脱出
「出口はこの上か」
私はイースがいた部屋まで戻ってきていた。
ちなみに彼女は私の肩の上で九の字になって担がれている。
意識を完全に取り戻した際に私の肩から降りようとしたのだが、私がそれを止めた。
ここから出るときに私について来れず足手まといになられるのは御免だからだ。
ここら辺でいいか。
私は部屋のちょうど中央、イースの元いた場所まで来ると天井を見据える。
ここからの高さは目測だけでも50メートルはある。
私は自分の真上にあたる部分に数枚のお札のようなものが貼ってあるのを見つけ、そこに出口があったことを確信する。
そして、私はゆっくりと腰を落とした。
「飛行」
唱えると同時に私は地を蹴り、ものすごい加速力で一気に天井へと迫る。
蹴られた地面はまるで大きな爆発でもあったかのようなクレーターができていた。
このままでは天井に激突するだろうが、私は速度を落とさず、むしろ加速していた。
そして起こる骨の頭と天井の衝突。
普通のスケルトン程度の硬度ではこの速度で壁にぶつかれば確実にバラバラ、下手をすれば粉々になってしまうだろう。
だが私はただのスケルトンではないのだ。
スケルトンを超越したオーバー・スカル・エンペラーである私にとってこの程度の壁を破壊することなど造作もないことだった。
私の突撃を受けた天井は抵抗することなくガラガラと崩れ去っていく。
それでもまだ私は速度を落とすことなく飛び続ける。
崩れ去る天井の瓦礫など気にも留めず、まっすぐに。
500メートルほど飛んだところでようやく光が見えてきた。
この先には何があるのだろうか。
どこへつながっているのだろうか。
今日までとても長い時間過ごしてきた遺跡を私は去ってきた。
もしかするとこの先も同じような遺跡になっているのかもしれないが、それでも生まれてから一歩も遺跡の外へと出たことがなかった自分にとっては嬉しい反面、どこか少し寂しく感じてしまう。
見慣れた壁や床、数え切れないほど狩ってきた魔物さえ懐かしんでしまう。
「さらばだ、遺跡よ」
私は未だかすかに残る未練を胸中に収め、さらに速度を上げた。
前方にある光は次第に大きくなっていき、出口がもうすぐだということを私に知らせる。
そしてついに、私は光のあふれる外へと飛び出した。
初めて浴びる大量の光。
暖かく、心地のよい光。
初めてだが、これが人工的でない、自然の光だということはすぐに分かった。
そして眼前には日の光に照らされて輝く草原が広がっていた。
もうすこしこのまま飛んでいたい。
全身に日の光を浴びながらそう考えていると、何かが肩からするっと抜けて落ちていった。
ああ、私は何をもっていたんだっけ。
まあいい。
あとで拾いに行けばよいのだから。
そうだ、そのついでに存分に日差しを浴びていこう。
椅子にでも座りながら、全身で光を感じるのだ。
ん?
椅子・・・
あ、
やってしまった。
さきほど落ちたのはイースだ。
そういえば肩に担いでいたイースがいなくなっている。
やれやれ、まったく手間のかかる椅子である。
仕方がない、探しに行くか。
私は後ろ髪引かれる(骸骨なので引く髪はないのだが)気持ちを振り切って、イースが落ちていったあたりに目をやる。
そこには満身創痍で横たわるイースの姿とそれを取り囲む人間の男たちの姿があった。
なんとも面倒なことになってしまったな。
面倒だからイースはほっといて飛び去る、というのもいいがあの座り心地を味わえなくなるのは困る。
それにイースを囲んでいる男たちの下卑た表情を見れば次に彼女が何をされるのかは明らかである。
私の所有物に手を出そうとするなど、当然許されるはずがない。
死刑である。
余すことなく全員、死刑だ。
それではそろそろイースに手を伸ばし始めているので行くとするか。
楽しいお遊びの時間だ。