第二十六話 魔王城のある谷II 『BOSS BATTLE ASTERTE』
なんかまたしても調べて出てこねぇ!!
って人が居たので一応オススメBGMをば。
ポケ◯ンORAS VSヒ◯ナ
ワイルドアー◯ズ2 ロード◯レイザー戦
F◯6 妖星◯舞
とかかなー……今回は。
冷えた風の吹き荒ぶ峡谷、積み重なる死屍の中、相対するは一対二。
しかし不利であるはずのその人影は、ただただ不敵に笑うのみだった。
男にも女にも見える、中性的なその風貌。本来見る者を穏やかにさせるであろうその柔和な笑みは、今や不安と恐怖の対象としてただそこに在る。
アスタルテ・ヴェルダナーヴァ。帝国最強の戦闘者集団"書陵部"の頂点にして、図抜けた能力を持つ魔導司書のリーダー。彼が持つ神蝕現象は一つ。彼女の使役する神蝕現象は九つ。最強の、その体現。
「……さあ、始めようか」
――神蝕現象【四肢五体分かつ暗き刻限】――
背後に漂う様々な魔導具の中から一つ、アスタルテの手元に引き寄せられるようにして動いた軍刀。響く祝詞はシュテンの知らない神蝕現象。
「古代呪法・車輪転装ッ……!!」
「……やるっきゃ、ねぇか」
手元の武器を切り替えるユリーカと、鬼殺しを抜くシュテン。
彼ら二人はただただ前衛。対多に優れていようと、対人に特化していようと。目の前の強大な敵は、おそらくそう簡単にあしらえるようなものではない。
そう考えたからこそ、ユリーカが取った武器は強弓であった。
背後からのサポートに徹し、シュテンが前で奮闘する。
その形態を、彼らはとった。
「ほぉう……」
"車輪"……魔王軍最強の前衛が、他の者に前を託したその光景にアスタルテは目を細める。だが、それ以上のリアクションはない。車輪が前を譲るほどに優れた前衛と、車輪のサポートがあるという本来絶望的な状況を前にして、アスタルテが動じることは一切ない。握った軍刀の刃渡りとその光沢を確認し、ただ佇むのみ。
「魔王さん呼ぶこたぁ出来ねぇのか」
「……今の魔王様はあたしより弱い。アスタルテに殺されることは絶対にないけど、アスタルテには勝てないわ……」
「使えねえトップだなおい。……魔力充填中ってか」
「逆。魔力を常に使わざるを得ない状況になってるから、むしろ魔王様の作業が終わるまではあたしたちが露払いをしなければいけないの。本末転倒よ」
「……それはそれで、嫌な予感しかしねえなあ」
盛大なため息を一つして。
シュテンは、アスタルテと目を合わせた。
「やるかい?」
「……前に出て、斧で叩っ切るしか能がねえもんでなァ!!」
抉れ、弾け飛ぶ地面とともにシュテンはアスタルテめがけて突進した。
同時にユリーカは自慢の翼で空中へ。アスタルテよりも幾ばくか高いところから、その強弓で大量の矢を放つ。
上と正面。双方向からの同時攻撃に、アスタルテは一度目を閉じて。
あっさりと軍刀を手放した。
「なにっ!?」
いつの間にか握られているのはオカリナ。
つまり、次の攻撃は――
――神蝕現象【大文字一面獄炎色】――
アスタルテが音色を奏でると同時、彼の周囲から吹き出る大量の炎。まるでそれは生きているかのように踊り狂い、ユリーカとシュテンに差し迫る。
「オカリナ女のッ……!?」
「ぐっ……!!」
空中、地面、或いは地中。明らかに伝導体が乏しいところであろうが縦横無尽に駆け回る魔素の炎。そしてシュテンは瞬間的に気が付いた。この神蝕現象には、日輪系の魔素が含まれていることを。
「ユリーカァアアアアア!!」
「っ……!! 車輪転装ッ……!!」
獲物に食らいつく蛇のように、四方八方から襲いかかる獄炎。
ユリーカは自前の飛行能力を駆使して徹底的にそのすべてを回避しながら、手元の弓を長槍に切り替える。
「はああああああああ!!」
限界まで引き絞られた体から放たれた、先端が燃え尽きるのではないかという速度での長槍。それはあらゆる炎の壁を突き破り、アスタルテの脳天を直撃せんとつっこんでいく。
しかしユリーカの周囲に炎は残ったまま。シュテンはユリーカの近くにまで跳躍し、すべての炎を大斧の風圧でまき散らした。
「追われながら攻撃できんのはさすが車輪ってとこだけどよ……お前死ぬ気かよ」
日輪系の魔導は、近くに居るだけで堕天使の翼を灼くほどの弱点。それを分かっていながらどうして、と振り返れば、ユリーカは小さく笑って言った。
「だって、シュテンが守ってくれるから」
「……ぁー、そうかよ。……行くぞ」
「うん!」
呆れながらも、気分は悪くない。
着地し、シュテンはユリーカの放った槍の突き刺さった場所をみやる。
