一発目:その拳、異世界に届く。
対人系なクズっぽくもうざったい主人公をよろしくおねがいしたいです……。
「――――さて」
明瞭になっていく意識。先ほどまで考えて居たコトを思い出しつつ、ゆったりと手を構える。
インターフェース上に浮かび上がる相手の名前。
その背後でパラパラと裏表反転するように展開され構築されゆく、所謂闘技場というそのステージ100メートル程で有ろうか。中心に女神の像を置いていて円状をしている以外には、何の変哲もないステージだった。
[ 丹 vs 回復と飛び道具を撃つお仕事 ]
苦手なんだよなあ、と思考の片隅に置きつつ、相手がステージ上に転移され、ステージの反対方向に現れる。
カウントダウンが開始され、距離を詰めようと、片足を下げ――――
[ Fight ]
刹那。
小さく息を吐き、それは動いた。
ゲームの仕様として、まずパッシブ―――常時発動とされるスキルには、クールタイムが初期化された状態で開始される。
移動スキルとしての「瞬動」。 発動した瞬間、百メートルという距離はあっという間にほぼ0へと転化される。
近接戦闘を主にするそれにとっては、まず距離を詰めなければ何もできない。
「おうチート技揃えて対人とはwつよしょくちゅう楽しんでるかーw」
相手にはっきりと聞こえる、大きな声。その言葉で相手煽りつつも、その間に右手に仕込んだ飛び道具としてのナイフを投擲したモーションの後退を利用し相手の近接技を回避。
そして足に火炎を纏わせつつ、踵を地面に打ち付ける。
それは爆発を意味する火炎だったようで、派手に爆破しつつ足元の土と石を巻き上げる。
巻き上げた刹那、相手と思わしき影に向かって思い切り拳を――――
後退。
瞬動ではなく、体をずらしつつのバックステップ回避。
「クソが」
ただの回避としてもコンマ数秒として無敵時間が存在するそれで直撃するのを避けた物は、矢。
足元に突き立てかけられたその矢は、移動不可の状態異常が付与されたオーラを纏っていた。
舌打ちをしつつも瞬動。
再度距離を詰めようとした先に、先に射っていたのだろう。強いノックバックが付与された弓にあたってしまう。
衝撃を受け、吹き飛ばされる。
一回転した先に足に力を入れて無理やり体を起こし、そして瞬動。
移動した刹那、構え連続で殴るも防御されつつ、相手がバックステップ中にスキルによってふわりと浮きあがる。
何本連続で射ったのだろうか。
何十本という弓が上から降り注いでくるのを、腕を組み、ガードしつつ突撃していく。
――――着地。
その瞬間を見計らって突き出した足は、見事に相手の腹を捉えた。
吹き飛んでいく相手に向かい、瞬動。
相手にとっての眼前。自分にとっても、目の前。 そして、思わず浮かべてしまったその口元の笑みも、はっきりと、見えたであろう。
「チートとイケメンは絶滅すべし――慈悲はない」
呟き、手に火炎を纏わせる。
一発目。蹴った場所と同じ場所に抉るように、下から上へ、一発。
二発目。右から左へ、ややななめ上に、顔に一発。
三発目。左から右に。逆方向へ一発。
四発目。浮き上がった顎に追撃するように、一発。
五発目。思い切り飛び上がった相手に対して、2段ジャンプからの――――上から下へ、全力の、足。
「まあ、瞬動なんてチートみてーなスキル使ってる俺も、仲間だけどな」
――――相手が動画を止めたかのように静止し、パリン、とガラスが砕けるような音と、
[ Winner! 丹 ]
勝利を、残した。
「おへえ」
一言。
勝利した次の瞬間、就寝時と似たようなスッと意識が飛ぶ感覚を覚え、気づいた時には王城の壁の上。
壁に腰かけた状態でフッと戻った意識は、思わずふらりとめまいのような感覚を覚え、遥か下に位置する地面へと飛ぶところ寸前で、一声を吐いて止まった。
「……――あー?」
ぼうっとした意識の中で、風を意識する。
眩暈が這い寄る意識の中で、ふと、その異常に気付いた。 ――――気付いてしまった。
「……は?」
目の下に広がる風景は、ゲームだったころよりも、密度に溢れ、人が、闊歩していた。
NEXT⇒2発目。
10発目くらいまでは1日1話掲載で御座いますの。 それから1週間に1度くらいのペースへ変更。




