解析
私は現在、四つん這いとなった少女の上に腰掛けている。
少女が目覚めてから、「こちらのほうがすわりやすいです!」と自らこの体勢になったのだ。
そんな少女の尾を左手で弄びながら私は彼女に問いかける。
「おい、椅子よ」
「は、はい。なんでしょうか、ごしゅじんさま!」
「貴様の名はイヅナと言ったか」
「はい、そうです。それがなにか・・・?」
やはり、この少女、イヅナは先ほどの九尾で間違いないようだ。
私の予想通りである。
「今日から貴様の名は椅子だ。・・・いや待てよ、椅子だとあまりに直球過ぎて面白みにかけてしまうな。うむ、決めたぞ。貴様はイースだ。これからはイースと名乗るがいい」
「い、いーすですか。わかりました。きょうからわたしは、いーすです」
「うむ」
思ったよりもイースは改名をあっさりと受け入れた。
もとの名に未練を感じていないのだろうか。
私は彼女の名が解析によってどう表示されるか気になり、解析の魔眼を発動させた。
イース[九尾](Lv277)
HP:14450/14450
MP:74000/74000
攻撃力:4490
魔法攻撃力:99800
防御力:5600
魔法防御力:67780
速度:6320
精神力:134720
装備 なし
スキル
「妖狐Lv7」「椅子Lv1」「僕Lv1」「炎魔法Lv5」「水魔法Lv5」「雷魔法Lv5」「風魔法Lv5」「氷魔法Lv5」「光魔法Lv5」「闇魔法Lv5」「爆撃魔法Lv3」「影魔法Lv3」「威圧Lv5」「魅了Lv7」「麻痺耐性Lv3」「睡眠耐性Lv2」「石化耐性Lv3」「毒耐性Lv4」「魅了無効」「炎熱耐性Lv3」「氷結耐性Lv3」
「これはおもしろいな」
名前が変わっていることもそうだが、九尾のスキルになにやら面白いものが加わっている。
「椅子」、そして「僕」。
私との一連のやりとりがどうやらイースに新しいスキルの発現をさせたようだ。
椅子のスキルが上がると座り心地がよくなるということなのだろうか。
だとするともしかしたら座っているだけでスキルレベルが上がるのかもしれない。
次に、僕のスキル。
これは一体何に関係するスキルなのだろうか。
私がそんなことを考えていると、イースのステータス表示の前面に新しい文字が浮かび上がった。
「僕」:従属者。自らの能力値、スキルを主人へと譲渡できるようになる。譲渡可能な能力値やスキルの量はレベルに依存する。レベルは従者の忠誠心によってのみ変動する。[追加効果]全能力値減少(中)
おお、これは!
スキルの解析もできたのか!
これでスキルの効果を確認することができるな。
そういえば、追加効果の欄にある、全能力値減少(中)というもの。
確かに、九尾のステータスを見たときに能力値の減少はしていた。
てっきり私に打ちのめされたショックか何かで減少していたのかと思ったが、どうやらこのスキルの影響のようだ。
なるほどな。
ひとまず気になるスキルだけ確認してみようか。
私が念じるとイースのステータスの上に新しい文字が浮かび上がる。
「妖狐」:高位の狐型魔物のみ取得可能なスキル。レベルに応じた妖術を扱えるようになる。[追加効果]MP上昇(大)、魔法攻撃力上昇(大)、魔法防御力上昇(大)、精神力上昇(大)
熟練度 Lv1 思念【100/100】
Lv2 念力【100/100】
Lv3 幻影【68/100】
Lv4 狐火【77/100】
Lv5 擬人化【40/100】
Lv6 結界【73/100】
Lv7 神通力【33/100】
「椅子」:椅子として生涯を遂げることを誓った者のみが持つスキル。レベルの上昇により座り心地が変化する。
これは。
椅子のスキルのほうはやはり思ったとおりのおもしろさ。
それはいい。
問題は妖狐のスキルのほうだ。
熟練度。
これによってレベルごとに使えるようになった力が見れるのだ。
これは素晴らしい。
私はこの数百年の間、自分のスキルをあまりよく理解せずに使用していた。
スキルはなんとなく分かるし、なんとなくでも発動するからだ。
だが、超越者。
このスキルだけはそのなんとなくが通用しなかった。
何が使えるのかも分からないので、スキルレベルもなかなか上げることができないでいたのだ。
なぜ、今まで気づかなかったのだろう。
もっと早くスキルの解析ができることに気がつけば私は更なる高みに昇っていたかもしれない。
そう考えると悔しさのあまり、無意識に左手で持つ尾をギュッと強く握りしめていた。
それに驚いたイースが声を上げる。
「んんっっ・・・。ごしゅじんさま、どうかなさいましたでしょうか??」
「おい、椅子が許可なく口を開いていいと思っているのか!」
そう言って私は左手から尾を放し、イースの尻に平手打ちをした。
「ご、ごめんなさい・・・」
私に叱咤されたイースは罰を与えられるとでも思ったのか全身を緊張させながらプルプルと震えている。
私が叩いた尻は赤く腫れ上がっていた。
それを見て、私は自分の愚かさを恥じた。
自分が考え至らぬせいで高みへと到達することが遅れ、更にはそのことを腹いせに物に当たるなど、なんと愚かな。
冷静になった私は先ほど平手打ちした部分にそっと手を添えると優しくなでた。
「すまない。痛かっただろう。どこか壊れてはいないか?」
その言葉を聞いてもイースは返事をしない。
先ほど私に怒られたため、口を開くのを躊躇っているのだ。
ただ、その目が「だいじょうぶです、ごしゅじんさま!」と訴えていた。
「私が話しかけたときは口を開くことを許可するぞ」
「ありがとうございます。わたしはがんじょうないすなので、だいじょうぶです、ごしゅじんさま!!」
「うむ。それではこれからも椅子としての働きを期待している」
「はいっ!がんばりましゅ!」
最後に言葉を噛んでしまったイースは顔を赤くしてうつむいてしまった。
なんともまあ面白い椅子である。
落ち着きを取り戻した私は、再度、自分のスキル、超越者の解析に入った。