クレーターが形成された中心に長槍はあった。しかし、アスタルテに刺さった様子はない。彼は相変わらず悠々と佇んでいた。先ほどより、人一人分ほどずれた場所で。
「思っていたより、息があっているみたいだね。まさか自らの身を考えずに攻撃してくるとは思っていなかったよ。……なら、方法を変えるだけ」
――神蝕現象【四肢五体分かつ暗き刻限】――
再び手に取るは軍刀。
すらりと目映い光沢を放つ銀閃に、言いしれない凄まじい魔力を感じて――シュテンは思わずその場から跳躍した。
瞬間、今までシュテンが居た場所に、その地面にくっきりと刻まれる大量の軌跡。まるで地面が切りつけられたようなその跡に、自らの選択が正しかったことを知る。
「しらねえヤツの神蝕現象ってのは……厄介だなオイ……」
「……閃」
「っ!?」
呟かれた言葉と同時に放たれる膨大な魔力。向けられた軍刀に危機感を覚えてさらに跳躍するシュテンだが、ふわりと感じた風に違和感。その瞬間。
「がああああああああああ!!」
「シュテン!?」
迸る剣撃の嵐。突風のように突き抜けたそれはまるで鎌鼬。
風にふれた左腕をずたずたに切り裂かれ、ぼたぼたと血が指先に伝う。
「……筋はやられずに済んだか……かー、いってぇ」
「……閃」
「これ以上は洒落にならんわボケェ!!」
軍刀の刀身にかすかに漂う幾何学模様のオーラ。あれが放たれる度に大量の剣閃となって襲いかかるのだとシュテンは瞬く間に目星をつける。
アスタルテの向ける軍刀の矛先から身をかわし、そのまま懐に潜りこまんと突撃。合わせるように空を舞っていたユリーカが弓を携え大量の矢をアスタルテに向けて放つ。
――神蝕現象【大いなる三元素】――
アスタルテの周囲に三つの球体が現れる。
シュテンの足下に叩きつけられた赤の球体と、放たれた矢を刈り取るように迸る白の球体。増幅の緑はアスタルテの肩付近で輝き、ユリーカの弓矢は全て魔素となって散る。シュテンの足下は盛大に炸裂し、バランスを崩したシュテンは地面を転がって勢いを殺す。
「うそっ……!」
「オラァアアアア!!」
矢が消滅したことに目を丸くしながら、しかし更なる矢をつがえるユリーカ。
シュテンはそのままアスタルテに攻撃を加えようとして――
「ずいぶんと荒削りだが、我流かな?」
「ぐっ……」
――神蝕現象【清廉老驥振るう頭椎大刀】――
膨大なオーラを放つ大薙刀によって、その振り降ろしが阻まれた。
さらにこの大薙刀はデジレのものと同じだ。つまりは、オーラにふれているだけで魔素を削り取る魔族にとってのチェーンソー。
「がああああああああ!!」
たまらず距離を取るシュテンに、アスタルテは笑う。
「神蝕現象が一つではないと、こういうことも出来る」
「っ!?」
シュテンが驚くより先に、アスタルテは。
「先ほどのお返しだ、車輪」
その大薙刀を、音を置き去りにする速度で投擲した。
「ユリーカッ!!」
「大丈夫っ……えっ……?」
車輪転装で持ち出したカトラス二刀でその大薙刀を弾こうとして、投擲されたそれが放つ凄まじいオーラに気付く。しかし気付いた時にはもう遅い。
カトラスが大薙刀にふれた瞬間に、その刀身がびきびきと音を立てて文字通り崩壊する。シュテンの鬼殺しのような魔導具ではなく、ユリーカの純粋な魔力で精製された武器であるから余計にダメージの浸透率は尋常ではない。
おまけに大薙刀が放つオーラがユリーカの身体を削らんと、その間にも侵攻してくるのだ。そうでなくともアスタルテの尋常ではない膂力から放たれた大薙刀だ、簡単にカトラス二刀は崩壊する。
「う、そ……」
「ユリーカッ……!!」
自分に出来ることは何だ、とシュテンの脳内は一瞬で計算する。
投擲した状態のアスタルテは無防備だ。今切りかかれば殺せるかもしれないし、或いはシュテンの攻撃を防ぐ為に新たな神蝕現象を繰り出し、あの大薙刀は消滅するかもしれない。
はじき出した計算に間違いはない。
シュテンは迷うことなく、アスタルテに斧で殴りかかった。
――神蝕現象【四肢五体分かつ暗き刻限】――
がきん、と金属同士がぶつかり合う音。シュテンが両手で振り降ろした大斧を、あっさりと片手の軍刀で受けるアスタルテ。
ことは全て上手く行った……はずだというのにも関わらず。シュテンの表情は、ひきつったままだ。
背後から、大薙刀の気配が消えていないのだから。
「……いつ、同時に二つ使えないなどと言った?」
「ふざけろ……テメエ……!」
振り払われた軍刀によってシュテンは弾かれ、飛び下がる。
そしてユリーカの方を一瞬確認して……シュテンは息を呑んだ。
「……おい……」
ユリーカは、無事だ。
空中で、呆然と浮いたままだ。
大薙刀は、確かに腹に突き刺さっていた。
誰の?
