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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コメディー集

男の僕がイケメンに声をかけられた件

作者: たこす

女の人からナンパされたことはありませんが、男の人からナンパされたことはあります(笑)

この物語はフィクションです。

「ねえ君、今からどう?」


 街中で声をかけられて、僕は固まった。

 今からどう、とは?


 頭の中が「?」で埋まる。


「あ、あの……」


 焦る。

 正直、人見知りが激しい僕にはどう応えていいかわからない。


 混雑した人通りを避け、裏道を通ったのが仇となった。

 いきなり、知らない男に声をかけられたのだ。


「かわいいね、君。何歳いくつ?」


 そう言いながら、声をかけてきた男が僕を壁に追いやる。


 ヤバい……。

 これは本格的に、ヤバい……。


「ぼ、僕、男ですよ……?」

「わかってるよ、そんなの」


 わかってるんかい!!


 目の前に迫る男。黒いYシャツに白い胸元をさらけだし、妙な色気を漂わせている。

 僕は震えながら、男の目を見つめた。

 細く、透き通った眼をしていた。顎はシャープで、ニヤリと笑う口元からは白い歯が見える。美男イケメン、というのはこういう人のことを言うのだろうか。


 少しタバコのにおいのするところが、ちょっとワイルドっぽさを感じさせる。


「あの、えと、ほんと困ります……」

「なにが?」


 そう言って、僕の首筋に手を添えた。


「ふあっ!?」


 思わずため息を漏らす。

 冷たい指先の感触が、僕の背中をゾクゾクとさせた。


「思った通り。君、こっちのケがあるだろう?」


 こっちのケってなんだ、こっちのケって。

 どっちのケもないよ。ていうか、なんか卑猥だよ。


「け、警察呼びますよ?」

「呼びなよ。呼べるもんならね」

「あ」


 気づけば、僕は両腕を押さえつけられていた。

 ものすごい力で、身動きすらとれない。

 絶体絶命のピンチ。

 いや、ピンチを通り越して、為すすべがない。


 男の顔が、ゆっくりと迫ってくる。


 ヤバい、ヤバい、ヤバい……!!


 僕は、それ以上直視できずに目をつぶった。

 男の息遣いが顔にかかった直後、「こらあっ!!」という声が横から聞こえてきた。


 その声に反応して、僕の両腕をつかんでいた手がビクッと震える。

 その一瞬のスキをついて、僕は男の手を振りほどき、思いきり突き飛ばした。


「だはぁっ!!」


 男は声を上げ、数歩下がると尻餅をつく。と、同時にその頭を駆けつけた女の人がパコンッと叩いた。


「痛っ」

「なにしてんのよ、あんたは!!」


 男が美男とするならば、女の人は美女とでもいおうか。

 絹の白いドレスに、赤いヒール、ストレートの長い髪が印象的だ。


「いや、この子があまりにも可愛くて……」


 男の言葉に、再度女の人がパコンッと叩く。


「あんたバカなの!? アホなの!? 可愛いからって、いきなり襲うの!?」


 ごもっとも。

 もっと言ってあげてください。


「襲ってないよ、ちょっとにおいを嗅ごうとしただけだよ」

「それを襲うっつうんだよ!!」


 女の人の渾身のゲンコツが、男の頭上に落下した。


「ぐえっ」


 男はうめき声を上げながら、白目を向いた。


「………」


 あまりの展開に、僕はただただ呆然と立ち尽くす。


「ごめんね、君。変なヤツに絡まれちゃって」

「い、いえ……」

「こいつ、可愛い男を見ると見境がなくなるの」

「はあ……」


 二人の関係がよくわからない。

 男のほうは要するに、アレなのだろう。見た目からではまったくわからないが。

 なら、この女の人は男にとってなんなのだ?


 不思議そうな顔で見つめていると、彼女はそれに気づいて言った。


「ああ、私たち別に恋人同士じゃないわよ」

「はあ……」

「なんていうか、似た者同士なの」

「はあ……」


 さっきから「はあ」しか言ってない。


「私、こう見えて男なの」

「はあ…………うええぇっ!?」

「んで、こっちは女」

「う、うえええぇぇぇっ!!??」


 待て待て待て待て、どういうことだ。

 いったい、どういうことなんだ?


 僕を襲おうとしたこの男が女で、目の前の女が男で……。


 なにがどうなってんの?


 くるくる目をまわす僕を見て、彼女……いや、彼が言った。


「ふふ、ほんと、あなたって可愛いわね」

「あ、いや、えーと……」

「私が襲っちゃおうかしら」


 その言葉を聞いて、僕はその場から全速力で逃げ出した。

 幸いにも、追ってはこられなかった。

 走りながら大通りへ出ると、立ち止まって大きく息を吸う。

 そしてため息とともに平常心を取り戻した僕は心から思った。


 美しすぎる男の姿をした女性。

 美しすぎる女の姿をした男性。


 世の中には、いろんな人がいるものだ。

お読みいただき、ありがとうございました。

たまにはこういう作品も書いていて楽しいです。好みはありますが。

ちなみに、僕はBLではありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました、とても面白かったです! 実は身近にありそうなお話… こういう系統のお話大好きです。 これからも頑張って下さい。
2016/06/02 19:24 退会済み
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