待ってみてみましょうか。そしたらこの人が何を伝えたいのかわかるかも。」

「そうだな。そろそろいい時間だ。今日はこのくらいにして終わりにしようか。私が戸締りをしておく、先に帰っていてくれ。」

 鏡先輩がそう言うと僕、桜月様、初雪様が部室に向かう。鏡先輩はまだ花壇を見ているようで残っていた。

「桜月ちゃん、なんでこのやり方を選んだのかな?相手に伝えたいことがあるなら。他にもっと簡単で分かりやすい方法があると思うの。」

「やはりベゴニアに意味があるのか。いや、この文字が成り立つ条件は夕方で陽が傾いてからだ。少なくとも相手に関して言えば確実にこの時間に花壇を通る人間だ。私は部活動については詳しくないからそこから絞り込むことが出来ないんだがね。園芸部部室の窓からも花壇を見ていたがさほど人は通らないようだな。」

「そうねえ。花壇の影文字がわかるような人はほとんどいないんじゃないかしら。花は登下校の時に見えるって程度だしわざわざ近くまで来る人はいないと思うわ。」

「そうか。ほとんどいないのか。初雪たぶんだが、来週までにはこの謎は解決できるぞ。」

「本当?私には全然わからないわ。」

「難儀だな。」

 桜月様は最後僕が聞き取れるか聞き取れないか程度の声でそう呟きニヤッとしたように見えた。

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