こんなところに、上空に、あっさり現れることが出来る男は、この場に一人しかいない。空中に開かれたゲートは、明らかにユリーカを庇える位置。
「……なに、してんだバーガー屋……!」
意識してもいないのに声帯が震える。
吐かれた言葉は何の捻りもないただの疑問。
ふざけ上等のシュテンらしくもない、そんな。
「……れ……くるす……?」
「へへ……ユリーカちゃんを……庇えるんなら……満足でさ……」
ユリーカは、目の前で大薙刀に貫かれた男を見て、シュテンと同じように呆けた声を出してしまっていた。彼の恰幅の良い腹から突き出た、銀の刃。
自らの体を削る勢いで放出されるオーラの中で尚、そのまま突き進もうとする大薙刀の柄を握りしめて押さえながら。
ユリーカを振り返る表情はどこまでも穏やかで。
「へっ……こいつが一番やべえ武器だってのは……俺にも分かってたんだ……だから、こうしてやる……」
「ま、待って……待ってよレックルス!!」
「待ったらユリーカちゃんに怪我させちまう……そいつぁ、ファンとして許しがたいんですわ」
レックルスの足下に、黒い渦が現れる。彼が生み出したゲートであることは誰の目にも明白で、レックルスは大薙刀だけは絶対に離すまいと、オーラによって掴んだ手をずたずたにされながらも、それでも尚意地を見せつける。
「じゃ、足手まといは消えますわ。……四天王が……情けねえなぁ……」
するり、とレックルスは落ちていく。
大薙刀を道連れに、ユリーカを庇えたことを誇らしげに。
ゲートの向こうがどこに繋がっているのかなどは分からない。
だから、それでもユリーカは精一杯叫んだ。
「レックルスッ……!!」
ゲートはあっさりと消滅する。
まるで最初から無かったもののようにして。
「……大薙刀が持っていかれたか。精製には時間がかかるんだが……仕方がない」
未だに八種の魔導具を浮かせながら、アスタルテは特に感慨も浮かべず呟いた。
その声に反応し、ユリーカがゆっくりとアスタルテを振り返る。
「……許さない。絶対に……レックルスの為にも……お前をッ……!!」
車輪転装。バスターソードを精製したユリーカは、そのまま上空から直下アスタルテめがけて飛びかかった。
だが。
「……神蝕現象を同時に使える。それがバレてしまった以上、僕も手加減する理由はない。きみたちは僕が思っているよりもよほど強かったよ」
「馬鹿にしないでッ!!」
「馬鹿になんてしてないさ――」
――神蝕現象【大いなる三元素】――
――神蝕現象【四肢五体分かつ暗き刻限】――
――神蝕現象【大文字一面獄炎色】――
「――全力で、お相手しよう」
「化けもんすぎるだろテメエ!?」
空中に漂う三つの球体。
握るは軍刀、吹かずとも鳴り響くオカリナ。
襲いかかる炎の大蛇を大斧で弾き飛ばし、突風吹き荒れる剣閃をステップで回避、そうして尚炸裂する赤の球体と、ユリーカの武器を無効化する白の球体が縦横無尽に駆け回る。
「ラスボスじゃねえか!!」
「何を言っているんだ。僕は人間の頂点……英雄だよ」
「ふざけろドチクショウが!!」
シュテンはそれでも回避に専念し、近づこうと必死で戦う。
だが、ユリーカは白い球体にぶつかれば武器そのものが消滅してしまうというハンデを背負っての戦いだった。歯を食いしばり、車輪転装を駆使して弓や槍を投擲する。
しかし、忘れてはならなかった。
ユリーカとシュテンは過去帰りで、数時間前までラシェアンで死闘を演じていたことを。
「あきらめて帰ってくれませんかねぇ!?」
「それは、無理な相談だ。現に僕は今有利だからね」
「クソ正論死ね!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎながら、シュテンは疲労を誤魔化してアスタルテの神蝕現象に食らいつく。清廉老驥振るう頭椎大刀が封じられているのは、せめてもの救いと言えた。鬼殺しが壊れる可能性は消えた、それだけで十分だ。
