十発目:その拳、牢屋に戻る。
お手を覚えてもらいましょう。
――丹は、暗い場所で目を覚ました。
頭の後ろがずきずきと痛む。 一体何が――ああ、そうか。
あの銃撃してくる懐かしい感覚をした女の顎を殴り、脳震盪を起こして。
気絶しているところを路地裏に連れ込み脱がして――ってまるで強姦魔のようだ。断じて違う。
ただ体の暑いほどの体温と、その柔らかいのを堪能していただけだ。 吐き出される息が妙にエロかったとかは聞かれていない。というか誰も聞いてない。
次々と思い出される現実。 そしてぼうっとした頭で周りを見ても――誰もいない。 だが――
「また牢屋か……」
ぼそりと、響くその声。
そう、また牢屋である。
――だがその牢屋は、どちらかというと――水滴のような、鳥籠に近い形をしていた。
またかー、とぼうっと頭を悩ませる丹。
もう半ば脱力感のようなもので支配されており、周囲に何があるだというのはすでに見ていない。
起きたら何かわかるだろう、と――また寝ようと、掛けてあった布をかぶろうとして。
じゃらりとその音に、気づいた。
「首輪――と足枷、手錠ね。なるほどね。クソが」
ガツン、とその手錠で床を叩く。 こちらも冷たく、鉄でできているようだ。
今の丹には――足枷や手錠などの重さはほぼ無いに等しい。
それよりも重い装備を付けているのだから当たり前なのだが。
「あァもうクソッタレめイライラすんなあもうあーもークソが出せよ気持ち悪ィな」
だんだんと言葉遣いが荒くなっていく丹。
心象的には最悪で、台風も真っ青の荒れ模様である。
「まあ、拘束はしといて正解かなー」
イライラとしだして不快指数急上昇の丹に向かって、一つ声が飛ばされた。
逆光で顔が上手く見えない。
「はじめましてかね。 僕の名前はエリック。よろしく頼むよん」
その声と人影は高く、小さく。大人よりも二回りほど小さい 中学生くらいであろうか。
手を後ろにやっているのは警戒の表れなのか。左足の爪先を床にトントンと打ち付ける姿が妙に印象的だった。
「まあそう警戒しなさんなって。丹さん。僕たちもキミと似たような境遇だよ」
若干小さくはあるだろうその声は、シンと静まり返っていた部屋には妙によく響く。
子供特有のあのキンと張るような声もあるのだろうが、それにしては妙に聞きやすい。
「まあそんな驚いたーなんてわざとらしく目を見開くのもやめようね。目線がブレず、肩も動いていない。演技なのバレバレだよーう」
くすりと微笑。
その態度は丹を若干、苛立たせていた。
「まあそのまえーにー。 姫さんこっちに。一応暴れてはないみたい」
後ろに顔を向け、向こう側に他に誰かいるのだろうか、暴れることを前提の拘束だったのだろうか。
それでも向こうから丹への第一印象は最悪である。 なんといったって先制攻撃されたうえで殴られ気絶しているのだ。 そろそろ暴言を吐きそうな丹。
「はい。今行きますのでお待ちをー」
そう聞こえて数秒もしないうちに現れたそれ。
それは丹にとって最もイラつかせる要素となってしまった。
「――――ッ黙ってきいてりゃアなんだ?ここのあいさつは鉛玉を撃ちこんだ後に金属バットで殴るのがあいさつか?
ずいぶんと頭まで肉が詰まったような気持ち悪ィ挨拶だなじゃあ俺にも挨拶させろよ拳で殴るだけで済ませてやるッてんだよおうコラはよだせッてんだろおいこら紀伊店のか」
思わず口が出てしまった丹。
姫さんとよばれたそれの表情はうかがうことができない。――が、エリックと自己紹介したそのショタっぽいモノは返答をした。
「まあそれについては謝らせてもらうよ。ごめんなさい。これでいいでしょー、女の子殴った後大事なところとかいろいろいじっちゃってミト落ち込んでたんだよー。
まあミトのことはあとで謝罪してね。とりあえず――お話しよっか?」
まるで仕方がないとばかりに、マイペースに返答してくるそのエリック。
丹は――駄目だと、直観した。 丹にとってその返事は、自ら言い出した挑発――煽る行為が無駄だと言っているのと同義だったからだ。
もともと丹は相手を怒りで目いっぱいに怒らせた後、その真白で読みやすい思考の裏をかいて行動するようなタイプだ。
一番苦手なのは――マイペース。 その仕方がない、という態度で貫く彼らを、怒という感情を表まで引っ張り出すには――少々難しい。
「―――ッあァもう。てめーは、ドロッドロの嫌ァな感じしかしねえ、キライだ。 ――その要件とやらを聞いてやるよ、話せ」
ガリガリと頭と首筋を掻いて――一つ大きなため息を吐き出す。
それでも足りないのか頭をガリガリと音を立てて掻きながら、その言葉を吐き出した。
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※大事なお知らせで御座います。多少更新ペースが、落ちます。※
正確には2日に1回か2回。
執筆できた量と相談しながら放出していきます。 よろしくお願い致します。
そして皆様ポイント有難うございますッ!10ポイントという数字を見た瞬間ガッツポーズを取るほどの嬉しさでした。
ユニーク200にPVもそろそろ1000という大台を突破しそうでございます。
皆様重ねまして本当に有難うございます。 これからも見てやってくれれば幸いです。よろしくおねがいします。