使い道
ふむ。
これはどういうことなのだろう。
目の前で顔面を地面に突っ込んでいる少女。
彼女はいったい何者なのか。
九尾の姿が消え去ったあとに現れたことから何らかの関係があるとは思うのだが。
私は倒れている少女の元まで行き、ひとまず様子を見ることにした。
「やはり気絶しているようだ。ひとまずこいつが起きるのを待つか・・・ん?」
私は少女の体を眺めながらあることに気がついた。
おしりの上、ちょうど尾てい骨のあたりに尻尾が一本生えているのだ。
よく見ると頭の上にけもの耳のようなものもある。
なるほど。
なにか分かったような気がするぞ。
ということはそうだな、少しばかり遊ばせてもらうか。
私はくくくと不敵な笑みを浮かべて、作業に取り掛かり始めた。
「・・・んん」
まだ幼さを感じさせる少女の声が遺跡の中に響き渡る。
どうやら目が覚めたらしい。
「ここは・・・・て、あついっっ!!あちちちあちち!え、なんなのこれ!?」
宙に浮かぶ棒にロープでくくりつけられた彼女の真下にはゴウゴウと大きな炎が燃え盛っていた。
そのあまりの熱さに少女は堪らず暴れながら叫びだした。
「いやああああ!!だ、だれか!!たすけて!あついあついっっ!!」
「どうやら目が覚めたようだな」
「だ、だれかいるの!?はやくたすけて!わたし燃え死んじゃうよおぉ」
「それは素晴らしい。よく火が通って食べやすそうだ」
「え、あ、あなたはさっきの!?ひいいいいい!!た、たすけてだれか!こ、殺されるうう」
少女に声をかけたのは全身骨の魔物、スケルトンだ。
ただしその体から発せられるプレッシャーがただのスケルトンではないことを示している。
「だめだ。貴様は私が焼いて食べる。それはもう全身狐色になるまで火を通してな」
「いやだやだあああ!!ああ、あついよおぉぉぉ。な、なんでもするから!!たすけてくださいおねがいしますううぅ」
目に涙を浮かべながら必死に懇願する少女。
だがそれに応えるスケルトンの声は恐ろしいほど落ち着いていた。
「今の貴様には焼いて食べるか、なぶり殺しにして楽しむかくらいしか使い道がないのだ。いつもなぶり殺しばかりしていたから今日は違うことをしようと、狐の丸焼きを考え付いたのだ。邪魔はさせぬ。せいぜい楽しませてもらうとしよう」
「そ、そんなああ。あああ、おねがいしますうう。おねがいしますからあ」
少女の体は高熱に当てられてすでに所々やけどをしてしまっていた。
そんな少女を見かねて、というわけでもないだろうがスケルトンは腰を下ろしながら彼女に向かって口を開いた。
「では聞こう。貴様に何ができる?私にとってどんな役に立つというのだね?」
そう問われた少女は必死に答えを考える。
もしかしたらこれが最後かもしれない。
そう思うと少女の頭はなかなかいい答えを導き出せず、このままでは何も応えられないままスケルトンがしびれを切らしてしまいそうだった。
「ないのだな。ではやはり」
「ま、まってください!!わ、わかりました!いす!いすになります!わたしがいすになるのでどうかおつかいください!」
少女が苦し紛れに出した答えは何とも滑稽なものだった。
椅子。
なぜそんなことを言い出したのだろう。
おそらく先ほどスケルトンが地面にそのまま腰を下ろしたのを見てとっさにそれが頭に浮かんだからなのか。
何にせよそんなことで許されるはずがない。
少女もそう思ったのかすでに諦めかけているようにも見える。
「もう、おわりなのね・・・」
少女がつぶやく。
これが焼け死ぬ自分の最後の言葉かもしれないと思いながら。
少女がゆっくりと目を閉じようとした瞬間、スケルトンから一人つぶやくような声が聞こえた。
「椅子・・・。椅子か。なるほど。確かに同じ体勢ばかりで少々気にはなっていたところだ。このままでは腰の骨も痛めてしまいそうだからな」
スケルトンは顔を上げ、虚ろな表情の少女に向かって声を張った。
「いいだろう!貴様は今日から私の椅子だ!椅子として壊れるまで使ってやろう。ただし、私が満足のいかない椅子であったならば、即座に壊す。肝に銘じておくがいい・・・滝落し」
スケルトンが手をかざし、魔法の詠唱をすると、少女の上から大量の水が流れ出る。
それはまるで氾濫した川があふれ出すかのごとく、勢いを落とすことなくその水の暴力を叩きつけた。
「少々やりすぎてしまったかな。ああ、今度は溺れてしまっているようだな。今回ばかりは私が直々に椅子の調整をしようじゃないか」
そういってスケルトンは滝落しを解除し、地面に横たわる少女へと再び手をかざした。
「流転回帰」
スケルトンによって詠唱された高位の時空魔法によって少女の傷が巻き戻るように治っていく。
すべての傷が癒えると、そこにはもとの美しい体に戻った少女が横たわっていた。
「さてと。とりあえず目を覚ますまで座って待つか」
スケルトンはおもむろに少女に近づくと裸のまま仰向けになっている少女をうつぶせに倒し、その背中に腰を下ろした。
「うむ。なかなかの座り心地だ。この尾の触り心地も気に入ったぞ。これからはいろいろと楽しめそうだ、ハッハッハ」
スケルトンの高笑いをする声は薄暗い遺跡の中を響き渡っていた。