だがユリーカは、違った。
「っ……!!」
「おい、ユリーカ!!」
バチバチ、とカトラス二刀に稲妻が走る。
魔導に疎いシュテンでもはっきり分かる、あの現象は。
魔力切れだった。
「……このままじゃッ……!!」
深く息を吐き出して、ユリーカはそれでも空を舞う。
これ以上の車輪転装は無理だと踏んで、彼女は一番使いやすいカトラス二刀を選んだ。だが、その瞬間シュテンと打ち合っていたアスタルテの表情が変わる。
「ふむ、好都合だ。そろそろ締めと行こうか」
「締め……!?」
嫌な予感が、シュテンの頬を伝った。
その瞬間、三色の球体が……つまりは大いなる三元素が消滅する。続いて炎もその姿を消した。第十席と第八席、その二人の神蝕現象を消して、シュテンと軍刀で戦いながら、アスタルテの吐いた言葉。祝詞。
その言葉に、シュテンの背筋に寒気が走った。
――神蝕現象【天照らす摂理の調和】――
「ユリイイカアアアアア!! 逃げろおおおおおおお!!」
「知っているようだね。ヤタノには、あまり神蝕現象は人前で使わないように言っているんだが」
軍刀を持つ左手とは逆、右手に番傘を握りしめたアスタルテは、ユリーカを一瞥すると番傘から純魔力を放出した。その瞬間、"偶然"引き起こされた自然現象が怒濤のごとくユリーカに襲いかかる。
「ヤタノ・フソウ・アークライトの神蝕現象は少々特殊でね、僕では七割程度の力しか発揮出来ないんだが――」
「あああああああああああ!!」
「――七割もあれば、十分すぎる」
落雷、岩雪崩、竜巻。しかしそのどれも、ユリーカの実力ならかわすことが出来るだろう。だが……
偶然、地下帝国に日光が降り注いだ。
「ユリーカあああああああああああ!!」
気付けばシュテンの足はユリーカの方へと向いていた。
跳躍し、日の光からかばうことくらいならシュテンでも出来る。
翼を灼かれ、空中で悲鳴をあげるユリーカの元へ、早く。
そう思っているのは当然、アスタルテにも読まれている。
「行かせるはずがないだろう? 魔力が乏しくなった彼女なら、車輪転装で盾を出すことも出来ない。せっかく待っていた魔力切れなんだ、この機会を逃したくはない。それに……僕とてヤタノ・フソウ・アークライトの神蝕現象は多用したくないんだ。体は人間だからね、ダメージが厳しい」
「知るかよ!! どけコルァアアアア!!」
「焦れば事を仕損じる。僕にとっては、ちょうど良いが」
疲労のたまったその足で、ユリーカの元へと駆け寄ろうとしたその瞬間襲いかかる大量の剣閃。完全に無防備であった背中に、無慈悲に刃が斬りつけられる。
「があああああああああ!!」
地面にもんどり打って転がったシュテン。
「ぁ……っ!!」
痛みに耐えきれず墜落したユリーカは、それでも運が良かったのかシュテンの近くにあった死体の山が落下地点だった。
ぼろぼろになりながら立ち上がるユリーカだが、しかしそこに"偶然"落石が起こる。
「纏めて死ぬといいさ、二人とも」
シュテンが起きあがろうとするも間に合わない。ユリーカの翼ではもう飛べない。
「ご、ごめっ……!!」
自分がシュテンの近くによってしまったから。だから彼まで巻き添えにするのだと、ユリーカは痛みと悔しさに涙をこらえながらそれでもシュテンを助けようとよろりと立ち上がる。だが、もう時間は無い。
眼前にはすでに迫る大量の岩石。峡谷の上から降り注ぐ、"偶然"の産物。
ゆっくりと目を閉じ、アスタルテが身を翻したその時だった。
「第十四攻性魔導・冥月乱舞!!」
周囲に響きわたるその声と、黒き大量の奔流に消し去られた落石群。
「なにっ……?」
あわてて振り返るアスタルテと、呆然と硬直するユリーカ。
そして、その声のした方角を振り返るシュテンは、声を震わせながら、それでも口にする。
