六発目:そのNINJA、人を煽る。
本人はこの程度の暴言は日常茶飯事だと思ってる。
――――一方、場内では。 混乱の極みに達していた。
それもそのはずであろう。 何せ、不審人物を捕まえたと思ったら爆破と同時に脱出され、何一つ情報を拾えず。
次の瞬間には国の魔法使いが全身全霊を込めて王城の床に書いた防御と防衛を兼ねた魔法陣で発動された魔法が無駄だったのだから。
国の英知の頂点として知られる魔法使いもこれには完敗である。 書き換えられるとは微塵にも思っていなかったのだ。
外からならまだ、気付いたであろう。 そういうように組んであるのだ。
しかし、その書き換えられたのは、内側からである。 完全に想定外であった。
王はその様子に酷く怒りを示し、怒号が飛び交い、調査が再開された。
だが、その爆破跡や書き換えられた後などをいくら調べようが、調べた兵士や魔法使いは口をそろえて、分からない、というのだ。
正確には――魔法で有るのはわかるのだが、その魔法が全くをもって分からない、といった状態である。
火炎に近い属性を持ち、爆発に近い指向性を持ったその魔法。
丹本人こそ何の気なしに使いこなしているのだが――――この世界に現存している魔法とは、全くを持って違う――その系統。
如何したものか、と、王が、魔法使いが、国が―――悩むのであった。
一方、丹は――――
「―――とうッ」
深夜の街をパルクールのような形で逃げ回っていた。
屋根を走り、煙突を跨ぎ、わずかな段差を捕まえ、上り、柵を超え。
なぜこのようなことになったのかというと、通路上には兵士が走り回っているのだ。 そう――王国の兵が。
逃げ出した丹にも問題はある。 だが、ここでつかまるわけにはいかないのだ。
そのNINJA染みた身体能力と、その姿。
音を立てずに走り動き回る彼の技術は、対人にて相手に動きを悟られないため。
ゲームの中のスキルという枠に囚われて居たはずのその技術は――本人を限りなく助けていた。
ある程度――逃げ、撒いたであろうか。
くるりと回るようにあたりを確認するも、見たことのないその街は何処が出口だかわからない。
松明であろう、日の明るさは遠くに見える。 近場には、無い。
ふう、と一息吐き、くるりと――あたりを見渡し、目に入ったのは時計塔。
王城よりは低く、あまり立派なものではないが。
煙となんとかは高いところが好き――という事なのだろうか。 その時計塔を目指し、一人、丹は、疾走する。
兵士はその、逃げ出した悪魔の姿が見つけられず、非常に、イラついていた。
軽鎧であるその皮の鎧。
内側に仕込んだチェーンメイルがガチャガチャと音を立て、寒さでその鉄は冷たくなり、体温を奪いゆく。
――そして、その悪魔の逃げ方も心情を荒立たせる原因でもあった。
現在兵士が悪魔について得ているその情報は、顔と髪、そして火使い、という情報だけである。
悪魔はそれを熟知しているのかどうか知らないが――ところどころ、見えにくいが――見つけられないわけでもないような場所に、赤い光を残していくのだ。
燃えているような、ちろりとした光。 それを見つけて奮闘し上ってみても、あるものは燃えている謎の塊のみ。
そして、時たま屋根の上に現れて手を燃やし、わざと見つかりに来るのだ。 そして逃げ出したかと思ったら――逃げ出しながら人を、あからさまにバカにしたような態度で、煽ってくるのである。
『犬ってーのはこんな足遅かったっけな?ああ、王国の犬は体が重すぎて走れないか!』
『おうおうもっと走れ走れw頑張ってこっちまでこいよ!』
『それ燃えカスだ!本物はこっちだぜ、無い頭動かしてちゃんと見つけてくれよ!』
鬼ごっこでもしているつもりなのであろうか。
しているつもりなのであろう、 実際、見つからない、と思った瞬間に高いところに出てきて煽ってくるのだ。
この鬼ごっこのような騒動を聞きつけ、深夜である町もまた、多少なりとも人が騒ぎ出してきたのである。
暗く、火をつけ明るくする家こそ少ないが―――ちらりちらりと、上着を着て、何事かと兵士に状況を聞き出す民間人も増える。
そろそろいい加減に殺害許可でもくれ、と、心底悩む一兵士が――――。
「ほらほらほらァ!ここだぜえ!よく見えるだろ無能共ォ!早く捕まえてみろよォ!」
――――と上のほう―――時計台か。 そこから発せられる音を聞きつけた。
そのあまりな言葉に――舌打ち一つを残し、足元を強く叩きつけ。
「モンキスみてーに飛び回ってばっかりで楽しいかクソ悪魔ッ!殺してやるから降りてこいよ!!」
思わず、叫ばずにはいられなかったのであった。
NEXT:七発目。 ストックなんて最初からなかった。 七日、朝の6時に投稿予定です、よろしくお願いします。