「なんっ……で……おまえ……が……?」
ひらりと舞い降りたシルエットは、あのときより幾分か老けて見えるがまだまだ壮健そうな30前半。自信に満ち溢れた表情は昔と同じ。真一文字に結んだ口が、一歩一歩前に歩んでくると同時に開かれる。
「古き友の窮地と聞き、参上したよ――」
アスタルテを睨み据え、その膨大な魔力を弾けさせてさわやかに叫ぶ、その闘志。
「――この、ボクがね!!!!」
アスタルテの瞳が驚愕に見開かれ、ユリーカの瞳に涙が溢れる。
再会は絶望的だと思っていた。
時が友を引き裂くと思っていた。
それでもなお、彼は笑って現れた。
「……なぁんで忘れてたんだろうな。ユリーカちゃんとシュテンの顔見たら思い出したんだ。お前らがきたら導師を呼ぶようにって……導師自身から言われてたことをよ」
「れっ……くるす……なんで……生きてたの……!?」
その背後から、腹に包帯を巻きながらよたよたと現れたのはもう一人。
先ほど大薙刀と共に消滅し、死んだかと思われていた現代の友人。
目を見開くユリーカに笑顔でサムズアップして、シュテンとアスタルテに向き直る。
レックルス・サリエルゲート。
アスタルテが油断し、その瞬間にあの男が現れたことに説明をつけるには、レックルスを他においてないだろう。だが彼の言葉に引っかかるものを感じたシュテンは、生きて戻ってきたレックルスに問いかけた。
「……導師?」
「ああ、とある契約の元……ボクはこうして長い時を生きることができた」
その問いに応えたのは、レックルスではなく。やはり、あの時の、数百年前の友人で。すう、と息を吸い込んで、シュテンに笑いかけた。
「導師シャノアール・ヴィエ・アトモスフィア! 旧友シュテンの危機と聞いて、推参!!」
「は……はは……なんっだ……そりゃぁ……」
乾いた笑いを押さえきれない。
気付いていた。あの時よりも凄まじい、尋常ではない魔力を秘めている目の前の男に。二百年の間、彼が生きていたことの証明。
導師という二つ名が示す、歴史の変換。
シュテンとユリーカは、過去改変をやり遂げたのだ。
そして、やり遂げたからこそ彼が居る。
シャノアール・ヴィエ・アトモスフィアはここに居る。
「……何故だ。死んだはずでは……運命の糸は、確かに……」
「アスタルテ・ヴェルダナーヴァ。友人と……孫娘同然の子をよくもここまでしてくれたね。ここからは、このボクが相手をしよう。あの日彼らに助けられ、今こうして生きている、このボクがね。必ず、すると決めていたんだ。シュテンくんに、必ず」
何を、との疑問を発する余裕は、アスタルテにはない。
死んだはずだ、確かに。そう自らの混乱する脳を押さえながら、それでも目の前の敵が強大であることを理解して。
アスタルテは、冷静に深く呼吸して。
「いいだろう、かかってくるといいさ。僕も、シャノアール・ヴィエ・アトモスフィアなら相手にとって不足はない」
「それは、光栄だ」
大量の魔導具を背後に控え、アスタルテは豪語する。
相対するシャノアールは、一つ拳を握りしめて、ぽつりと呟いた。
「さぁシャノアール、準備はいいか」
あの日助けられた恩人は、同じ時を生きてはいなかった。
けれども、友と認めた相手に報いず死ぬなど、男がすたる。
だから待った。
だからこの日を待っていた。
命を繋ぐすべはあった。であればもう、待つ他ないだろう。
彼の産声を、彼との出会いを。
親愛なる友に、報いる瞬間を。
「二百年間待ちわびた――」
ようやくだ。
ようやく、その時が来た。
シャノアールは笑って前を向く。
「――恩返しの時間だ」
まどうししょ の アスタルテ が しょうぶ を しかけてきた !▼
(専用BGM『二百年越しの友情~BOSS BATTLE ASTERTE 2nd STAGE~』)




